昇華 ~@onefive live 2023 -NO15EMAKER- Overground~
「変わり続ける」という決意に満ちた宣言とともに@onefiveがメジャーデビュー後2度目のワンマンライブをおこなったのは、2023年4月のことであった。それからグループは2つのフィジカル作品と1曲のデジタル楽曲をリリースし、5月から9月にかけては東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪など多くの場所でリリースイベントを開催してきた。フェスやライブイベントへの出演もコンスタントに続き、新たな配信番組のスタートや地上波テレビ番組で取り上げられるなど音楽活動以外の動きもあった。
そして2023年12月21日、濃密な8ヶ月ほどの時間を過ごしたのちに、@onefiveは再びワンマンライブのステージに立った。場所は4月と同じくEX THEATER ROPPONGI。ライブのタイトルは『NO15EMAKER Overground』である。
◇大阪・東京の2公演からなるライブの"前編"として11月に難波でおこなわれた『NO15EMAKER Underground』。noteの記事に書き記したようにそのラストの衝撃は強く、僕は伏線を回収する意味で六本木のライブでは何かしら特別な演出があり、答えが提示されるはずだという期待を勝手に膨らませていた。だが、『Overground』のオープニングは想像していたよりもずっとシンプルなものであった。
開演前の舞台には大阪公演のラストで登場した過去の衣装たちが吊り下げられており、会場が暗転すると、映像と音楽が流れ始めた。映像は大阪公演とは異なっていて、トラックは過去の楽曲のコラージュ的なもの。そこにはあの大阪のラストで披露された楽曲(@onefive公式Xによれば曲名は「このままじゃ壊れそう」)の一部も含まれていた。やがて重たい闇を切り裂くファンファーレのように「Justice Day」のコーラスが鳴り響き、過去の衣装たちは暗い地下から陽の当たる場所へと登るように舞台の天井に向かって引き上げられて行く。そして@onefiveの4人がひとりずつ、力強い足どりで舞台に進み出て、ライブはスタートした。
「UndergroundからOvergroundへ」という言葉を想起させるその演出は、時間にするとおよそ2分~3分ほどであったろうか。過去の衣装、未発表楽曲の一部という前後の繋がりを示す要素はあったものの、物語が殊更に強調された訳でもなく、その後のライブ本編で演者の口から何かが語られる訳でもない。パフォーマンスが始まってしまえばそこには肉体と精神が生み出す質の高い表現への感動と、その表現と一体になって楽しむ興奮だけがあり、それは公演の最後まで変わることはなかった。
◇つまり、自分たちがどのようにしてUndergroundからOvergroundへ進化したかという答えは、ただ今日のパフォーマンスを見てもらえれば分かる。そんな@onefiveチームの自信が伝わって来るような気がして、僕はこの日のライブをとても潔く、清々しく感じた。公式に発表された東京公演のセットリストは以下の通り。
まず目が行くのは「Mr. Gorgeous」、「ショコラブ」の2曲だ。1ヶ月前に難波で「F.A.F.O」を初披露したばかりというタイミングだが、この六本木のライブでは更に2つの新曲をパフォーマンスしてみせた。「Mr. Gorgeous」は「Like A」を彷彿とさせるキュートで軽やかなナンバーで、歌詞の中に様々な"色"が次々と登場するのが印象的だった。終盤MOMOにスポットが当たり、彼女らしいあざとさたっぷりのアクションで「ピンクがいいな」という台詞を放つパートでは、初見にもかかわらずフロアから大きな歓声が沸き起こった。
「甘いだけじゃないバレンタインの歌です」という紹介から披露された「ショコラブ」はその言葉どおりビターでアダルトな、@onefiveの表現にまた一つ新しい抽斗が加わったと思わせる新機軸の楽曲だ。世界的なトレンドであるラテン・ヒップホップのテイストにゴシックな雰囲気を纏わせたトラック、口元を拭うような仕草や赤色系の照明に浮かび上がる妖艶な表情など、4人にとってチャレンジだったであろう表現も違和感なく演じ切り、パフォーマーとしての懐が更に深くなったことをはっきりと示す。
