#8 〖技術を生かす立役者。〗
みなさん、こんにちは!IG-FARMのインタビュー企画第8回目は、株式会社フィラメントの『渡邊貴史』さんからご紹介頂いた、東京工業大学 准教授の『仙石慎太郎』さんにお話しを伺いました。私は大学・大学院で研究室に籠る生活を経験しておりましたが、当時自分の研究内容がどのように社会の役に立つのか?という具体的イメージがなかなか出来ておりませんでした。仙石先生のお話を当時の自分が聞いていたら、連日徹夜続きの実験作業にも、もっとやりがいを感じることが出来ていたかもしれません。(苦笑)それでは早速お話を覗いてみましょう!
Q1.今、どのようなチャレンジをしていますか?
研究職として、技術経営(Technology and Innovation Management)に関する研究や教育に携わっています。技術を生み出すまでが、自然科学といったエンジニアリングの分野となりますが、生み出した技術をどのように社会に実装していくのか?経済的な価値を生み出していくのか?という後工程の部分が私たちの研究活動の対象です。現在、東京工業大学に在籍していますが、8割の研究室が前者を研究対象としていますが、我々は後者の役回りです。分野としては社会科学・経営学(いわゆる文系)ですが、もともとのバックグラウンドは理系で、ちょうど文系と理系の橋渡しをしている立ち位置となります。
Q2.今チャレンジしていることがどのような未来をつくっていきますか?
「バイオ」「ヘルスケア」がもともとのバックグラウンドであり、関心がある領域です。その中でも今は「持続的な健康」に一番関心があります。なぜ持続的なのか?というと、例えば、どんなに良い薬でも、値段が高かったら困りますよね。そして、日本ではそれらを税金で払うので、国費を圧迫することにもなります。如何に「安く」「便利に」治療できるか、そもそも予防できるのか、という観点が必要になってきます。現在まさに新型コロナウイルス感染症の流行がヘルスケアの問題として挙げられており、最近では大事なテーマになってきています。
(社会への実装という観点で、)「バイオ」「ヘルスケア」を用いる具体的なイメージをご説明頂けますか?(石原)
「技術をどのように生かすのか」という例えだと、現在、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、厚生労働省がアプリを配信しています。これもヘルスケアの技術を社会へ実装した例の1つです。人々の行動をモニタリング(監視)してトラッキング(追跡)して、(感染が疑われる人に)接触した場合には教えてくれる、10年前にはこのような技術はありませんでした。さらに10年後には"5G"といった技術により、単に自粛しなさい、というだけではなく、きめ細かい対策を行うことが可能になってくると予想されます。
もう一つの例として、前職の京都大学で誕生した、万能細胞と呼ばれるiPS細胞(多能性幹細胞)が再生医療に使えるのか?役に立てるのか?という検討にも関与しています。ノーベル賞をとった画期的な発見・発明としてはすごいものですが、これをどのように価値にしていくのか?を今後も考えていく必要があります。
大学院で生物の研究をしていた頃、基礎研究を社会にどのように適用していくのか、結び付けて考えることができなかった時期があります。研究技術を社会に有効化していく際に気を付けていることはありますか?(藤沼)
一番大きな点が、「研究技術」も「社会」も両方分かっていないといけないことだと思います。研究者は、基本的には研究できていれば楽しい人たち。社会のことをあまり考えずに、「如何にして論文を書くか」「今いる学生がちゃんと卒業してくれるのか」「如何にお金(研究費)を獲得するのか」を考えていることが多いです。しかし、社会の立場からするとそれでは困ってしまいます。「役に立つものを出してくださいよ」と、特に企業からはそういったニーズはあります。そういった、両方の立場を理解している、クロスオーバーな人材が必要。どちらか一者であると、バイアスがかかってしまい、片側(の観点で)しか見られないことになってしまいます。
「予防」という考え方は、コストを掛けようと思えばいくらでも掛けられる気がしますが、どのような観点で見ていらっしゃいますか?(藤沼)
医療経済学や経営学の分野になりますが、まさに費用対効果、費用対便益といったフレームワークに則って評価していくことになります。まずはしっかりと経済分析していくことはもちろんですが、重要なのは細かいテクニックよりも、何かアクションするには「コストがかかる」もしくは「資源を使う」ということです。その一方で、効果が測定されなければなりません。費用対効果、生産性でものを考えることが重要です。この度の新型コロナウイルス感染症対策では、真水で20兆円、名目それ以上の資金を(国が)出しています。「医療上のインパクトがどれくらいあるのか?」ということは、突き詰めれば「命の値段」になりますが、誰かが検討しなければなりませんし、頑張って自粛しても経済的に困窮して自殺してしまう人が増えてはなりません。生産性との比較を意識する必要があります。
Q3.二十歳に戻れたら、その未来に向かって何をしますか?
