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#今日の天気 ~僕の空~

すこんと突き抜けたような空を、半分ほど枯れた草むらにあおむけになって見ていたら、
ひとつだけ、やたらと猛スピードで流れていく雲を見つけた。
その雲は、そんじょそこらの雲と違って、まるでどこかへ向かう意思を持っているように見えた。
どこに行くのだろう。
何だかずいぶん、急いでいるようだ。

僕は、寝転んだまま、視線だけを動かして、その雲の行方を追った。
雲はみるみる遠ざかってゆく。
それから小さな点になり、やがて完全に見えなくなった。

僕は目を瞑った。
地面すれすれの高さにまで、わずかな風がふいているのが分かる。
僕の少し伸びすぎた前髪を遠慮がちに揺らしている。
土三、太陽三、草四の割合で調合された、自然の匂い。
昨日よりも、少しだけ、土の匂いが濃く感じるのは、昨夜遅くに降った雨が理由だろう。
僕はこの匂いが、とても好きだ。


ここは、とても静かだ。
何年かあとには、ここには市の下水処理場が建つらしいけれど、とりあえず今は、
誰からも放ったらかしにされている空き地だった。
立ち入り禁止の看板を無視して、ぎざぎざの鉄条網を、服を引っかけないように
気をつけてくぐり抜ける価値は、じゅうぶんにある。
ここは、僕がこの街に来てから、はじめて見つけた、居心地のいい場所。
誰にも邪魔されない、僕だけの秘密の場所。

何だか、眠くなってきた。

もうそろそろ5時間目のチャイムがなる頃かな。今日は木曜日だから、確か、国語。
教室は、何だか全てが窮屈で、つまらない。
小さな諍いや、意味のよく分からない校則の中で、僕は時々、息苦しくなる。
そして、何でもいいから大きな声で、叫んでみたくなる。


「・・・・さん?」
急に名前を呼ばれて、僕は慌てて顔を上げた。
途端に僕は現実に引き戻される。
そう、ここは会社。そして今は、大事な会議中だった。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないです」


・・・ただ、今日も天気がいいなと思って。
最後の言葉は、心の中だけで呟いた。
この会議室も、あの頃の教室と同じくらい窮屈だけれど、唯一、窓が大きくて空がよく見える
ところだけは、僕のお気に入りだ。

早く会議が終わらないかな。
僕は欠伸をかみ殺し、また少年の日の青空の下に、帰っていく。
こっそりと。

*****

楽しそうな企画を見かけたので、参加してみました。こういうの楽しいですね!

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yotsuba siv@xxxx
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