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中村天風読書案内 

 近年、大谷翔平が中村天風の強い影響を受けているという話が知られ、天風の思想が再び注目されるようになりました。
 天風の本を読んでみたい、という方も増えたのではないでしょうか。そんな方には、天風会(中村天風財団)のホームページがおすすめです。 

 https://books.tempukai.or.jp/features/2052

 こちらに、はじめての方から深く知りたい方までレベルを分けて、天風の本がたくさん紹介されています。
 これがあるので私が書く必要はないのですが、せっかく天風の本をいろいろ読んだので、あえて屋上屋を重ねてみます。
 
 先に、天風の著作を紹介しましょう。天風自ら著した本は多くはありません。そのなかで主著と言えるのは、次に挙げる3冊です。
1,『真人生の探究』
2,『研心抄』
3,『錬身抄』

 この3冊は天風思想の基本書となるものですが、昭和22-24年に書かれた古い本なので、文体がやや古めかしいです。
 
 さて多くの人が概ね多くの場合、正当なる人間の價値認識を往々第二義的な寸法違ひで、行つて居る。そしてその原因に、普通の場合、普通の人の氣づいて居ない事實消息があるがためだと前に述べた。(『眞人生の探究』)
 
 こんな感じなので、慣れない方には読みにくいかもしれません。『真人生の探究』『研心抄』はネット上の「国立国会図書館デジタルコレクション」で公開されているので、無料で読むこともできます。ただし、先の引用文のように、旧字体旧かなです。

 3冊ともに天風会から復刊されていて、そちらは新字体新かなで、一部の漢字は平仮名になっています。読みやすくはしてありますが、古風な文体はそのままなので、それでも読みにくいと感じる方は少なくないでしょう。

 その上、一冊3000円近くしますし、書店では売っていないので(天風会とアマゾンでネット販売しています)、立ち読みして中身を確認することもできません。やや敷居が高い本かもしれません。

4,『哲人哲語』
 天風会の機関誌「志るべ」に連載していたエッセイを集めた本です。こちらは先の3冊より読みやすいのですが、戦後すぐの天風会会員に向けて書かれた文章なので、現代の一般読者向きではないかもしれません。天風の本をいろいろ読んだ後だと、面白く読めます。この本も書店にはありません。

5,『安定打坐考抄』
 天風が編み出した座禅法「安定打坐」について専門的に語ったものです。1と3を読んだ後に読むと面白いです。薄い本なのですぐに読めます。ただし、文体はやはり古めかしいので、読みにくいかもしれません。この本も書店にはありません。
 1-5までは天風会が刊行している本で、天風会直販サイトかアマゾンでないと入手できません。一般書店には置いていませんし、図書館にもありません。
 次に挙げる講談社文庫に収められた6と7は、容易に手に入れることができます。

6,『叡智のひびき』
7,『真理のひびき』

 天風はたくさんの箴言を残していますが、そこから31の箴言を選び、自ら注釈を加えたのがこの2冊です。わかりやすいので、初めての方にお勧めです。

 ただし、天風思想の全体像をなんとなくでもつかんでいないと、核心はわからないかもしれません。そういう意味では、同じ講談社文庫の『運命を拓く』も読んでおいたほうがよいでしょう。
 
 さて、ここまでは天風の自著ですが、以下に挙げるのは、天風が書いた本ではなく、講演を活字にしたものです。

 天風は大正8年から半世紀にわたって講演活動を続けましたが、最後の10年ほどの講演はテープが残っているものがあり、それを文字に起こした本がいくつか出ています(テープの一部はCDで販売されています)。

 1,『成功の実現』
 2,『盛大な人生』
 3,『心に成功の炎を』
 4,『信念の奇跡』

 この4冊は講演の筆記ですから、天風の講演をその場で聞いているような感覚を味わうことができます。

 天風はさまざまな例を挙げて、面白おかしく語ります。聴衆を飽きさせない話術が非常に巧みなので、話に釣り込まれているうちに天風思想が自然と頭に入るようになっています。

 惜しむらくは値段で、一冊一万円を超えます。価格が高いのは、いまどき珍しい函入り本だからかもしれません。函は厚めの上等なもので、本も布クロースの上製本で堅牢なつくりです。紙も上質で厚く、ほれぼれとする出来の本ではあるのですが、もっと安価な普及本を出してもらいたいと思います。

 5,『君に成功を贈る』
 6,『幸福なる人生』
 7,『真人生の創造』
 8,『心を磨く』
 9,『力の結晶』

 これらも講演の筆記で、文庫本はありませんが、適価で入手できます。こうした講演筆記は、文庫本の『運命を拓く』と同時に読むといいと思います。

10,『運命を拓く』
 この本は講談社文庫の一冊です。天風の本のなかで一番入手しやすいものでしょう。実際、あちこちの書店で見かけます。
 
 講演の筆記のように見えますが、夏季修練会の講話をリライトしたものです。「語り口、呼吸、迫力」を再現したとありますが、講演の時のくだけた口調は見られず、文章体に近くなっているので、臨場感にはやや欠けます。
 編集が優れているので、この一冊で、天風が『真人生の探究』『研心抄』などで述べた思想の総体を、おおむねつかむことができます。

 ただし、心身でいうと心の方を重点に置いた本なので、『錬身抄』などや講演で述べている身体の話は少なめです。天風思想の全体像を過不足なくつかみたければ、他の講演筆記も読む必要があるでしょう。

11,宇野千代『中村天風の生きる手本―世界でいちばん価値ある「贈り物」』(『天風先生座談』と同じ本)

 『運命を拓く』とちょっと似た本ですが、作家の宇野千代が天風の講演を再現した本です。こちらも文庫本で入手できますし、『運命を拓く』に合わせて読むといいでしょう。

 天風の解説本については稿を改めたいと思います。私の考えでは、解説本を読むより、天風の本を直接読んだ方がいいと思います。解説となると、どうしても一部に焦点を当てることになるので、全体像がかえって見えなくなる虞れがあります。

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