Podcast編集をCubaseでやってるという話
ここ半年強、知人の会社「株式会社anno lab」さんからご依頼を受けてあのラボの脳みそビッグバン!というPodcast番組の編集を担当させていただいております。
具体的には第二回からやっております。
今回はざっくりどうやってるかだけつらつらと書こうと思います。
気が向いたらそのうち細かい設定についても説明するかもしれません
まあ細かいところは動画で喋ってます
音声編集はほぼ無経験だった
まったくの0では無いのですが、ほぼ無経験で引き受けました。まあできるだろうと。
根拠は簡単で、YouTubeの動画でさんざんやってるからです。
技術的な部分で悩むことは無く、必要なものは技法的な部分でほんの少し意識を変えるくらいです。
「画がない」という点で強引なカットは違和感になりやすく(動画であれば映像も変わるのでカットされたことが分かる)、強制的なカットはちゃんとBGMのフェードイン等でしっかりシーン遷移してあげないといけません。
あとはまあテロップで補足とか出来ないので内容にちょっと注意しながら、くらいです。
何で編集しよう
ツール選び、これに最初は悩みました。結果Cubaseにしました。
他の手段もあるのですが、大体理由は以下の通り
・Premiere
常用しており慣れていて、カット編集作業も最速。映像であってもカット編集は波形を見ながらやってるので違和感なく作業ができる。
最有力であり、おそらく一般的にもベストチョイスなものの、UI的に映像成分が要らない為もったいない気分。なによりミキサー周りがちょっと使いづらい
・Audition
Premiereをそのまま音声のみに特化させたようなソフト。Premiereで気になった無駄がなくなって良いじゃんと思うものの、他に有力候補がある中でわざわざ新規でAuditionをインストールするか?という気持ちで保留。
・DaVinci Resolve
無料であることで自分自身の所有物で完全に完結できる安心感がでかい(Adobeは会社名義)。いつフリーランス化しても困らない。
音声周りもPremiereより好きで、普段から自分の動画の編集は音声含めて使用している。
ただしカット編集がやややりづらく、ミスも招きやすい。
・Cubase
作曲・SE制作で長年使用中。単純にツールへの慣れで言えば圧倒的。
音声の調整はどう考えても最強ながら、カット編集への適正が未知数。
という感じでした。結果的にやはり音質を自在に調整できること最優先でCubaseを選び、最初はカット編集が耐えうるかを確認しながら使用しました。
結果ある程度の環境構築でカット編集の懸念もなくなり、結果ベストチョイスだったと思っております。
とにかく最適化
まずはショートカット設定と理想のプリセットづくり。最低限整え、その後は毎回同じ作業するなーという点をブラッシュアップし、現在の状況で落ち着きました。
ショートカット設定
とにかく「切る開始点の指定」→「終了点の指定」→「削除」→「空白詰め」を早くできるようにします。毎回数百回繰り返す作業なので、1手でも減らすことができれば作業速度が即高速化します。
Cubaseはショートカットを自由に設定できるのはもちろんですが、マクロを組むこともできるためにかなり設定を詰めることができました。
具体的には
1.キーA → 開始点を切る
2.キーB → 終了点を切って開始点との間を削除して左詰めにする
の2手で可能になりました。
2つのキーは隣同士にし、元からある常用キーと被らないようにと考え、「;」「:」に割り当てました。
左手デバイスの導入
ショートカットキーを設定したものの、「;」と「:」は左手から遠すぎました。Cubaseのタイムラインを常に移動、拡大縮小させるため、左手はCtrl,Shift辺りが定位置になってます。
これじゃ効率が悪い!と思ったものの、キーボードの左側って割り当て済みキーが多く、上書きするか悩みました。
上書きしても良かったのですが、別作業で変に困っても嫌なのでここは左手デバイスを導入してみました。
左手デバイス割り当て
現在9キーを使用しています(手元に写真が無い…)
割り当ては
[Undo]・[Delete]・[ 無し ]
[ Shift ]・[ ; ]・[ : ]
[ Ctrl ]・[ J ]・[ Space ]
にしています。
Jはグリッド吸着オンオフです。Cubaseの「シャッフル」をオンにすると空白を無くすように左側に吸着するので、カット時にはオン、BGM等の位置微調整時にはオフ、と頻繁に切り替える必要があります。
