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がんばっているんだね

先週、娘のところへ行った時のこと。

京都を半日歩いて、快速で数駅のホテルにチェックインをした。
帰宅する娘と駅で待ち合わせるには、少し間に合いそうにない。

適当な時間にホテルを出て、マンションの前で待つことにした。

このごろは日が短くなり、5時半というのにもう日は暮れている。

近くの交差点から見上げると、まだ窓に明かりはついていないようだ。

帰宅ラッシュの車が行き交う交差点、ふと道の向こうに目をやった。

学生や仕事帰りの人たちの中に、小さな男の子がママと立っているのが見えた。

次の瞬間、男の子はくるりと向きを変えると、今来た道を戻るように、スタスタっと歩き始めた。

ママは慌てて肩にかけたカバンを掛けなおし、男の子の脇を両手で抱き上げた。

何か話しかけている様子だ。
「そっち行っちゃダメでしょ」なんて言ってるんだろうか。

娘もあんな感じだろうなと見ていたら、なんとなく身体格好が似ている。
やっぱり。娘とP君だった。

その様子を見ていたら不意に涙が出そうになった。
毎日ああして頑張っているんだなと思って。

信号を渡った二人は、もうすぐそこに来ていて、「ほら、あそこに婆ばがいるよ」とでも言うように、娘が話しかけている。

気づいたP君が両手を横に広げて待っている。

ようやく青になった横断歩道を渡ると、笑顔のP君が抱きついてきた。

そして両手にママと婆がくるよう手をつないで、歩き始めた。

娘は片道1時間ちかく、電車に揺られて仕事から帰ってくる。
駅からそのまま子ども園に迎えに行き、先生と挨拶をしたらまた家までの道を歩いて帰るのだろう。

そんな当たり前のことだけれど、毎日頑張ってるんだなと思ったら胸が熱くなった。

家に帰ればいつものルーチンだ。
私は二人がハンドソープで手を洗うのを、後ろから見ている。

やがてパパも帰宅して、今夜は婆のためにお寿司を用意してくれていた。

いつもの順番を崩すことなく、食後に少し遊んだら、お風呂に入り歯を磨きベッドにいく。
すんなりやらせてくれない2歳児を、あの手この手で納得させる。

そしてP君が眠ってしまうと、娘たち夫婦は小声で「じゃあ、頼んだね」と出かけていった。

私はようやく聞き取れるボリュームでテレビを見たり、Kindleを読んで過ごす。
そして時々、ベッドの様子を覗きにいく。

ソファでついウトウトしてしまった。
日付が変わろうとするころ、玄関でカチャっと音がして、ふたりが帰ってきた。

スイーツを食べ、〆のラーメンまで食べてきたという。
あれだけお寿司食べたのに?と思ったが、ふたりがとても楽しげで、何も言うことはなかった。

毎日時間に追われる暮らしをして、たまには二人だけの時間を楽しんでくれたら、私も嬉しい。

「じゃあ、明日の朝また来るね」とひとりエレベーターに向かった。

孫のため子ども夫婦のためみたいな顔をして、実は私もひとりのお出かけを楽しんでいる。

ま、そこはgive & take それともwin-win?

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御手洗 育/暮らしのエッセイスト
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