#2 春芽ふく樹林の枝々くぐりゆき(中城ふみ子)/アスパラのサラダ
生まれたての新芽に惹かれて
4月のお散歩はたのしい。植物の生命力があちこちで芽吹いている。
春のおぼろげな青空に、ほわほわと新芽がゆれて、
生まれたてのさみどりに吸い寄せられる。
春芽ふく樹林(じゅりん)の枝々くぐりゆきわれは愛する言ひ訳をせず
中城ふみ子『乳房喪失』1934年
生命力にあふれるこの歌をイメージしてアスパラガスのサラダを。
アスパラと、いまの季節で元気な野菜でどうぞ。
アスパラのサラダの作り方
作り方
①アスパラの下の硬い部分はピーラーで皮をむく。3等分くらいに切る。
②アスパラ、あれば絹さや、スナップエンドウなどを、さっと湯がく。
③湯がいたら冷水をはったボウルに放ち、ペーパータオルなどで水気をやさしく切る。
④ひとつまみの塩、白ワインビネガー、オリーブオイルをあえる。
白ワインビネガーがなければ、レモン汁やお酢でも。
超シンプルなレシピだけど、コツは3つ。
上質な調味料をつかうこと。シャキシャキの食感が命なので、ゆですぎないこと。水気をそっと、しっかり切ること。
マッシュルームのスライスや、アーモンド、生ハムなどを加えてもおいしいけれど、詩にあわせて、春らしいみどりの野菜だけにした。
食べると、きゅっきゅ、パリパリと食感がたのしいサラダになる。
だんだん、パワーがみなぎってくるようなみずみずしさ。
レシピが適当であれですが、イタリアのことわざでこんなのがある。
A ben condire l'insalata ci vuole un avaro per l'aceto, un giusto per il sale e uno strambo per l'olio.
サラダを作るには、酢はけちんぼに、塩は正しい人に、オイルは変人に。
酢は控えめに、塩は正確に正しい量だけ、オイルの量はお好みで、ということ。塩の正しい量とは、重量の1%。これは肉でもなんでも同じ。
オイル、酢、胡椒に塩さえあれば、ブーツだっておいしくなる(Olio, aceto pepe e sale, sarebbe buono uno stivale.)ということわざもあるので、あまり気負わずに味を見ながら調整を。
ふみ子さんの恋のこと
アスパラやスナップエンドウから生命力をわけてもらいつつ、この歌を生み出した彼女のことをおもう。
彼女は離婚して幼子を連れて戻った北海道で年下の男性と恋愛、大スキャンダルになる。そしてこの歌は、30歳、乳がん発症後。そして31歳で亡くなった。
「われは愛する言い訳をせず」最初この歌に触れたときは、
スキャンダルに負けねーよ!という覚悟の歌だと思った。
自分に対しても、世間に対しても、言い訳はしない。
死を覚悟してなら、いっそう、強くこざっぱりとした印象を受けた。
でも、やわらかい生まれたての、春風にふるふるゆれる葉っぱをみると、こころの弱いところがキュッとなって、
思わず愛さずにはいられなかった、繊細な、そして自然な愛だったのかもしれないと思いはじめた。
春芽ふく樹林の枝々くぐりゆき、というところまではまるで軽やかな少女のようだ。春の木々の前では、みんな幼子にもどる。
今、「わたし」は30歳で、乳がんで、子が4人いて、年下男性と恋愛スキャンダルになっていても。彼女はきっと本質的には変わっていない。
愛する言い訳はしない、というのは、宣言というよりはごくナチュラルな感覚だったのかもしれない。
少女時代は、女性らしく一生を終えたい、と願っていた彼女。
思っていたよりずっとずっと苛烈な恋愛に出会ってしまい、一周回ってこの境地に達したのかな。恋愛は選べない。
そして、往々にして、後ろ指をさされる恋愛をしている本人の純度は高かったりする(と、思う・・・。)
戦後、世間からだけではなく文壇からも大きな批判をあびながら、そして乳がんと戦いながらもがくように激しく生きたイメージが強い彼女だけど、
ホワホワの新芽を見た日にこの歌を「味わう」と、
彼女のむきだしの魂にふれ直す思いがする。
奇しくも、今、私は、彼女がこの歌を詠んだのと同い年。
もし彼女に天国で会えるとしたら、この愛のこと、聞いてみたい。
超濃ゆいガールズトークができそう。
作者とおすすめの本
◆作者について
中城ふみ子(1922−54)北海道生まれ。寺山修司とともに、現代短歌の出発点として戦後活躍した歌人の一人。『乳房喪失』。なかなか激しい人生を送っているので、気になる人はWikiへ。どなたが編纂したのか、かなり気合入っています。(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9F%8E%E3%81%B5%E3%81%BF%E5%AD%90)
◆おすすめの本
中城ふみ子歌集