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恋愛相談

林伸次さんの短編集『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』を読んでいる。

そのせいか、ふと恋愛相談について思い出したことがあった。
正確に言うと「恋愛相談されなかったこと」か「恋愛相談にのってやらなかったこと」か。
とにかく私は見ていただけだったという思い出だ。

高校生くらいから、たぶん何人か友人の恋愛話を聴いたことはあったけれど、その二つの恋、ひとつは三十年前、もうひとつは割と最近身近であったんだけれど、私は何も言えなかった。

女性はどちらも私の同僚か職場関係の人。
男性もそうだから、結局は職場恋愛か。
なんだかそういう言い方すると、噂のネタとして消化される恋愛みたいだけれど、二人の女性にとっては大切な恋だった。

私にはどちらの恋も成就するとは思えなかった。
ただの勘だけれど。

古い恋の方は、彼には忘れられない人がいると思ったから。
彼女から「どうしたらいいんだろう」と相談された記憶はある。
でもピュアな彼女を見ていたら、諦めた方がいいとは言えなかった。
ユーミンの『リフレインが叫んでる』を聴いて、夜ひとりで泣いたと言っていた。
彼は、はっきり言ったのだろうか。
私からなら「どうなのよ」と言える関係だったが、それを訊くのはやめた。

彼とも彼女とも、年賀状のやりとりだけは続いている。
もう今さらあの時の恋について聞くこともできないし、今がよければそれでいいと思う。
ただ、彼が結婚した相手が「どうしても忘れられなかった彼女」であってほしいと、勝手に思っている。

最近見た恋の方は、彼女を見ていて、今は押すんじゃなくてそっと見守ってあげることが一番だと、今はそういう時だから、お願いだから、静かにしてあげてと私が思ったから。

ほとんど彼のお母さん目線だ、これは。
それで何も言えず、私はただ見ていた。
そしてある日、決定的なことが起きたようだった。
泣きはらした目の彼女に「おはよう」とだけ言って、仕方ない、それでよかったんだよと、心でつぶやいた。

出会う場所とか、タイミングとか、そんなこと関係ないと言いたいけれど、そういうことってあるんだよ、きっと。

私はカウンセラーだ。
今の仕事はカウンセリング業務ではないけれど、もし今、恋愛相談を受けたらどうするだろう。

たぶん、私はやっぱり、ただ聴くだけだろう。

恋の相談ならやはり、林伸次さんの小説に出てくるバーテンダーに相談するのがいいなと、私ならそうしたいなと思っている。



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御手洗 育/暮らしのエッセイスト
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