9/7(火) おうち残業スタイル
帰宅して晩御飯を食べた後、私の仕事は再び始まる。いわゆる持ち帰り残業というやつだ。
安心してほしい。もちろん残業代はもらっている。しかし、どれくらいの残業代が出ているのかを答えるのは難しい。
なぜなら我々の残業代は目には見えない「やりがい」だからだ。
まさか自分の労働力が「やりがい」と交換できる代物だとは思わなかった。
ああ、ありがとう我が職場。私はきっとここで働くために生まれてきた。
ところで、「やりがい」は何と交換できるんだろうか。「やりがい」はいつかのために貯めておけるんだろうか。
いいか。残業代はカネで支給しろ。絶対だ。
帰宅後は1分たりとも働きたくない。それが本音だ。
だが、私は沈みゆく泥船に乗っている。この船をできるだけ穏やかに沈没させるためには安全な場所にたどり着くまでオールを漕ぎつづけるしかない。止まるわけにはいかないのだ。
これがサービス残業に甘んじる一労働者の心のうちである。私がやらねば誰がやる、そういう気持ちにさせてしまえばこちら(どちら?)のものだ。
泥船の乗組員である私にはお決まりの「おうち残業スタイル」がある。それは、ヘアバンドで顔にかかる髪の毛をすべて後ろにもっていくオールバックスタイルだ。
このスタイルになるとなぜだか気持ちが切り替わりやる気が出てくる。
受験生が「合格」と書かれたハチマキを頭に巻くのも同じ理由かもしれない。私はそのような受験生を漫画以外で見たことがないが。
仕事を終えたら「おうち残業スタイル」を解除し、普通の女の子に戻らねばならない。なお、ここでは「女の子」の定義については議論しない。
おうち残業スタイルで仕事をした後、ヘアバンドを外すとどうなるか。髪の毛がサラサラッとこぼれおちて元の姿に戻る?
残念ながら、そううまくはいかない。
神聖な自宅に仕事を持ち込むという罪を犯した人間が簡単に普通の女の子に戻れるはずがないのだ。
ヘアバンドを外した後も「おれたちはまだやれる」と言わんばかりに髪の毛は後ろ向きの形状を維持する。
もういいんだ、髪の毛よ。おまえたちはもう後ろ向きじゃなくていい。前を向いていいんだ。
そう言い聞かせながらブラシでとかしても髪の毛は頑なだ。後ろ向きでいたいという彼らの意思は普通の女の子に戻りたいという私の意思よりもずっと強いらしい。
諦めた私はオールバックのまま眠りにつく。これが私のおやすみスタイル。いい夢が見れそうだ。おやすみ。