映画『ビューティフル・ガールズ』と、スウェーデンの自動車メーカー「SAAB(サーブ)」の消滅について。
〈2016年に書いたブログ記事を転載します〉
ビューティフル・ガールズという映画がある。
ティモシー・ハットンが友人の俳優たちと作った映画で、キャストがやたら豪華なわりに地味な映画である。この映画ですこぶる印象的なのは、クルマの描き方だ。
冒頭、売れないピアニストの主人公(ティモシー・ハットン)は、ニューヨークのバーでピアノ弾きの仕事を終えたあと、グレイハウンド・バスに乗る。まずここで観客は、ああ、こいつはカネがないのね、とわかる。手にはリユニオン(同窓会)の案内状。
久々に帰った地元の町で、真っ先に出迎えてくれたのはかつての悪友だ。地元で就職して、同級生と結婚して、娘がいる。そんな悪友が乗ってくるのは、ジープ・ワゴニアだ。日本でも一時流行ったワゴニアは、雪深い田舎のマイホーム・パパにぴったりだ。
かつてのプロムのキング(マット・ディロン)とクイーン(ミラ・ソルヴィーノ)は結婚して、キングは地元で商売を始めている。
オンボロのトラックに除雪機を取り付けて、ダチ仲間と雪かきの仕事をしている(アメリカでは、トラックの前部にショベルカーのシャベル部分を取り付けた、簡易的な除雪車の文化があるのをこの時知った)。スクール・カーストの頂点の二人だったが、キングが浮気をしているのを皆が知ってる。田舎町だ。
キングの浮気相手は、町の金持ちの奥さんだ。旦那は、型落ちのBMWの3シリーズに乗っている。かつてヤッピーが好んだクルマだ。いかにも見栄っ張りな感じ。(でも、あまり手入れはされていない)
主人公は29歳で、ピアニストとしては芽が出ず、結婚を控えていて、堅気の仕事につこうか悩んでいる。
同窓会に帰った実家で、隣に住んでるまマセた美少女に、ちょっとドキっとしたりする(ナタリー・ポートマン、キャラはレオンのマチルダそのまま)。実家のアホな弟は、デヴィッド・アークエット。
そんな田舎に突然、洗練された都会の記者が現れたり(ユマ・サーマン)、
キングの浮気がばれてイザコザがあったりするのだが、物語の終盤、主人公のフィアンセがニューヨークから追いかけてくるのだ、クルマで。
ニューヨークの弁護士で、でも高飛車じゃなくて、感じがよくて(ブルネットの知らない女優、Annabeth Gish )、
実家の親父とアホな弟はすっかりホダされてしまうのだが、そんな彼女が乗ってきたクルマが…
サーブ。
なんという絶妙なチョイス。アメ車はもちろん、ドイツ車でもない、ボルボでもない。スゥェーデンの飛行機メーカー。上品で、少し繊細で、知的な感じ。
特に車内の音。キングのボロいトラック(たぶんエンジンはOHV)はゴロゴロガラガラ野蛮な音が全開で、サーブの車内はシューッと洗練された音がする。
この映画を見たとき、ちょうど自分も29歳で、才能はあまりなくて、デザインの仕事を続けるべきか悩んでいて、この映画のことはよく覚えてる。
2016年6月23日、サーブの消滅によせて。
https://www.google.co.jp/amp/s/s.response.jp/article/2016/06/23/277342.amp.html