二度と逢えない、あなたへの手紙
もう二度と逢えないあなたへ
猜疑心が強くて人を信じなかった私を
外の世界へ連れ出したのはあなただったことを最近よく思い出します。
劇団四季のチケットを用意して
ミュージカルを見せてくれたり
ディズニーランドに朝から並んで
閉園まで面白おかしく過ごしたり。
おっちょこちょいなあなたは薬を飲み忘れ、
アトラクションに並んでる間にうずくまり、
私は慌てて水道で水を汲んで
薬を飲ませましたね。
乗り物を降りた後けろっとした顔で
微笑っていたのにはやれやれと溜息が出ました。
そうやって私は人といる楽しさを
あなたから教えてもらいました。
おかげでいまはとても寂しいです。
もうあなたはここにいないのだから。
私が知らなかった「寂しい」という感情を
教えてくれたのもあなたでした。
自分の病を抱えながらあなたは私のことを考えて
そして自分の病を根性で克服してみせ
幸せを掴みましたね。
慈悲を頼りにせず、
自分の力で。
あなたに甘えてばかりで、
ろくに恩を返せず、
いつの間にかあなたは手の届かない世界へと旅立っていた
最後に電話した時のことを憶えています。
私は山に登って、
頂上で、一人で泣いていた。
生きているのが一番つらかった瞬間だった。
その時、あなたに電話をかけた。
さよならをいうための電話だったのに
あなたはわざわざ迎えにいくと、
本気で言ってくれましたね。
そのとき私は、
生きねばと思ったのです。
生きる意味がここにあったのだと、
そう思ったのです。
この声はもうあなたに届かない。
けれどここに書き留めることが、
大切な気がしたのです。
私は今なんとか生きています。
あなたがいなくても、
これからも、生きていこうと思います。
精一杯、生きていこうと思います。
だから、安心していてください。
もう山の上で一人で泣くことはないと思います。
まっすぐに、本当の気持ちを大切に、
生きていきます。
いつまでも不甲斐ない私より。