(これまで経験してきた内容と)あまり変わらないと思います。理系の大学院に行って、研究職があれば研究者になると思います。
これまでインタビューしてきた人の中には「大学に行かなくてもいいかな」「起業するかな」という人もいますが、20歳前後の学生が学ぶ環境で今後必要なことはどんなことでしょうか?(藤沼)
大学の立場なので、まずはまじめに勉強しましょうということです。勉強は学校だけではなくて社会勉強もあります。広い意味での勉強(学問)をちゃんとやったほうがよいと思います。起業するための検討も広い意味での勉強ですし、やってみることも勉強。何か目的をもって意欲的に学ぶことが広い意味での勉強となります。そして、常にアウトプットや生産性を意識すれば、何をやっても為になります。ただ、それを追求しすぎてしまうと仕事人間になってしまうので、プライベートの両立も考えるべきです。唯一、20歳に戻れるとしたら、もっと早く結婚して、もっと子供を作りたい、という気持ちはありますが、それはアウトプットで測れるものではないです。
Q4.(ご紹介してくださる)素敵な人を教えてください。
*現在調整中となります。個人的にはとてもワクワクしています...!!!
(インタビュー風景:左下が仙石慎太郎さん)
---------------------
仙石先生、インタビューありがとうございました!
インタビューを受けて、IG-FARMメンバーの感想です。
(Ohno)
「真面目に学んでほしい」っていう言葉がとても印象的でした。大学の授業を真面目に受けろという意味ではなくて、目的をしっかり持って、社会で自分がどう生きていくのかを真面目に考え抜けというメッセージに聞こえました。大学生にこそメンターが必要で、客観的に自分のことを見てくれる存在を、一人ひとりにつけることができないものかなぁと感じました。
(Fujinuma)
世界では「MADE IN JAPANのクオリティ」「日本は技術大国である」というイメージがまだ根強いかもしれませんが、一方で日本はそれらの技術をまだまだ生かし切れていないと日々感じていました。さらに、機械の発達により、世界との技術格差は確実に埋まってきていると実感しています。発見・発明した技術を宝の持ち腐れにするのではなく、如何に社会に適用していくのかを考えていく「技術経営」という分野は、今後どのようなインダストリーにも必ず考慮していなかければならない視点であると思いました。
(Shirai)
持続的な健康からwithコロナ時代における厚生労働省の取り組みなど多岐にわたって興味深い。その厚生労働省の話でモニタリングやトラッキングというワードがてでくる。中国のような国家が強い国であれば、難しくない。しかし個人の自由が保障されている日本では、国民の善意を上手く引き出さないといけない。そのためにアプリやlineという手段を取ったのだと思う。技術と社会の両方を理解する必要がある。新しい未来を作っていく取り組みを応援していきたい。
(Ishihara)
今まで、大学などで研究されているものが、その後どうなっているのか、恥ずかしながら考えたことがありませんでした。
技術経営という研究分野が、研究と社会での実践を繋いでいると考えると、本当に有難いものだなと思います。
もっと技術経営などの分野が広まることによって、さらに社会が豊かになっていくといいなと思いますし、そこからまた新たな研究が増えたりしたら、日本の技術はまだまだ上を目指していけそうだなと思いました。
(yamaguchi)
私が専攻している経済学は自然科学分野との接点が多いため、理系側から文系側への橋渡しをされている仙石さんの取り組みやお考えは大変興味深いです。私はどちらかというと、新しい理論の発見や開発ではなく既知のものを社会に応用することに興味があるので、仙石さんの経営学とは少し立ち位置が違いますが、自分の将来像を考え直す上で非常に参考になりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
---------------------
仙石 慎太郎 (2020/7/1)
---------------------
IG-FARMは、随時メンバー募集しています。