Ctrl,Shift,Spaceの配置はキーボードに近い配置にしています。これはもう左手がそういう風に仕上がってますので、わざわざ変に配置を変えずこれらを最優先で手に馴染む位置に配置しました。
その上でメイン用途であるカット用キーの「;」「:」を押しやすい位置に配置。
これで、Ctrl=小指、Shift=薬指、;→中指、:→人差し指、Space→親指のホームポジションが完成。惜しむらくはShiftがちょい左過ぎて押しにくいところ。日々当たり前のように使ってるキーボードのオフセットレイアウトの素晴らしさを実感します。
で、左手デバイスの弱点とも言えるのですが、このデバイスでほぼ完結させないとキーボードとの行き来が生じ、結局使えないということになります。
で、その完結させるために必要なものとしてUndoとDeleteを置いています。
そこを補うために6キーでは足りず9キーに買い替えました。使ってみないと判断が難しいですね。
現在使用しているのはKoolertronというところの9キー。手元に写真が無いので商品写真を貼っておきます
ツマミも2つあり、拡縮や位置移動を指定してますが、正直使ってません。
Cubaseでの操作で元々Ctrl、Shift併用のマウスホイールでやってるので、わざわざここに割り当ててもまあ使わないですね。
余談ですが右上キーが割り当てられていないのはここにレイヤー切り替えを入れているからです。専用スイッチが無い…
必要であればそういう裏側の操作はツマミ押し込みに割り当ててもいいと思います。
更に余談ですが私青軸キースイッチ大好き人間なので青軸が選べたのが嬉しいです。ここも好きなものじゃないと馴染まない気がするので重要かなと思ってます(逆にメインキーボードの軸選びに試す目的で色々使うのもいいかも。比較的安価ですし)。
その他まあまあ使うキーは数字キーとXでクロスフェードとかですが、よほど継ぎ目処理が必要な時くらいにしか使わないのでまあここは通常キーボードでやってます。
プリセットの作成
UI、ハード面は解決したので今度はソフト面。
毎回同じことをするような部分はプリセット化しちゃいます。Cubaseのプリセット作成はシンプルで、「今の状態でプロジェクトが立ち上がる」というものです。
毎回やることは
・音声、SE、BGMトラックの準備
・各音量、音質の調整
・マスターの調整
・モニタリング環境の構築
です。ここはもう開始時には準備できていて、貰ったwavファイル突っ込めば即編集開始できるようにしておきます。
3人の音声は大体毎回同じような状態ですので、標準設定を作っておきます。もちろん100%同じではないので必要に応じて微調整します。
各者トラックに配置、ノーマライズ処理をします。
その後それぞれWAVESのVocal RiderとC1gateを通って軽くEQ調整したのち話者グループチャンネルに送ってます。
3人居ると低音が耳につきやすかったりそれぞれの声質の特徴があるため、そのへんを少し整えてます。やりすぎない塩梅が難しいですね。
Vocal Riderはコンプ臭をさせない音圧自動調整プラグインなので初段に通しています。流石にラジオパーソナリティのプロが喋る訳では無いため、全体通して声が小さいときもあれば大きいときもありますので、この段でその辺を整えます。
C1でもう少し極端な変動を抑える感じです。爆笑の音量を抑えたり、無言時のカブり音声を削ったり。
と話してて今思い出しましたがWAVESのClarity VxとClarity Vx DeReverbも通してました。
自然な環境音で、とのコンセプトではあるのですが、3人分のマイクがあると単純にノイズ成分は3倍になってしまうため、この辺のプラグインをうっすらかけたり、先述のゲート処理などで、せめてノイズ・環境音が自然な量に落ち着くようにしています。
話者音声を1つにまとめたのち、再度コンプで整えています。
3人で爆笑すると音量が跳ね上がってしまうため、全員足した状態でリミッターに近い意図でコンプをかけています。
これで毎回の編集後、特にミックス作業をしなくても目標の-18LUFSに自動的に落ち着きます。(実際には-18.3~-18.6くらいの範囲)
BGMやSEも概ね同じくらいの量入るので、ほぼ変動ないです。
あとはBGMトラックとSEトラックも音量を整えた状態で用意しています。
BGMはイントロは同じ曲で、毎度同じタイミングで音量を下げてスタート、となるのでそこまでもプリセット化しています。
あとはついでに切り抜きショート用の書き出しも考えてサイクルマーカートラックを配置し、またBGM,SE素材もすぐアクセスできるように整えています。
実作業の流れ
まず貰ったwavファイルを置きます。32bitFloatで来るので安心感あります。良い時代ですね。
