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ひとつのどら焼きがひとりの少女を救った話

何となく。普段から話のネタにしている風俗話を脚色交えてまとめてみようかなと思います。

一時期、テコキ風俗にハマっていた時期のエピソードを。ヘルス、ソープと比べて、テコキ風俗は脱がない・咥えない・ハメないという軽めな内容の為、低価格帯&高ビジュアルで楽しめるコスパ良い風俗になっていて、若い子と話したい、若い子にコキコキされたいときに利用してました。

6年前の暮れ。私は名駅のレンタルルームでテコキ風俗の電話番号を鳴らし、ボーっとペイチャンネルの眺めて女の子の到着を待っていた。この日は東京出張からの戻りで、自宅に帰る前にスッキリしたいという衝動に負けて、新幹線を降りてすぐにレンタルルームに入ってしまった。風俗なんてこんなものだ。衝動と欲望に身をゆだねるものだ。と、当時年間100万以上も風俗代に費やしていた私は毎週こんな欲望に負けていた。そうこうしているとチャイムが鳴った。見た目は20歳前後の垢ぬけていない女の子。雑誌の付録でついているような単色のトートバックを携えて、ドアの前でちょこんと不安げな表情で小さくお辞儀していたのがとても印象的だった。

部屋に入った彼女は、部屋の入口付近でポツンと立ったまま、こちらに対して怯えた表情を向けていた。「大丈夫だから!安心してよ!」。そう声をかけても身体、表情ともにぴくりとも動かない。さて、どうしたものか。手元に用意していた缶ボトルのホット緑茶を差し出して、「寒かったでしょ。部屋のほうは温かいから来なよ」。もう一度声をかけると、彼女は堰を切ったよう涙を流し始めた。

突然の出来事にわたわたしている私をよそに、彼女はただただ声を出しながら涙を流している。どうしたらいいものか。私は彼女が泣き止むのを待った。数分後、彼女は泣き止んで、か細い声で今の状況を話してくれた。

彼女は昨日入店の新人らしく、テコキだけの軽い風俗だと思って男性客のもとへ向かったが、初めて付いた客がかなり乱暴だったらしく、とても怖い思いをしたこと。その後の男性客も怖くなったが、その日は頑張ってやりきったこと。ラスト客が終わった後、店長に辞めたいという意思を伝えたが、「風俗で働いていることを親にバラすぞ!」と脅されて更に怖くなったこと。暴力と脅迫の恐怖で、昨日は一睡もできなかったこと。今日は夕方からの出勤で、このまま客が付かないまま終わってほしいと思ったが、退勤2時間前に呼ばれてしまったこと。そして今日初めての男性客が私だったこと。すべてを話してくれた。

話を聞いているうちに、彼女の涙が引いていき、声もだんだん出るようになってきていた。それでもまだ不安そうな顔だった。こうなっては仕方ない。私は彼女に何もしないこと、彼女とトークのまま時間を終わらすことを約束した。それを聞いて女の子はようやく安心したようだった。彼女の名前は真夏(仮名)ちゃんというらしい。そこからなんてことのない会話を10分くらい続けていると、終了5分前のアラームが鳴り響いた。そして、彼女は再び怖がりだした。

この時間だと、他の男性客にもう一回付かなくてはならないらしい。まだ恐怖は残っている様子だった。ここまできたら仕方ないな。私は間髪入れずに「30分延長するよ。そうしたら他の客付かなくて済むでしょ」と、彼女へ伝えた。彼女は戸惑いながらも、事務所に折り返して30分延長の旨を連絡した。後の客予約が入っていなかったから延長が通ったらしい。彼女は私に感謝しつつも、恐怖のぶり返しと、私への申し訳なさで再び泣き出してしまった。

さて、どうしたものか。そのとき、手元に地元で買ったどら焼きがあったことを思い出した。よしっ、これを渡そう。そう思い。「これでも食べて」と、どら焼きを彼女へ差し出した。昨日は一睡もできないと聞いていたが、どうやら昨日の昼から食事も喉が通らなかったらしい。一口食べるごとに血色が良くなり、いつの間にか食べ終わる頃には涙が止まっていた。『美味しい食べ物を食べると、涙って止まっちゃうんですね』ようやく笑顔になり、そう照れながら話す真夏ちゃんの表情が今でも脳裏に強く残っている。

サークルの先輩が気になっているという恋の悩みから、駅ナカ百貨店の○○の和菓子が美味しいという有益な情報まで、これまで詰まっていた感情がトバッと溢れてくるのが伝わるくらいハキハキと笑顔で話す少女がそこにいた。結局テコキをお願いする状況じゃなかったけど、こんな素敵な笑顔が拝めたからいいかな。2回目のアラームが鳴るまで、年齢相応にかわいらしく喋る真夏ちゃんの話をずっと聞いていた。

2回目のアラームが鳴った。もう別れの時間だ。彼女は迷いない口調で事務所へ連絡を入れていた。フロントに退出コールを入れた後、「真夏ちゃんが乗る高速バスの停留所まで一緒に付き添うよ」と声をかけた。彼女もニコッとした表情を返してくれた。部屋のドアを開ける間際、「きょうで風俗やめます!色々とありがとうございました!」と、彼女は笑顔でちょこんとお辞儀をしてくれた。そうだよ。それが正解だよね。私も小さく微笑み返した。今夜、何事もなく彼女が帰宅できれば、きっと事務所は何もできない。そう私は確信していた。極度のプレッシャーから解放された真夏ちゃんは、「お腹すきました~」、「今夜の夕飯、お母さんが鍋って言っていたんですよ!」と、バス停に向かう道すがら無邪気に語り続けてくれた。それがとても微笑ましかった。一応、事務所から脅されたときに相談できる相手がいないと不安になると思ったので、「こちらから何も送らない」ことを約束して、彼女とLINEの番号を交換した。そろそろバスが到着する時間だ。

「どら焼きの味。絶対に忘れませんからね!」そういって、真夏ちゃんは高速バスで片道1時間かかる水の都へ帰っていった。こんな出来事もたまにはあるよな。そう思い、私はレンタルルームの裏に停めていた車に乗って帰宅した。あっという間の濃密な90分を反駁しながら、自分が彼女にした行動が正解だったのか悩んでいるうちに0時を過ぎていた。そろそろ寝なきゃ。と、布団に入っていたら、枕元にあったスマホがブルっと震えた。「夕飯は水炊きでした!」一言だけのメッセージ。その言葉に私は小さく口元を緩めて、寝室の電気を消した。

という。風俗ビジネスの怖さと、食べ物がもつ強さを表現した冬の風俗エピソードでした。ちなみにどらやきはこちらのお店です。(現在休業中だけど)うまいぞ!!!!!


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