@onefive・アット・やついフェスティバル(2022.06.19)
6月19日(日曜日)、やついフェスティバルで@onefiveのパフォーマンスを観た。2022年2月(大阪)と3月(東京)に念願であった初の有観客単独ライブを実現させた@onefiveは、その後、上半期の時間を幾つかのフェスへの出演に充ててきた。5月には大阪で『SUPER MAWALOOP OSAKA 2022』に出演し、6月は名古屋の『SAKAE SP-RING 2022』と今回の『やついフェスティバル 2022』、更に7月には山中湖でおこなわれる野外フェス『SPARK 2022 in YAMANAKAKO』への出演が決定している。
@onefiveのステージは渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて18時15分から。①Lalala Lucky ②Underground ③雫 -Instrumental Dance Ver.- ~ 雫 ④Pinky Promise ⑤まだ見ぬ世界 という5曲を披露。途中に2回のトークパートを挟み、およそ35分間のステージだった。サカエスプリングでは30分の出番で6曲のパフォーマンスだったから、それに比べれば(「雫」がスペシャルな構成だったからというのもあるが)トークの時間を長めに取ったセットリストだったと言える。
セットリストに占める割合は大きかったが、この日の彼女たちのトークは決して冗長だった訳ではない。自分たちのことだけではなく、舞台袖から見た共演者のパフォーマンスに心を掴まれたこと、別の共演者との過去の繋がりのエピソード。やついフェスの特徴である「お笑い」への言及、配信の視聴者へのアピール、そして情報の告知など、様々なカルチャーが交差するフェスという場と時間を考えれば、必要な要素全てにきめ細やかに心を配ったトークだったと思う。実は、@onefiveの出番を待つ間におこなわれたサブステージでの芸人のパフォーマンスが押して結果的にライブのスタートが10分ほど遅れることになったのだが、GUMIとMOMOが当の芸人たちを絶妙にイジることによって見事に場の空気を”回収”するという場面もあった。フェスにもそれぞれ色や個性があって、どのフェスでどうやってアピールを試みるかという準備は必要だし、インパクトを残すにはリアルタイムでの機転ももちろん重要になる。グループとして積み重ねた経験と持ち前の瞬発力が、このやついフェスティバルのトークパートでは充分に発揮されていた。
楽曲のパフォーマンスは、まず5月のMAWALOOPからトライして来たフェスという場を盛り上げるためのアレンジが更に進化して力強いものになっていた。「Lalala Lucky」ではLのポーズの一点突破で真似しやすさを狙い、「Underground」のサビではクラップの煽りを入れる。舞台からフロアに向かって投げかけられる4人の声が、他の出演者のファンも巻き込んでライブハウス全体を陽のエネルギーで包んでいく。一方、観客と一緒に楽しむ空気を前面に出すことによって、彼女たちの個性である繊細な ”魅せる表現” とのメリハリはより一層際立っていた。例えば「Lalala Lucky」のダンスブレイク直前に表情が鋭く切り替わる瞬間や、彫刻的な美しさすら感じさせる「Underground」のラストのポージング。或いは「Pinky Promise」で、開いた掌を指の一本一本に情感を込めるようにゆっくり閉じていくところ。それらは親しみやすく元気なパフォーマンス中のコミュニケーションと対比して、こちらの身動きを止めてしまうほどの美と迫力に満ちたものであり、単なる振り付けの一部を超えて観る者に強く何かを訴えかける鋭い表現になりつつある。その両方が1回のステージ、1曲の中に違和感なく共存し、目まぐるしく入れ替わりながら顔を出すのが、今の@onefiveのパフォーマンスなのだ。フェスという対外試合の場を通じて@onefiveが見せてくれた、新たな強みだった。
そして「雫」である。「雫」について書かなければならない。
この日のステージで文字通りスペシャルな時間となったのが、「雫」のパフォーマンスだった。曲紹介から舞台が暗転し、聞き慣れた雨音のイントロに続いてオリジナルよりも少しアーバンで大人っぽいトラックが鳴り響く。感染症拡大の影響でグループとしての始動が遅れ、苦労の末になんとか辿り着いた2020年7月の「まだ見ぬ世界」オンラインリリースイベント。そこで披露された「雫 -Instrumental Dance Ver.- 」は配信当時からファンの間でも人気が高く、Youtubeにダンスムーヴィーも公開されたが、観客の前でパフォーマンスされるのはこれが初めてのことであった。当時、ライブで会えるのは一体いつになるのだろうと絶望しながら、映像の中に何度も何度も繰り返し観たダンスを、いま目の前で@onefiveが実際に踊っている。そう思うと涙が溢れそうになってしまい、視界がぼやけるのを必死に我慢しなければならなかった。
