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#8 刃いま匂ひたつなり桜鯛(上田五千石)/天然鯛の茶漬け

釣れたての天然鯛を、ご近所の方にいただいた。ありがたや〜!
福岡の海ぞいに住んでいるので、新鮮な海の恵みを近くに感じる。

皮がついていたので、お湯で霜降りにして、軽く皮を炙って刺し身を引いた。天然の鯛は、切っているそばから甘く豊かな香りがする。

刃(やいば)いま匂ひたつなり桜鯛    上田五千石

ほんとうにこの句のとおりだ。

半分はそのままお刺身でいただき、半分は鯛茶漬けにした。

わたしの母の実家は、古神道の神社である。
鯛は神道にかかせない。お供えしてから食べるので、
刺し身ではなく鯛茶漬けにすることが多かった。
飴色になった鯛は、お醤油の芳醇な香り。
わたしと2歳上の姉は、たまに「たいちゃ」があると大喜びした。

鯛茶漬けの作り方

お店のように練りごまや、みりんなどが入っているものではなく、超シンプルに、お醤油とすりごまだけで漬けるのがうちの味。ところがどうして、「何が入っているのか?」と思うくらい、深いコクのある味わいになる。
できたら、九州のお醤油がおすすめです。うちはマルヱさんのもの。九州を離れても、お醤油だけは離れられなかった。

材料
・鯛の切り身
・お醤油
・すりごま(ごまから摺ったらなおよし◎)
・白ごはん
・緑茶
・海苔

作り方

①鯛をうすく引く。
コツらしきコツはないレシピだけれど、母からいつも言われているのがこれ。「刺し身じゃないっちゃけんね。うすーく引きなさい」。
②お醤油、すりごまをあえる。
酒を入れたい気持ちにかられるが、変な味になるのでお醤油オンリーで。
③ひと晩以上置く。しっかり浸かったほうがおいしい。
④海苔を添え、緑茶をまわしかけていただく。

鯛茶漬け

うひょおぉ〜。

海苔の香り、鯛のぷりぷり、醤油のあまみ、ごまの香ばしさが
口いっぱいに広がって、
緑茶のあたたかさと旨みが、胸にまでじわ〜っと。
これこれ、この味。しばし、黙っていただく。

一緒に味わいたい詩

刃いま匂ひたつなり桜鯛      上田五千石

「魚の王」(※と大事にしているのは日本だけらしい)たる鯛は、
包丁をいれた瞬間、なんともいえないふくよかな香りが立つ。
海が育んだ、この甘み!

上田五千石さんは「いま」「ここ」「われ」に視点をおくことの大事さを説いた。(『俳句に大事な五つのこと 五千石俳句入門』)
シャッターみたいな日常生活の切り取り方がおもしろい。
香りまで閉じ込めておける、小さなことばのフィルム。

いま、ここ、に、われがいることの不思議さと、おもしろさ。

わたしは、福岡で生まれ育った。

大学で上京という合法的で慎重な「家出」の手段をとって、12年がたった。あちこちに住んで、お店の鯛茶漬けもいただいた。でも、この味なのだ。
この味に戻ってくる。

福岡に帰りたくないと思っていた。
けど、いまはこの地に戻り、慣れた味にほっと息をついている。

悪くない。おもしろい。いつかは帰りたかったのかもしれない。

じんわり、鯛茶漬けが沁みていく。

作者とおすすめの本

◆作者についての私的な解説
上田五千石(うえだ・ごせんごく)1933−1977 東京生まれ。
中学生の時「青嵐渡るや加島五千石」という句を水原秋桜子の句会に出して、無点になるも、父が「秋桜子の目をくぐったなんてエライッ!!!」と息子を讃え、俳号を五千石にするように勧めたのだとか。
(ええ父ちゃん・・・・!そしてそれを素直に俳号にする息子・・・!)
秋元不死男に師事、「畦」創刊主宰。

ゆびさして寒星一つづつ生かす
渡り鳥みるみるわれの小さくなり

など、スケール感がでかくて、映像がすっと浮かぶ句も素敵。(交流があった、映画監督としても名を馳せた寺山修司の影響もあるのかもしれない。よもや。)

◆おすすめの本


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