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スーパー

Mikio 作
4 スーパー

 私は強運引き寄せ大学インディゴチルドレン学部に進学するまで、アルバイトをしたことがなかった。が、19歳の秋頃になると、そろそろしたほうが良いんじゃないかなー、と思えてきた。周りの人間と話が全く噛み合ず、基本的にぼっちの大学生活。それはまるで、メランコリー終わりのない苦しみ。闇が深すぎて、思わず目を瞑ってしまうような毎日。私のような人間は、大学で呑気に勉強をしている場合ではないのだ。ある朝、体の感覚に従って、ゆっくりと目を開けると、ハートでそう感じてしまった。そこで、思い切った。言語感覚の合わない友だちとつるむのを「スッ」とやめて、その辺にあったスーパーに「パッ」と履歴書を持ち込んだ。

あい店長「採用!」

 ……マジか。あい店長大丈夫か?

 でも、本当のショータイムはここから。ADHD人のくせに、スーパーのレジ打ちなんぞ誰でもできるわ、と余裕をかましていた。しばらくの間、特に品出しをしなくても良い、お菓子コーナーの辺りをうろうろしていた。しかし、愛先輩という、愛そのもののような存在の女に見つかってしまった。愛先輩に「ありえへん。みきお、調子に乗ってたら通報すんで」と愛のムチで脅迫されてから、担当のレジに向かった。あろうことか、その近くにもありえない人がいた。私の後ろには、たいていの場合、ぺっち先輩がいた。レジ打ちが異常なスピードのぺっち先輩は、髪の毛が緑色の男。制服を着ず、常に緑の服を着用し、いつ見ても身だしなみがなってない。更に言うと、目がほのかに¥みたいで鬱陶しいので、勝手にライバル視させてもらった。(おいおい、君が小手先のテクニックでいくら頑張っても、年齢と時給だけは私とほぼ一緒だ。せまいローカルスーパーで、これ以上ガチャガチャすんじゃねーYO!)

 この関係を、フニフニ暦採用から99日ほどはひたすら我慢した。これはフニフニ暦100日目辺りの話だろう。毎日私の背後から常識を覆そうとするテクニシャン、ペっち先輩のレジ打ちのノイズ音が響き渡る。そして遂に、私のレジにまで革命を起こしたのだ。夕方のセールタイムが始まり、部活帰りのペドロとイリス、りんりん三姉妹もこぞって来店。とんでもない大行列ができてしまった中、ぺっち先輩のレジに不気味なイコライザーを発見。これがあの異常なレジ打ちの正体なのか?私はこっそりそのイコライザーを自分のレジに接続し、ガッツリぺっち先輩の物真似してしまった。すまん、私はもう君の不正行為には我慢できない、許してくれ!

 ガチャガチャガチャガチャ、ターン!!!¥さんきゅーカース!かねあずかりマース!おつりナース!おたんこナース!ありゃとごゃんたー!いらっしゃーせー!etc……♪

 そ。私は目の前の数字ではなく、聴こえてくる音という音の波をDJのごとくリミックスし、合わせてみたのだ。彼の口調、つかの間のシャカシャカ感、レジ打ち後の余韻なども勿論のこと。1つ1つ音のクオリティにもこだわってみた。その結果。閉店後、私のレジから、何度合わせても採算が合わない数字がはじき出された。これにはシリウス星人のペっち先輩も計算できず、具合が悪くなって早退してしまった。レシートは無惨にもレジ周りに散らかり、やがてサイドに赤いラインが入り、何枚か床にひらり、ひらりと落ちてった。それを手に取ったあい店長が私にこう言った。

あい店長「クビや。」

 よっしゃ。あい店長は決してサイコパスではなく、経営上の都合で非情な決断を下したまでた。私はレジにトラウマの記憶を抱くハメになるが、これで二度とレジに立つことはなくなった。Win-Winだ。次の日から、私の上司は青森のエルサことノンタンに交代した。私たちはお野菜・果物の品出しコーナーで、りんごやみかんの皮を剥いて食べていた。しばらくの間は、このスーパーに食料危機はが訪れないと確信した。ノンタンによると、「ここは食べてもバレなきゃオッケー(ニコチャンマーク)」の世界らしい。なるほど、砂嵐ってやつか。思ったより世の中ってテキトーだな。余談だが、鮮魚コーナー担当の吉濱と精肉コーナー担当の佐々木っちは、何とも仲が悪かった。それは、佐々木っちが裏でコチョコチョケータイばっかりいじって、スマホ依存していたからだろう。あれは○○系ってやつかなー?詳しくないから分かんないなー。そして、せまい休憩室では、お総菜コーナー担当のアイ先輩が、いつも同じ菓子パンを食べていた。レジ担当のAI先輩は、ダイエット中なのかいつも春雨ヌードル。後から入ってきた後輩のあいちゃんに関しては、私の遺伝子近場処理本能が反応し、見事ターゲットに。ほー、年下か。いいだろう。今回は逃さんぞ。まずはあいちゃんとメアド交換だ。そして、アンダーグラウンドなスーパーで培ったDJスキル、ノンタンにいただいた果物を差し入れて、徐々に気を引いていくのだ!あれ?ぺっち先輩?どこに行った?おや?何か有線で変なラップ音と歌が流れてきたぞ。

YO!

♪彼はシリウス生まれ横浜育ち

♪ヤバそうな奴は大体友達

♪ヤバそうなスーパーに 大卒で就職し

♪裏の道見てきたこの街

♪シリウスエササニ そうプレアデスも早々にレジにぞっこんに

♪カバンなら置きっぱなしにしてきたおうちに

♪マジ親に迷惑かけた本当に

♪だが時は経ち 今じゃYouTuber

♪カフェで幅をきかすDON DADA

♪マイク掴んだらマジでNo.1 家族代表トップランカーだ

♪そうこの地このハマに生を授かり Jahに無敵のマイク預かり

♪家族たち親たちファンたちに今日も感謝して進む愛のフニフニロード
 
 へー、チルいなー。いい感じの曲だなー。どこかで聴いたことあるが、気のせいか。( Dragon Ash feat.ACO,Zeebraのアレかなー?)
 しかし、何故このタイミングでこの曲なのかは全然分からんのだが。ま、いいや。それより、たぶんぺっち先輩、あの人休憩室の場所知らないんじゃない?もしくはワーカーホリックだし、休憩いらないんじゃないかな。というわけで、しーらないっ。

仕方ないYO!

とりあえず皆手ぇ叩け×2

SAY HOーー!!!

もっとHOーー!!!

あいちゃーん!!!
魂は制限不自由からの解放を望んでいる!!!
いくぞーーー!!!
1!2!3、、、次の瞬間、私はあいちゃんから強烈なビンタを受けた(@ ̄□ ̄@;)!!

エピローグ

 何と、あいちゃんは佐々木っちと付き合っていた!ちょっと、佐々木っち、色々やり過ぎて○○返りし過ぎなのでは?お、おかしい、こんなことは許されない。やっぱり、最初の方に出てきた愛先輩が一番まともだったな。私を導く女性は、飴とムチを使い分けるタイプが理想とされるのだ。今度こそ、今度こそ学んだぜ。頼む、愛先輩、今更かもしれんが、私と付き合ってくれ!今どこに居るんだYO!男ってこんなもんだYO!尚、このスーパーは現在誰にも利用されておりません。

愛先輩「クビや。」
ほしのこ「説明しろ。」
私「OMG(白目)」








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