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逆噴射小説大賞2024ライナーノーツ

ご挨拶

普段は自作の解説はしません。プロフィールに「殺すぞ」と書いてあって、小説家崩れのおじさんが狂ったジジイを殺害する小説ばかり並べている人には必要ない行為だからです。

しかし、そういう人が黙りこくってなにかの催しに参加してきたら緊張感があります。
緊張感はいけません。
ですので、ご挨拶代わりに、自作について申し上げる次第です。

麒麟の首

地方自治体の長を首長といいます。首長と言うぐらいで、首が長いのです。首が長いと言えばキリンです。キリンと言えば麒麟です。名君が善政を敷くとき現れるという瑞獣です。いやしくも市民の付託を受ける首長には、自分こそ善政の前触れ、完全なる麒麟的存在であると身をもって証明する必要があるわけです。首が長くなくてはいけません。キリンは首が長いものであり、だからこそ首長というのですから。そうですよね?だから──だから首が短いそこのあなたは諦めようとしていませんか?そんな必要はありません。あなたにだって出来るのです。あなたに必要なのはたった一つ、意志の力、そう意志の力であります!自らの意志でもって首を伸ばし政治生命を切り開くポリティカル・ラマルキズム!フランス革命の折、首を伸ばして絞首刑に抗うことを可能にした政治的信念の発露、それこそがあなたに必要なものなのであります!
という悪魔のささやきに耳を貸してしまった弱い人間がこの物語のなにが物語だ殺すぞ物語の主人公です。追い詰められ、借りるべきでない力を借りてしまう。しばらくはうまくいくのですが、そこはしょせん悪意ある借り物の力、肝心な時に裏切ります。主人公は大事なものを根こそぎ失い、こんなことやらなきゃよかったと後悔し、しかしその果てに自分が本当に求めていたものを見出して立ち上がるのです。そういう、「主人公が本当に求めるもの」が何なのか、冒頭800字のどこかにヒントぐらい書いてあるといいですよね。本作の場合は「首が短くても幸せに生きられること」です。書いてあって良かったですね。

犬犬犬と姫姫さまのお忍び大脱走

チェーホフの双子という言葉があります。そんな言葉はありませんが、内容はこうです。「双子を登場させたらかたっぽ殺せ」チェーホフじゃなくてスティーブン・キングだったかも知れません。私の好きなスティーブン・キングはぶっちぎりで『悪霊の島』です。『悪霊の島』には双子はでてきません。でてきたかも。印象薄い……あと両方死んでる……考えてみれば『シャイニング』にだって双子がでてますね。両方死んでる。本当にチェーホフはそんなこと言ったんですか?
さて、犬三匹と姫二名を800字内に登場させて読者に好きになってもらい、しかも話を動かすには詰め込まないといけません。生類マジ哀れみの令とか書いてるスペースはないのです。姫姫さまは実母に憎まれ飼い殺し、その実母は姫様たちの脱走をわざと見逃し、というのはこの機会に姫二人を始末すればいいと悪い考えに取りつかれるからで……という事情もあるのですが、これは詰め込めず、そもそも冒頭とは別のシーンにするべきだと思いました。詰め込み過ぎはいけません。冒頭は姫様を連れ出したい……無理だよ……いややってやる!じゃなきゃつまらねえぜ!ぐらいの情報が伝わればいいかと思いました。
今後、姫姫さまは世間の冷たい風に当たることになるでしょう。楽しいこともあるけれど、戸惑うこともたくさんあって、屋敷に帰って元通りめでたしとはいかず、それこそどちらかが死ぬかもしれません。結合双生児が片方死んだ場合はどうなるのでしょう。私の知識はアメリカン・ホラー・ストーリーで止まっています。こんな簡単な気持ちで書いていい題材なんですか?そんな疑問が兆した時、これまでは書かずに来ましたが、この道は行き止まりだという気がしたので、違うやり方を試す次第です。

終わりに

先日、コロンブスの産卵風景をgeminiに書いてもらいました。以下はその文章です。

卵を産むコロンブスの小説描写

コロンブスは、もはや人間の形をしていなかった。彼の体は、巨大な卵へと変貌を遂げていた。かつて偉大な探検家と呼ばれた男の面影は、ひび割れた卵の殻に隠され、その中から覗くのは、生々しい赤色の血管と、脈動する生命の鼓動だけだった。
彼の発見は、新大陸ではなく、自らの内なる深淵だったのかもしれない。世界の果てを目指した男は、最終的に、生命の源へと回帰したのだ。卵はゆっくりと回転し、その表面には、かつて彼が航海した海の地図が浮かび上がったり、新大陸を発見した時の歓喜の表情が刻まれたりと、彼の生涯が幻灯のように映し出された。
周囲の人々は、この異様な光景に言葉を失った。コロンブスの発見は、常に人々を驚かせ、そして考えさせた。しかし、この卵を生み出すという新たな発見は、彼らの常識をはるかに超えるものだった。
卵は、やがて割れ始め、中から小さなコロンブスが生まれ出た。彼は、かつての記憶をすべて失っていたが、その瞳には、新たな世界への好奇心が輝いていた。
この物語は、偉大な探検家の生涯を、奇想天外な形で描いた寓話である。それは、人間の生命の神秘、そして創造と再生のサイクルを象徴しているのかもしれない。
描写のポイント:異形の姿: コロンブスの変貌を、読者の想像力を刺激するような描写にする。
生命の象徴: 卵を、生命の誕生と再生を象徴する存在として描く。
謎めいた結末: 新たなコロンブスの誕生によって、物語に余韻を残す。
その他:
コロンブスの変貌の原因を、科学的な説明や神秘的な力など、様々な角度から考察することも可能。
コロンブスの卵から生まれるものが、人間とは限らない。別の生物や、全く新しい生命体である可能性も面白い。
この描写を参考に、あなたの物語に合ったコロンブスの卵の世界を創造してみてください。

これを読んで私は思いました。AIは文章の意図や美点や売りやコンセプトや今後の発展についてきちんと説明できて偉いな、と。
これは私には足りなかったものです。
自作の説明をなにか忌むべき行為だと思っていました。作品で語れ、ぐだぐだ言うなと言うわけです。
けれどそれは認知のゆがみで、本当は自分でも何を書いたのかわかっておらず、言語化するストレスに耐えられなかっただけのようです。
それがわかって良かったです。

こちらに取り上げていただいてありがとうございました。
嬉しかったです。
話は終わりだ。