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華恋とひかりの対話 劇伴「color temperature」と「 スーパー スタァ スペクタクル」

対話として機能する「color temperature」と「スーパー スタァ スペクタクル」

以前、TV版~劇場版を通して使用される2つの旋律(モチーフ)について書きました。今回は劇場版冒頭の「color temperature」と最後の「スーパー スタァ スペクタクル」について書きます。

劇場版スタァライトの劇伴は、作曲の藤澤さん・加藤さん共に、TV版・ロロロから引き継がれた再生産のテーマが主題となっています。また、藤澤さんの劇伴は、再生産のテーマにスタァライトのテーマも絡めて抒情的な印象を受けるのに対し、加藤さんの劇伴は一見抽象的で単純な旋律の組み合わせが特徴的であると感じました。
特に加藤さんの「color temperature」と「スーパー スタァ スペクタクル」は、どちらも華恋とひかりのお別れの対話(レヴュー)を表現する曲として、劇場版の開始と終わりをしっかりと結びつけていると感じたので、主にこの2曲について、個人的に面白いと感じた部分についてまとめてみました。
もちろん私の主観ですので、そうじゃないだろー、な点があること、悪しからず、です。

華恋とひかりの対話1 color temperature

レヴュー開幕と華恋の戸惑い

映画冒頭で示される華恋とひかりの別れ、その様子は音楽でも語られます。別れを告げるひかりとそれを受け入れられない華恋、2人の対話は以下のような下降音形と上行音形として表現されていると感じました。
以前書いた、再生産のテーマも一緒にあげておきます。

ひかり → 下降音形(別れ、塔から降りることを促す)

華恋 → 上行音形(ひたすら塔を目指す)

再生産 →  上下行を繰り返すアルペジオ(死と再生)

不協和音とレヴュー開幕を告げるホルン(角笛)のグリッサンドで始まります。再生産のテーマ(アルペジオ)が常にバックで流れています。

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レヴュー開幕を告げるホルン
繰返し現れる再生産のテーマ

そして、華恋の戸惑いを表すようなピアノの上行音形の反復に続いて、和音を重ねながら上昇する弦楽器と、優しく別れを告げるような木管楽器の下降形が提示されます。

ピアノによる上行音形の反復
別れを告げる木管楽器の下降音形

どうして…

私たち、やっと2人でスタァライトできたのに…

霧が晴れ塔が現れると同時に、低音楽器による荒々しい上行音形とホルンの咆哮が音楽的に盛り上がりを見せます。別れたくないという華恋の意志表示かもしれません。このホルンによる旋律は、短く区切られた3つの音でフレーズを進めて行くのが特徴的です。中学生の頃の回想シーン(ドーナツ屋)劇伴「luminance」でも登場することから、華恋の「約束」への想いと強く結びついた旋律ではないかと考えました。「約束のテーマ]、と名付けましょう(笑)。
しかし、これら華恋に関連する旋律は、ひかりに届くことなく断ち切られます。

低音楽器の上行音形
luminanceにも登場する「約束」のテーマ?

貫いて見せなさいよ、あんたのきらめきで

冷たく静かに語りかけるオーボエ・フルートによる下降音形の旋律と共に、ひかりの口上が述べられます。

オーボエ・フルートによる下降音形

生まれ変わった光を胸に 命が求める新たな血肉 歌い 踊り 奪い合う それが野生の本能ならば 99期生 神楽ひかり運命は変わる 舞台もまた

ついに決定的となる別れ

別れを告げるひかりの下降音形が、初めて金管楽器によって大音量で演奏されます。対する低音楽器による上行音形は、華恋の抵抗とも受け取れます。そして、別れを受け入れたくない華恋は、そのまま列車に跳ね飛ばされて序章の幕が閉じるのです。

金管楽器による下降音形

さようなら 愛城華恋


華恋とひかりの対話2【再演】 スーパー スタァ スペクタクル

華恋の死と復活

華恋の死を象徴するような、弦楽器による下降音形にあわせて、巨大なお手紙が降りてきます。続いて木管楽器による上行音形が返され、2人の出発点であり再生の象徴でもある「Station Zero」のテーマに、華恋の復活を願うひかりの歌が重ねられます。ピエタ像(イエスの亡きがらを腕に抱く聖母マリア)を彷彿とさせるこのシーンは劇中に数ある美しいシーンの一つです。

舞台で待ってる

ひかりが華恋を奈落へ落とすと同時に、聴き覚えのあるホルンの上行音形グリッサンドが響きます。「color temperature」の冒頭部分です。お別れのレヴューの開幕、再演の合図でしょうか。
ひかりからの手紙をもらった華恋は再び塔を目指します。12年間の人生レヴューの再演ですね。「color temperature」の冒頭では華恋の戸惑いを表現していたピアノの静かな上行音形の反復が、今回は荒々しいベースラインで、まるで別人のようになって帰ってきます。

