【おはなし】タイムスリップコップ #毎週ショートショートnote
カランカラン
男が入ってくると何とも言えない匂いが店の中を駆け抜ける。
マスターはカウンターの端に男を案内した。
特等席だと満足げだが、キッチンの換気扇の下だと気付いているのだろうか。
残り二枚になったコーヒーチケットを出し、一枚もぎってカウンターに置いた。
マスターは俺に水を汲んで男の前に置く。
男の話は決まって過去の栄光だ。
バブル時代の大成功。
あの頃が一番幸せだったよ。もう人生も終わったも同然だな。
俺から水を飲んだ人間には、過去の経験を夢で見させる事ができる。
そんなに言うなら、「一番幸せだった時の夢」を見せてやろうじゃないか。
お父さん!チロが呼んでますよ!
……幸子?足元に愛犬を連れた元妻がこちらに笑顔を向けている。
あぁ…こんな日もあった…
数日後、男がやってきた。
目に力がある。
最後のチケットをカウンターに置いた。
マスター。しばらく来られそうにない。まじめに働いてみるよ。
マスターはコツンとオレを指ではじき、親指を立てた。
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