アメリカからの手紙
ずいぶん昔の話だけれど、アメリカに友人たちと訪れた時のこと。まだネットなんてダイヤル回線でメール程度にしか使っていなくて、個人旅行手配専門の旅行会社に行って、宿の冊子を見て申し込んでいた頃だ。ロサンゼルスで目が空ろになって叫んでいる男がホテルのドアを叩き壊そうとしてきたので、英語もまともに喋れないのにセキュリティに電話して助けてもらったことや、飛行機が遅延して乗り継ぎに間に合わなかったこと、挙げ句の果てに荷物が載せ忘れられたり、ニューヨークではパスポートを首から下げて服の中に隠していたことなど、いろんなことがあった。今よりもずっと旅に手間がかかって、慣れていないこともあってドキドキが多かった。
それでも無事に帰ってきて、しばらくした頃、アメリカから郵便が届いた。なんだろうと思ってみると、日本語で書かれたアメリカのどこかの都市のガイドブック。私がどこかで紛失したものだった。添えられた手紙を読むと、飛行機のポケットでこの本を見つけたそうで、本に挟まっていた母宛の葉書の住所宛に送ってくれたのだった。
全然理解できない言葉の本を、持ち主に届くかなんてわからないのに、わざわざ切手代を出して国際郵便で送ってくれる人がいるのだ。「We hope this book finds you well」というようなことが書いてあって、あーそういう風にfindを使うんだなぁなんて思いながら、拙い英語で返事を書いた。「ものを無くしても海外じゃ返ってこないわよ、日本だからよ。」と注意してくれる人もたくさんいるのだけれど、なぜか私は何度か無事に返ってきている。アメリカでも、タイでも、ベルギーでも。場所によってスリや窃盗が多い少ないはあるけれど、どの国でも良い人がたくさん住んでいるということを知れたのは、おっちょこちょいの役得だ。