知らず、19ニチ
「ぷりんちゃん、めちゃくちゃ歌上手いね……」
彼は目をまん丸に見開き、そう言った。
彼が3曲ほど歌ったあと「じゃあそろそろ私も」とマイクを握り、十八番のLove so sweetを歌った時だった。
ワンフレーズ目を歌った瞬間から彼は「!?」という反応をしていた。
「そうかなぁ?」
「俺、大学のサークルでギターサークル入ってたから色んな人の歌聞いてきたけど、その人たちと比べ物にならないくらい上手いよ」
褒め上手か。ちくちょうめ。
深夜0時、私は気になる彼とカラオケにいた。
基本的に彼に歌わせ、気分で時々私が歌い、そのたびに「上手いなぁ」と彼は零していた。
彼との距離は1m半くらい。同じソファに座っているのにすごく距離を取っていた。
私も隅っこに座ったというのもあるし、彼も気を使っていたのだろう。
正直、もう彼とは付き合うなと思っていた。初めて顔を合わせた時のあのビビっと感がなんなのか、私はわかり始めていた。
ピロン
スマホに通知が。ふと見ると驚くことに、あの男から連絡が来ていた。
「ぷりんちゃん、久しぶりです。会えませんか?」
それは2週間前に出会った須賀健太似の大学生であった。私からは連絡しないから!と言い終わったと思ったら連絡してきたのだ。
「どうしたの?」
彼が聞く
「あーいや、ちょっと性癖をぶつけた男から連絡が来て、、どうしたものか、、」
「後悔するといけないから、会いたいなら会った方が良いんじゃないかな」
その彼の発言は結構好印象だった。
ずるい私は気になる相手が異性と会おうもんなら
「辞めといたら?」なんて言ってしまうだろう。彼との距離は1m。
「俺、仕事と恋愛で仕事を優先してこっちに来て結構後悔があるから、次の恋愛は絶対仕事より相手を優先しようと思ってるんだよね。もう後悔したくないから。でも、今はこうしてぷりんちゃんに出会えたから良かったけどね。」
素敵な考えだ。口説き文句も最高である。
「いや、この人とはもう連絡取らない。もう会わない。これからあなたと会って行こうと思うし。」
私の精一杯のアプローチだ。
彼が戸惑っていたが、少し嬉しそうにも見えた。
「本当にいいの?」
「うん。でも1つ聞きたいことがあるの」
「何?」
「私の事、セフレとか都合のいい女にしたいと思ってたりする?そこは確認しておきたい」
ドストレートに聞いてしまったが、もう回りくどい会話はしたくなかった。まっすぐ彼を見つめる。
彼は驚いた様子だった。
「こんなに可愛い子をセフレにだなんて思えないよ……」
「セフレとかワンナイトとかそういうのは、こんなに可愛い子とするもんじゃないよ……俺はゆくゆくは付き合っていく流れだと思ってる。」嘘偽りない眼で彼は言った。
深夜2時、彼との距離は50cm。
彼の真剣な表情を見ていたら、吸い込まれてしまいそうだった。時の流れは一定なのに、自分達だけ違う世界に溶けて、ゆっくりと時間が過ぎていくような感覚だった。
恥ずかしくて黙ってしまう。
手をモジモジとさせていたら彼もモジモジしながら「手、小さいね」と声をかけてきた。
「そうね、小さめかも」
手のひらを広げる。
「俺は結構平均サイズかな」
手のひらを広げる。
重ねる。
握る。
世界で1番時がゆっくり流れる。
「ぷりんちゃん」
「うん」
「キス……しない?」
「……うん」
彼との距離は0cmになった。
続きはまた今度
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