2023年4月から12月の間に@onefiveがパフォーマンスを"初披露"した楽曲は実に9曲。それぞれに個性的なサウンドクリエイターたちが手がけたトラックはどれも異なるタイプのものだったし、振り付けに携わったコレオグラファーも6人を超えた。現場の数が明らかに増えている中ハイペースで新曲をリリースし、しかも気心知れたチームに留まらず外部のクリエイターと積極的にコンタクトしながら形にして来たことは、彼女たちが表現者として着実に成長している証しだと思うし、純粋にもっと評価されて然るべきであるとも思う。
◇そして、この1年ほどで@onefiveがパフォーマーとしてどのように成長し、どんな表現を手に入れてきたかを最も端的に顕わしたのは、やはり「F.A.F.O」のパフォーマンスではなかっただろうか。「F.A.F.O」についてはライブ後の12月24日にダンスプラクティスムーヴィーも公開されたが、そのダンスは速い・激しいだけではなく、繊細で柔らかく、しかも複雑だ。高速のBPMに乗せて情報量の多いダンスを一本調子でなくめりはりを付けながら魅せていく振り付けの素晴らしさと、それを自分たちの表現に落とし込んで滑らかに演じる4人の実力が、この動画を観ると良く分かる。
もちろんライブ本番では決して踊るのに最適とは言えないステージ衣装で(特にフットウェア)、歌いながらのパフォーマンスとなるのだが、難波から1ヶ月の鍛錬によって六本木での「F.A.F.O」は更に完成度が高まり、余裕を持って演じられていた。特に印象的だったのは4人の表情の多彩さで、この速く激しく繊細で複雑なダンスを歌いながら踊り、しかも表情の演技で豊かなアクセントと親しみやすさを加えていくのは見事だった。また、見る限りでは序盤にSOYOとKANOのイヤモニにアクシデントが発生していたようだったが、歌やダンスがぶれることはなく、4人のパフォーマーとしての地力が分厚くなっていることを感じさせた。
**余談になるが、「F.A.F.O」は雑誌BUBUKA(2024年2月号)でRHYMESTER宇多丸氏の連載に取り上げられた。楽曲のベースとなっているジャージークラブは2000年代のはじめ辺りからプレイされているジャンルであるが、ここ数年のクラブシーンでリバイバルしている中、NewJeansなどがトラックに用いたこともありアイドル/ガールズグループ周辺でも俄かに注目を集めている。この記事では同じくジャージークラブ楽曲の私立恵比寿中学「BLUE DIZZINESS」と並んで取り上げられているし、個人的には2023年ずっと注目していた(そして@onefiveとの共演を望んでいる)AMEFURASSHIの「SPIN」がジャージークラブ+ディープハウス、「F.A.F.O」がジャングル+ジャージークラブという対比も面白い。**
◇大阪と同じく過去の楽曲はリミックスによって新たな命を吹き込まれ、ライブを一気に盛り上げる新たな武器となった。この日は「雫」、「Lalala Lucky」、「まだ見ぬ世界」の3曲が一つのメドレーとして披露されたが、レパートリーが増えるに連れてこのような形で演じられる楽曲も多くなっていくのだろうし、それはワンマンライブごとにスペシャルなアレンジが生まれ、表現の可能性が拡がることに繋がっていくだろう。一方でアンコール1曲目にパフォーマンスされた「Just for you(缶チョコRemix ver.)」が描き出すハートウォーミングな時間も、ライブでの定番となりつつある。
メジャーデビュー以降の楽曲はセットリストの中でそれぞれの意味合いを持ってより鮮明に存在感を放っていた。「Cnance」はパフォーマンスのギアを一段上げる持ち札として盤石の強さを見せ、「Last Blue」では演技的なダンスとしなやかな歌唱で4人の表現力の幅広さを堪能できた。中盤に披露された「Justice Day」にはフロアの空気を一気に変える(アゲる)エネルギーがある。ダンスパフォーマンスが生み出す熱狂を最大値まで引き上げることの出来る楽曲でもあり、今の@onefiveを代表する一曲になったと言っていいだろう。
