フジノヤマイ(2/3)
ぼくは学級委員のタカハシの顔を思い浮かべた。
タカハシは、女子のくせに、クラスでいちばん背が高い。国語の本読みが上手で、毎朝の計算テストもたいてい1番に解答を終えるし、先生からも頼りにされている。
算数が苦手で、国語も新しい漢字が出てくるたびにつっかえつっかえするぼくは、それがちょっと面白くない。
タカハシのことを、クラスの女子が「モデルみたいだ」とちやほやするのも気に入らない。
ちなみにぼくは、タカハシのまゆ毛は太くてまるでゲジゲジみたいだと思っている。
一度タカハシにそう言ったら、思い切り足を蹴飛ばされたけれど。
大人しそうな顔をしているくせに、結構ボウリョク的なのだ。
痛いだろ!と文句を言ったら、あいつはぼくの弟がするみたいに、あかんべえをしやがった。
タカハシは、頭はいいかもしれないけれど、まだまだ中身は子どもだ。
今朝、タカハシは、何とかというブランドのワンピースを着て登校してきていた。お母さんが昨日買ってくれたんだという。
教室では、女子がタカハシをとりかこんで、「かわいい」「にあう!」を連発していた。話を聞いていると、何かの雑誌でモデルが着ていた洋服と同じものらしい。
口々にほめられて、照れながら、でもまんざらでもなさそうに笑っているタカハシの顔を見ていたぼくは、何でだか分からないけれどむしゃくしゃしてきた。
それで、つい言ってしまったのだ。
「何へらへらしてるんだよ。全然似合ってないじゃん」
なによ。ひどーい。
女子はぼくの言葉に一斉に反発し始めた。
「うるさいなあ。そんな服は、モデルとかゲイノー人が着るから似合うんだよ。タカハシが着たって、同じようになれるわけないだろ」
黙ってぼくの言葉を聞いていたタカハシが、女子の輪をすっと抜けてぼくに近づいてきた。
ぼくは、ほっぺたを引っぱたかれるんじゃないかと身構える。
けれど、タカハシは何も言わず、ぼくの横をすり抜けた。そしてそのまま自分の席に着く。
取り残された女子と、拍子抜けしたぼくは、どうしていいか分からなくて顔を見合わせる。
ちょうどその瞬間に、始業のチャイムが鳴った。
「チャイム鳴ったから。みんな、席に着いて」
座ったまま、学級委員らしく、タカハシが言った。