感動したのはそのダンスを実際に見ることができたからだけではない。恐らく「雫」は本来ならば2020年の初夏にはリリースされる予定であったのだろうし、逆に言えば、感染症による社会的制約が無ければこのInstrumental Dance Ver.はきっと存在しなかった。その前のトークで語られたように、思い通りに歩めなかった2年間は想像以上に難しいものだったに違いないが、そんな状況だからこそ産み出された素晴らしい表現を、当時よりも昇華した形で受け取ることができた。彼女たちが本当にそれを魅せたかったであろう、雨の季節に。思い通りにならなかった過去を黒く塗りつぶすのではなく、そこから何かを掴んでポジティブに転換させる彼女たちの強さをはっきりと感じたし、自分にとっても苦しかったあの日々がこうやって確かに現在に繋がっているのだと実感できたのが本当に嬉しかったのだ。
「雫」のパフォーマンスは続く。ダンスバージョンのエンディングからそのままヴォーカルが入るオリジナルへと続くのだが、この繋ぎの演出が息をのむほどに素晴らしかった。アンビエントな音響に包まれて再び暗くなった舞台の中央にSOYOを残してKANO、GUMI、MOMOが左右・後方に動き、極めて滑らかな動作でマイクを手に取りながら、空から落ちてくる雨粒を掴むような仕草をする。白と青の衣装を纏った彼女たちはまるで雨の妖精のようでもあり、最後にSOYOが踵を返して舞台奥に歩き、マイクを持ってまた中央に戻った。ゆっくりと視線を合わせてスタートの態勢を取る4人、そしてSOYOが歌い出す…。何という、美しく深い表現。時間にすればほんの数十秒だったが、この繋ぎにこそ@onefiveの表現者としての美学や凄みが詰まっていたような気がした…などと書いたら、少し大げさだろうか?けれども、実際に彼女たちが舞台の上に創り出す表現に触れると、そんな言葉もすんなりと出てきてしまう。そして、歌いながら踊る「雫」本編は、ダンスバージョンからシームレスに繋がったことでその世界観がより鮮やかに、ダイレクトに伝わる素晴らしいパフォーマンスだった。しつこく書くが、個人的に「雫」は現在の@onefiveが見せるパフォーマンスの中で最もエッジーであり、既に彼女たちにしか表現できないものとして確立されていると思っている。そして、この楽曲はまだまだ深みを増していき、やがて唯一無二になっていくに違いない。
ラストの「まだ見ぬ世界」でも、フロアを巻き込む楽しさと舞台上の高難易度のパフォーマンスは見事に両立していた。歌って踊るだけも相当に難しい楽曲であるはずなのに、舞台の上から降り注いでくる、フロアの僕たちの身体をも否応なしに揺さぶるようなこの圧倒的なパワーは、なんだろう?「まだ見ぬ世界」を”体感”しながら、そんな風に考えてふと思ったのは、彼女たちが何かを取り戻しつつあるのではないか、ということだった。言葉で表すのが難しいが、声を出すことや身体に触れることを制限される前、不安を抱きながらも舞台に躍り出てフロアを埋めた観客の声援と熱気を浴び、そこに信頼関係を確信してゾーンに入ることができた頃の感覚。仲間の手に触れ、体温を感じ、視界の外にも仲間の存在を確かめることで表現に集中し切ることができた頃の感覚。ライブが今よりもっとライブだった頃の、何も考えずに表現者と観客が一体となってどこまでも昇って行けるようなあの感覚だ。あの感覚を、熱を、本能を、2年というブランクを乗り越えて、彼女たちは取り戻しつつあるのではないか。まだ声を上げることは出来なかったけれど、潤んだように輝く彼女たちの瞳や濡れた前髪、膨らんで弾けそうな笑顔を見ながら、どでかい低音に負けないように彼女たちが声を振り絞ってフロアを煽るのを聞きながら、その声に身を委ねて腕を左右に大きく振りながら感じた「まだ見ぬ世界」は、僕を少しだけあの頃に連れ戻してくれたような気がした。
なんだかどんどん抽象的な文章になってきてしまったが(@onefiveについて書く時はいつも自分自身をコントロールするのに苦労しています)、とにかく、この日の@onefiveのステージは素晴らしかった。パフォーマンスそのものも会場の盛り上がりも、フェスという場において存在感をしっかりと示していた。「わたしたちの魅力を最大限お届けできた」とMOMOは自信ありげに言ったが、それは決して誇張ではなく、短い時間の中で@onefiveの魅力が多面的に表現されていた。そして何よりも1回のステージ、1曲のパフォーマンスを大切に全力でやり切るという彼女たちの芯がはっきりと見え、例え一度きりの出会いだったとしても最高の思い出を作ろうという姿勢が貫かれた、グループ名の由来ともなっている一期一会という言葉を体現するような35分間のステージであった。
@onefiveのフェスティバルへの挑戦はまだ続くのかも知れない。この夏を越えて彼女たちがどこまで進化するのか、楽しみでしかたがない。
(2022年6月21日)
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