変容した華恋の上行音形の反復


ここで再び、復活・出発を表す「station zero」のテーマが引用されますが、華恋の唄が、いわゆる十字架音形となっており、まるで華恋が苦難(棺桶・十字架)を背負って塔を目指しているようです。

station zeroのテーマ
十字架音形で進行する華恋の歌

ところで、十字架と言えば、古川監督のツィート(劇場版公開前のもの)が気になりますね。ここではひかりが十字架を背負っていますが、劇場版制作でこのイメージが参考にされたのでしょうか。

ここでも上行音形と下降音形がぶつかり合います。映像では砂嵐に立ち向かう233系列車が描かれます。

激しくぶつかり合う上行音形と下降音形

また、監督の他のツィートにても、バミリ=磔であることがうかがえます。
そしてユニコーン列車、これは復活する魂を運ぶ精霊馬じゃないでしょうか。



進化する華恋のレヴュー曲

「あなたはわたし~」、アウフタクトで始まる歌、これはまさしく愛城華恋の歌でしょう。「世界を灰にするまで」の華恋パートを彷彿とさせる、前へ進む力が感じられます。


また、3つの短い音形でフレーズが進んでいく部分は「color temperature」の終わりや「luminance」で出てきた前述の「約束」のテーマが元になっているようにも感じられます。ひかりのお手紙から始まって約束を果たすために積み上げてきた華恋の12年間が、この短時間の劇伴でも表現されている、とみることができます。

アウフタクトでフレージングされる華恋の歌

華恋の歌の後、再度「station zero」の十字架音型が提示され、華恋は約束の場所へ上り詰めます。華恋を舞台(死に場所)へ誘うひかりが印象的ですね。

ここが舞台だ! 愛城華恋

華恋が復活してからは、「JESUS CHRIST SUPERSTAR」から「Superstar」のオマージュが使われます。シンフォニックなファンファーレとファンクロックのごちゃ混ぜ感がミュージカル(?)ぽくて楽しいです。
小節を跨ぐシンコペーションやアウフタクトで裏拍から突っ込んで来る感覚が特徴的ですが、華恋の歌の進化版のようで興味深い取り入れ方だと思いました。
ところで、この部分も、先の「約束」のテーマの片鱗が感じられるのですがいかがでしょうか。

進化した華恋の歌?
シンコペーションの応酬


別れを受け入れる華恋

ひかりちゃん キレイ
ひかりちゃん キレイなのに、怖い

ひかりの口上を目の当たりにし、華恋はその美しさに目を奪われます。ここで彼女は自分の感情を吐露していきます。音楽は再び「color temperature」最後の部分と同様に、華恋の上行音形に対して、ひかりの下降音形が投げかけられます。しかしながら「color temperature」のように、荒々しくぶつかるのでなく、劇中の宝石が胸に溶け込む演出と同じように、二つのテーマが混じり合っていきます。

ひかりとの別れを受け入れる華恋 color temperature最後のパートの再現

このシーン、遠くで鐘(チューブラーベル)が鳴っているのですが、約束の地を目指す巡礼の鐘のようで、いいですよね。なぜか「ローマの祭り」の「50年祭」が頭に浮かびました。

映画冒頭の「color temperature」では、なすすべなく列車に跳ね飛ばされた華恋は、ここでは最後の台詞を伝えるため、剣を短く折って、ひかりに向かって行きます。


音楽も映像も最高潮に達したた後の、突然の弦楽器による静かな下降音形は、ひかりの短剣が華恋に止めを刺した事を暗示しているのでしょうか。対して、カメラはゆっくり下から上へアップするのが面白いです。
華恋はひかりにとどめをさしてもらう為に塔を目指したのですね。「最後のセリフ」は「最期の台詞」であり、ゴルゴダの丘での「最後の7つの言葉」を意識しているのかもしれません。
それにしても、「死ぬ為に死ぬ」って、なんだかわけわからなくて、凄いと思いました。

終曲

私も、ひかりに負けたくない

「最後の台詞」の後は、再生産のテーマのオンパレードです。交響曲風に言えば、4楽章のコーダに相当部分と考えられます。9人の対話が終わった事、スタァライトからの卒業と再出発が、美しい映像と共に語られます。華恋とひかりの歌のバックで響く鐘の音が印象的ですね。

多層的な再生産のテーマ
コラール風の再生産のテーマ

まとめ

劇場版スタァライトは、戯曲スタァライトを下敷きにしたレヴューの繰り返し構造となっており、多彩な劇伴がレヴューを表現しています。そのような中、映画冒頭と最後の華恋とひかりの対話についても、劇伴がその位置付けや性格をしっかりと表現しており、「なんだかよく分からないけど分かった!」気持ちにさせてくれていたのです。


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