「Like A」はC&Rやダンスのコピーを浸透させた結果、"みんなで楽しめる楽曲"に育ったように思う。熱を保ったままフロア全体の楽しさが加速していく「Like A」→「TAP!TAP!TAP!」という終盤の流れは素晴らしかったし、fifth(@onefiveファンの呼称)がメンバーと声を揃えて歌う「SAWAGE(Re-rise LIVE ver.)はライブ本編のクライマックスに相応しい感動と幸福感でフロアを包んだ。そして「未来図」はアンコールの2曲目(難波での「Ring Donuts」の位置)に、「わたしたちが描く未来図を信じて下さい」というこの日最も力強いメッセージと共に披露された。
◇『NO15EMAKER Underground』についての記事で考察はしないと書いた手前もあるし、そもそもそういう事が得意ではないのでほんの少しだけにしておくが、今回の2つのライブでUndergroundとOvergroundを繋ぐストーリーがあったとすれば、大阪と東京に跨る「このままじゃ壊れそう」の演出と、(それぞれのパフォーマンス前のMCを含めて)「Ring Donuts」、「未来図」の2曲だったのかも知れないな、と今になって思う。大阪の「壊れそうな時もあったけど、皆さん(fifth)がいたからここまで来れた(意訳)」という言葉からの「Ring Donuts」~「このままじゃ壊れそう」の披露。そして東京のオープニングを経て前述のMCと「未来図」、という流れに注目してみると、@onefiveがこの2つの公演を通して伝えたかったことがなんとなく想像できるような気もする。
僕の妄言は置いておくとして、意味を穿つことを抜きにすればこの日のライブで感じた核心はとてもシンプルで、(繰り返しのようになってしまうが)それはパフォーマンスの質と強度が向上して表現の幅が格段に広がったこと、そしてよりライブ感を増した"楽しさ"の共有だ。大阪公演で見た@onefiveは1ヶ月で更にアップデートされ、そして『NO15EMAKER Overground』は、2023年に彼女たちが挑んで来たことの集大成としてのライブだった。最終盤、MOMOがフロアに投げかけた「私たち、進化してたでしょ?」という自信に満ちた言葉もそれを示していたと思う。
◇KANO、SOYO、GUMI、MOMOの4人は間違いなくこの1年でパフォーマーとしてめざましい進化を遂げた。素晴らしいのは、4月に「変わり続ける」ことを宣言し、それに正面から向き合い、様々な新しい表現や新しい試みに挑戦していく過程で、必然として彼女たちが大きく成長したという事実だ。変わり続けることに果敢に挑んだ結果として、彼女たちは表現者として見事に昇華したのだ。
これは4月の『Chance×Change』について書いた記事からの引用であるが、このライブを観てから今までずっと、僕の目に映る@onefiveはいつも楽しそうで活き活きとしていた。タイプの異なる楽曲、癖や個性が全く違う振り付け、初めての現場、初めてのコミュニケーション。自由度が増した代わりに責任やプレッシャーも大きくなっていったに違いないが、僕が見る@onefiveはいつも楽しそうで、色々なことに挑戦をし、そして僕の期待を上回る姿を見せてくれた。もちろん表に出していない血の滲むような鍛錬や深い葛藤、迷いや悩みが、氷山の水中に隠れた部分のように、楽しそうな彼女たちの土台を形成していることも、よく分かっているつもりだ。この1年の4人の奮闘と、努力の結晶として生まれた素晴らしい表現に僕は心から拍手を送りたい。
現在の@onefiveは最高の@onefiveであるが、きっとそれはすぐに更新される。まだ見ぬ世界はどんどん広がっていき、想像もしないような色彩や起伏を、驚きと感動と共に僕たちに感じさせてくれるだろう。2024年も、必ず。
(2024年1月5日)
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