
【その2】レヴュースタァライトを一貫して流れる2つのライトモチーフ〜音楽的観点からの考察
おさらい
少女歌劇レヴュースタァライトを流れる2つのライトモチーフ
前回、TV版・劇場版を含め、レヴュースタァライトという作品の中で一貫して使われる2つのライトモチーフがある、という内容で記事を書きました。
今回ほぼ同じ内容ではありますが、その使われ方の変化や役割に焦点を当ててまとめ直してみました。
おさらい1 スタァライトのテーマ
音形が似ているため、スタァライトのテーマとまとめてしまっていますが、ここで新たに「戯曲スタァライト」と「ki-ringtone」に分けることにしました。
「ki-ringtone」は原型がわからなくなるほどに変容して各所で引用されるのに対し、「戯曲スタァライト」はあくまで「戯曲スタァライト」を象徴する役割に徹しています。藤澤慶昌氏作曲です。

おさらい2 再生産のテーマ
上って下がる(または下がって上がる)音形のバリエーションです。原型は華恋の変身バンクで使用されたものかと思われます。
加藤達也氏作曲です。

引用されている曲とその役割
今回は各テーマが引用される曲をリストにしてみました(見逃しもあるかもしれません)。
TV版劇伴
スタァライトのテーマ 作曲 藤澤慶昌氏
少女たちのプレリュード:ki-ringtone
プロムナード:ki-ringtone
anti daydream:ki-ringtone
夢を振りまいて:ki-ringtone
starlight curtain:ki-ringtone
ki-ringtone:もちろんki-ringtone
キリンのためのワルツ:ki-ringtone
キリンのためのアダージョ:ki-ringtone
歯車:戯曲スタァライト
星罪:戯曲スタァライト
華恋とひかり:戯曲スタァライト
星摘みの塔:戯曲スタァライト
スタァライト(レヴュー曲):戯曲スタァライト + ki-ringtone
TV版劇伴
再生産のテーマ 作曲 加藤達也氏
暗転
再生産
劇場版の劇伴における2つのテーマ引用例
color temperature:再生産 加藤達也
蝶の舞う庭:再生産+スタァライト(戯曲スタァライト)藤澤慶昌
child stars:再生産+スタァライト(戯曲スタァライト)藤澤慶昌
ki-ringtrain:スタァライト(ki-ringtone)藤澤慶昌
station zero:再生産 加藤達也
世界は私たちの…:再生産+スタァライト(ki-ringtone)藤澤慶昌
luminance:再生産 加藤達也
focus:再生産 加藤達也
キリンのためのレクイエム:再生産+スタァライト(ki-ringtone)藤澤慶昌
美しき人 或いは其れは:スタァライト(戯曲スタァライト)藤澤慶昌
スーパー スタァ スペクタクル:再生産+スタァライト(ki-ringtone)加藤達也
スタァライトから卒業する劇場版
前述のリストからもわかるように、TV版において感傷的なシーンで使用されてきた「戯曲スタァライト」は、劇場版では華恋とひかりの幼少期と、別れの暗喩でもあるエルドラド練習風景でのみ使用され、その後は鳴りをひそめてしまいます。
変容するキリン
TV版において様々な劇伴で引用され支配的だった「ki-ringtone」が地下鉄のシーンで復活します。その後は「世界は私たちの…」の最後や、「キリンのためのレクイエム」で冒頭の音形が引用されるにとどまります。その音形は叫び声のように引き伸ばされ、まるで劇中の野菜キリンのようなグロテスクな印象です。その響きが「怒りの日・DIES IRAE」に似ているのも「レクイエム」ぽいですね。
ただし、「スーパースタァスペクタクル」の後半に、短い音形で「ki-ringtone」を彷彿とさせる断片のようなメロディーが現れます。

劇場版を支配する再生産のテーマ
TV版において、変身バンクとロンドンでのひかりとキリンの対話でのみ使用されていた再生産のテーマ、ロロロの再生賛美曲で主役級テーマに躍り出て、劇場版においては拍子や和声を変えたバリエーションを展開しながら、あらゆる劇伴に登場するようになります。特に、TV版からの怪しげなテンションコードに加えて、劇場版ではセブンスコードのアルペジオが多用され「成長・広がり」といった和音のイメージを「再生産」と結びつける重要な役割を果たしています。
「スーパースタァスペクタクル」の最後では、「再生産のテーマ」のアルペジオに重ねて、華恋とひかりの二重唱でテーマが奏でられ、観客の頭の中は再生産一色になってしまいます。


テーマの引用は偶然か
引用リストからは、「再生産のテーマ」が藤澤慶昌氏の楽曲にも積極的に組み入れられている事がわかります。これが制作上の打ち合わせによるものなのか、作曲の過程で必然的にそうなったのか非常に面白いですね。
また、加藤達也氏の「スーパースタァスペクタクル」に藤澤慶昌氏の「ki-ringtone」の音形が断片のように現れるのも偶然そう聴こえるのか意図的なのか、これもまた興味深いです。
各テーマの変遷
夜明けと共にスタァライトとキリンが消え去り、舞台少女達は再生産する
TV版では「戯曲スタァライト」と「ki-ringtone」が劇伴全体のイメージを支配しているのに対し、劇場版の劇伴において「戯曲スタァライト」は真矢クロレヴューを除くと、幼い日の思い出として早々に姿を消し、「ki-ringtone」もその役割を終えてレクイエムと共に燃え尽きます。
対して、「再生産のテーマ」はTV版で華恋自身の再生産(あるいはひかりの再オーディション)について表現するにとどまりますが、劇場版では華恋の変身バンクのためだけでなく、舞台少女達の再生産として劇伴を覆い尽くすようになります。この事から「再生産のテーマ」は、劇場版の主題である「再生産」を音楽面から表現していると言えるのではないでしょうか。

その他
輪る再生産
「輪るピングドラム」のOSTに「もうひとつの世界」という名称のついた曲があります。
その中に出てくるアルペジオ、かなり再生産のテーマでした(笑)