【詩を食べる】木蔭が人の心を帰らせる(谷川俊太郎)/新じゃがのヴィシソワーズ
溢れる光の季節に
5月。新緑の季節。
樹々が圧倒的な生命力を見せだす初夏。
あまりに溢れる光のなかで、なぜか、
しんと黙っていたいような気持ちにもなる。
そんなとき、谷川俊太郎さんの『62のソネット』を取り出す。
木蔭が人の心を帰らせる
今日を抱くつつましさで
ただここへ
人の佇むところへと
空を読み
雲を歌い
祈るばかりに喜びを呟く時
私の忘れ
私の限りなく憶えているものを
陽もみつめ 樹もみつめる 「1 木蔭」より一部抜粋
デビュー作『二十億光年の孤独』で、地球人の孤独をあかるく描き出した宇宙少年(万有引力とは/ひき合う孤独の力である)。
2冊目である『62のソネット』は地球に足をおろし、草の香りをかぎ、生命のほめうたを歌いはじめた青年の姿が見える。
ただここへ、人の佇むところへと。
静かに、きらきらと、呟き、忘れ、見つめる。
深層にある音楽的な感性、空間の広がり、樹々のざわめきが心地よい。
意味を追うより、響きにたゆたっていたい詩だ。
Hideyuki Hashimotoさんのピアノも、すごくあう。
詩を味わうためのレシピ
この詩のために、新じゃがでヴィシソワーズ(冷製スープ)を作った。
「レシピってどう考えているの?」とたま〜に聞かれるので、発想の道筋を少し。
詩のイメージを味(あと味)・食感・舌触り・温度・質感・色などに分けて組み立てることが多い。今回は文学史的なイメージも取り入れた。
谷川さんは、戦後詩に”おはよう”の思想を持ち込んだ、と言われている。(寺山修司『戦後詩』)
戦後すぐの1950年代は、どんな時代だったかというと、
詩人たちが「戦争を賛美する詩を書いちゃったよォ〜」という反省と
「でも俺たちも(戦争に行った)被害者でもあるんだよォォ〜〜」という
ツラミの板挟みで暗い詩(マジで死ぬほど暗いぞ!)を書いていた。
そこに10代だった谷川さんが、さわやかな風を吹き込んだ、というのは時代の共通認識だったようだ。
つまり、「谷川俊太郎」の出現は、「事件」だったのだ。
わたしにとって、谷川さんは世界に「おはよう」を言い続けているひと。
朝だからスープを作ろうと思い立った。
谷川さんは、幼い頃から夏を北軽井沢で過ごしている。
あたたかいスープより、高原の風のようなひんやりとしたスープ。
ディルやチャイブの香り。
プレーンな言葉を使うという詩の特徴から、具が多いスープよりはシンプルにポタージュ。白のイメージ。新じゃがのヴィシソワーズをつくろう。
透明さを表現するために、コンソメ・スープのジュレをくずしながら一緒に食べるのはどうだろう。
木漏れ日をイメージしたオリーブオイルの金いろ。
そんなふうに、このレシピはできた。
構想メモ↓
feat.三好達治氏、寺山修司氏、大岡信氏、阿部公彦先生。
新じゃがのヴィシソワーズの作り方
材料(小さめのグラスに4人分)
▼ヴィシソワーズスープ
新じゃが 3個
新玉ねぎ 半分
牛乳 100ml
水 100+100ml
コンソメ 少々
塩、バター、パセリ
▼コンソメのゼリー
コンソメ 8g
粉末ゼリー 5g
水 250ml
塩
作り方
①コンソメゼリーを作る。
水、塩、コンソメを煮立て、粉ゼラチンを直接振り入れ、粗熱をとってバットに入れ、冷蔵庫でさます。固まったら、軽くほぐしておく。
(グラスに直接そそいで固めてもOK)
②じゃがいも、玉ねぎをうすくスライスする。
③じゃがいも、玉ねぎをバターで炒め(焦がさないように注意)、100mlほどの水を加え、弱火で10分ほど蒸し煮して旨味を引き出す。
④残りの水とコンソメ少々を加え、弱火で10分ほど煮る。牛乳を加え、あたためる。
※分離しないように注意
⑤粗熱がとれたら、ミキサーやブレンダーで撹拌し、塩で調味し、冷やす。
★冷たくするので、いつもより少し多いかな?くらいの塩を。
⑥グラスに、スープ、コンソメジュレを注ぎ、さいごにオリーブオイルを数滴たらす。好みでチャイブやディル、パセリをトッピング。
茅乃舎の野菜だしなど美味しいコンソメを使うのがおすすめです。
コンソメジュレをくずしながら食べると、食感のちがいがおもしろいスープになります。野菜のうまみがキリッと凝縮したジュレと、やさしいポタージュがベストマッチ。すがすがしい味が広がります。
今回使ったのは、チャイブ(ネギ科)の花。シャキシャキして、ほんのりネギの風味があってアクセントに。
作者とおすすめの本
◆作者についての私的な解説
谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)1931年東京生まれ。
52年、『二十億光年の孤独』でデビュー。
わたしにとっては、世界に「おはよう」を言い続けているひと。
(2018年東京オペラシティでの谷川俊太郎展の図録タイトルが『こんにちは』で感動した)
そして、ことば遊びのひと。いるかいないかいないかいるか。かっぱらったとってちった。
◆おすすめの本
『62のソネット+36』(集英社文庫)
この本はよく旅に持っていって、「音読して」と人にねだっています。
長野の佐久、からまつの林のなかで読んでもらったり。
遠野の牧場で読んでもらったり。広々としたところにぜったいあう詩。
※ソネット・・・4行・4行・3行・3行の詩の形式のこと。