で、ノーマライズをかけます。私は-24LKFSにしています。これで初段のVocal Riderへの入力量もほぼ毎回一致します。微調整するのはVocal Rider内でやります。
で実際の音を聴いて話者のトラックを一致させます。それぞれEQを少しかけてるのでトラックが決まっています。それでなくても毎回同じ配置のほうがやりやすいです。
で、次に全体の尺を確認します。「30分程度」という指定なので、可能な限り30分超えないラインを目指します。
元が30分程度なら軽めのカットで余韻や間合いを残しますが、35分とかが来れば結構削ります。もちろんそれらは聴きやすさの範囲内ですが、「あのー」とか「えーっと」とかをどれだけ削るかとかですね。
それ以上の尺で来たら丸ごとカットの部分も無いか意識します。「残してたら残してたで悪くない話だな」のラインの話の取捨選択具合を決めます。
まあ長尺になってても途中トイレ休憩入ってましたとか有りかねないので難しいのですが(ある程度は波形で判断)、慣れてくれば「ここからもらうデータはあまりそういうことはない」とか「オフレコ前提部分多め」とか分かるのではないでしょうか。
んでまあひたすらカット編集&BGM、SE付けです。
個人的にはあまりSEとか鳴らさない方が好きなので、第一回でされていた「カーン」と「カンカンカン」という話の入りとオチの音だけ入れています。
たまーに他の音も入れます。
BGMも毎回悩みますが、話の切り替え時には便利ですね。BGMが終わってから本題に入るような雰囲気。オチ前にも入れて、終盤感を出します。
あとはテンションが上ったり、急激に変化が起きた際に入れてます。
逆に「BGMを切る」というのも強調に使えます。
ちょっと使いすぎかなーと自省しつつ多用してるのが「突然変なことを言った時」や「口上を噛んだ時」にBGMぶつ切りにするやつです。まあある程度は癖をだしてもいいのかなと。
あとたまに弄り倒します。「音楽がドンドンって~」みたいな話の時はその場で即興で曲作ったり(CubaseなのでTL上でそのまま作れちゃう)、「LRで音声が~」というときにパン振ってみたり、そういう遊びも時々入れます。
でもこれらって「Podcast番組を整える」以上の行為なのでホントたまーにに留めてます。自己主張せず、且つ自分がやる意味、メリット、みたいなバランスを心がけます。
あとは少しは印象付けたくて。他番組と少し違う要素、また同番組の別回とも違う要素はほしいなと思ってます。定食屋の変わらない鉄板メニューに、ちょびっと期間限定メニューを、という感じです。
んで無事編集が終わったらラウドネスを確認。まあ大体-18.5LUFSくらいなので-18.2LUFSくらいに落ち着くようにマスターに入れてるL2のアウトプットを調整して書き出して完成です。
最初は-16LUFSとかにしてたと思うのですが、他番組との差がちょっとあったので-18LUFSに落としました。マスターを下げるというよりコンプを弱めた感じです。結果「小さい声がより小さくなった」となっちゃうわけですが、これまでの「通常音量も常に軽く圧縮されてる」という部分のかかりも弱くなりナチュラル化できたんじゃないかなと思ってます。
Cubase選んで間違いなかったという結論
「正解」かは分かりません。他を選んだらもっと良かった可能性は0ではないので。しかし困ることは無く、マクロ等を使える人であれば選んで間違いないよと言えるかと思います。
なにより音声を扱うときの軽快感や安心感があります。VSTの負荷とかも。
こういうとき「普段使わないけど色々機能があるなー」という感じのソフトは強いです。
Cubaseで言えば通常の作曲はもちろんですが、映像同期の曲を作るときに動画ファイルを読み込めるのはありがたいですし、SEを作成した際はサイクルマーカーで区切って一気に書き出しも出来、今回はカット編集もできる機能が備わってることが分かりました。
やりたいことはその先
とここまで話しつつ、あくまでツールの使いこなしはスタート地点。
必要なのは番組構成やカット内容、演出、判断、です。
ここで区切ろう、ここはBGMで盛り上げよう、ここは冗長なのでカットしよう、重要なのはそっちですね。
あとはリリースまでの工程で貴重な「第三者」なので、初見時の違和感や不安感を大事に話の取捨選択をするのも大切ですね。
まだまだPodcast編集初心者ではありますが、今後もアプデしながらやっていきたいと思います。
…まあ同時に効率化→作業化になってしまってだんだん飽きてしまい、結果他人に任せたくなったりもするんですけど笑
そうならないように楽しいことやチャレンジは入れつつやっていきたいです。