【おはなし】穴の中の君に贈る #毎週ショートショートnote
賑やかなネオンライト。鼻をつく悪臭が常に漂う。そんな場所に若者たちが夜な夜な集まってくる。
かつてのオレも家を飛び出してここにたどり着いた。
酔っ払い、喧嘩、薬物、売春などなんでもありの場所だ。だけどオレは他の奴らと違うと常に思っていた。
金も人脈もスキルも無いけれど、まだやれると心に熱いものを持っていた。
しかし大人たちは言う。
同じ穴のむじなだと。
それから数年後、オレは会社を立ち上げ従業員も雇えるようになった。
それでも時々ここに来て若者たちを観察する。目に力のある、生命力のある奴がいると安心するんだ。
年の瀬も迫った寒い日、飲み会の帰りにまた訪れた。酔い覚ましのコーヒーを飲みながら広場を眺める。気温にそぐわない薄着の若者が一人、周りを見回している。
身なりに清潔感は無いが、なにか堂々とした雰囲気だ。
オレは吸い寄せられるように若者に近づき、ポケットの中のカイロと自分の名刺を渡して言った。
「話聞こうか?力になるよ。」
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今週も、たらはかにさんの企画のお題に挑戦させて頂きました!いつもありがとうございます!