ペルソナ、そして抱擁
エッセイやコラムを書くとき、誰かに向けて書くといいと言われる。
某紙に書かせていただくときは、55歳男性、従業員8人の金属加工の会社経営者、大学生の息子と高校生の娘、経理は奥さんがやっている。付き合いのゴルフより工場にいることが好き。
どこかで見たような人だけど😄勝手にそんなペルソナをイメージして書いている。
そういう記事は、40代の女性には見向きもされないかと言えばそんなことはないわけで、誰かに向けて書いたものはその周りの人にも興味を持ってもらえると思っている。
というわけで、突然話は変わる。
フォロワーのお一人からのリクエストに応えて(?)下書きに置いていたものを引っ張り出してきた。
◇
それは初めての結婚記念日だった。
どこかドライブに行こうということになり、ノープランで走っていくうち着いたところは御在所だった。
せっかくここまで来たならと、ロープウェイで山頂まで上ることにした。
紅葉のグラデーションがとても美しかった。
頂上からの眺めを楽しんだり、茶屋でおでんを食べたり。楽しんでいるうちに陽が傾き、そろそろ帰ろうかということになった。
気づけば下りのロープウェイには長蛇の列ができている。
おでんの温もりが残っているうちはよかったが、やがて風も出てきて、ダンガリーシャツ1枚では寒くなってきた。
御在所はスキー場でもある。11月初旬の下界では汗をかいても、頂上の気温はかなり低くなる。
ましてや夕暮れだ。
ロープウェイ待ちの列は遅々として進まず、結構不安な気分になってきた。
スカーフかカーディガンでも持っていればよかったのに、夫も私もシャツ1枚の軽装だった。
そのうち、ガタガタ震えるレベルになってきた。
今より愛情は多めだったとはいえ、人前でいちゃいちゃなんてしないタイプだ。
しかしもう寒さに耐えられなくなり、夫とふたり抱き合って待つことにした。
同じ方向を向いて、どちらかが背中を覆う形で、時々前後を交代しながら温めあった。
ラブラブなんかじゃない、人間愛の境地だ(笑)。
ようやくロープウェイに乗ることができたころ、もう麓の街には灯りがきらめいていた。
あの日のことは二人の間で御在所遭難事件とよんで、この季節になるたび思い出す出来事だ。