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人には人のやすみ(加東)

一度だけ家族でディズニーランドに行ったことがある。
 
自分が小学校5年生ぐらいのときだったと思うが、父親が会社に勤めて20年ということで、勤続手当とまとまった休みが与えられたので、せっかくならば、となったのである。
京都の片隅に住んでいた西彦少年は、テレビでしか見聞きしない東京という場所に漠然とした憧れがあったし(千葉だが)、けっして機会が多いわけではない家族旅行に行けることを内心楽しみにしていた。
何より、父親が真面目に仕事をしてその見返りをもらったという事実が誇らしく、旅行前には同級生に事あるごとに自慢していたような気がする。
 
ただ、この旅行自体の記憶はほとんどない。
 
行き帰りの新幹線も、乗ったアトラクションのことも、何を食べてどこに泊まったのかも、全然思い出せない。
思い出すのは、行列と人混みに耐えかねて帰りたいと駄々をこねる弟(小学校低学年)、泣き出す妹(未就学児)と、それをあやす両親のことである。
帰ってきてから、同級生に思い出を語ることもあまりしなかったのだと思う。
 
その後大人になってディズニーリゾートに行くとちゃんと楽しめるのだが、これがファーストコンタクトだったので、今でもあそこが夢の国だとはどうも思えず、「ありふれた現実を突きつけられた場所」になっている。
 
 
「やすみ」は「ツラい日常」の裏返しで、つまりポジティブなものとして世界は廻っている。
自分も会社員として過ごしていると、あのときの父のように、休みに子供を連れて旅行に行くという同僚に「楽しんできてください」と声をかけることがある。
あのときの父もそのような言葉をかけられて会社を出たのだろうか。お土産を配りながらどんな話を語ってみせたのだろうか。この年齢になってそんなことをたまに考える。
 
 
何をするにも息苦しいこんな世の中で、一見幸せな日々をおくっている人を見ても、「まあ人には人の地獄がありますわな」と心の中でつぶやくときがあるが、それとほとんど同じ感覚で「人には人のやすみがありますわな」とも思っている。
 
 
 
そんな「やすみ」の話をやります。よろしければぜひ劇場へ!

加東西彦(劇団員)
 
 
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ポッキリくれよんズ 第8回公演『いっかいやすみ』
@下北沢・シアター711

[DATE]
7.12[金] 14:00 / 19:30
7.13[土] 14:00 / 19:00
7.14[日] 13:00 / 17:00



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