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湾岸線

スピードメーターはすでに100キロにさしかかっている。
まだアクセルを踏み込みたい衝動をこらえながら、僕はただ車を走らせる。
初めは小さな光の点に過ぎなかった、イルミネイトされた観覧車が、右前方に見えてくる。

今日の照明は青色。
ということは、明日は雨の予報が出ているということか。

僕はちらりと視線を左側に向ける。
助手席に座っている彼女は、窓の方を向いていたけれど、ガラスに映った表情はさっきからずっと険しいままだ。
唐突に僕は、初めてこの観覧車に彼女と二人で乗った時のことを思い出す。

「この観覧車の照明はね、明日の天気によって色が変わるんだよ」
「そうなの?」
「赤は晴、緑は曇、青は雨」

その日の観覧車の照明が、何色だったのかは、もう忘れてしまった。
でも、彼女があの時、目を輝かせて僕の話を聞いていたことは、覚えている。

「乗ってみようか」
こう言い出すまでに、どれくらい時間がかかったのだろう。
キャビンの中で二人きりになった途端、会話が途切れてしまい、ぎこちない沈黙の中で見た夜景。こんな状況にぴったりな言葉がみつからなくて、僕は彼女にキスをした。彼女はなにも言わず、ただはにかんだ笑顔を浮かべたっけ。
あの時の心地よい沈黙と、今の二人を包む車内の沈黙は、全く別のものだ。

「お腹すいてない?」
そうたずねた僕自身、それほど空腹な訳ではなかった。
彼女は顔を僕の方に向けただけで、返事をしない。

観覧車がちょうど真横にきたとき、僕は小さな抵抗をするように、一瞬だけアクセルを緩めてみた。
彼女はやはり、何も言わない。
彼女が僕の言葉に目を輝かせることは、もう二度とないのだろう。
僕は再びアクセルを踏む足に力をこめた。

青く光る観覧車は、他の景色とともに、みるみる後方に流れてゆき、やがてサイドミラーからも、


消えた。

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yotsuba siv@xxxx
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