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『虎に翼』⑱寅ちゃんの愛

少年法改正について議論する審議会で、寅ちゃんが語りかけている。

非行を犯してしまった子どもたちに、あらゆる方法で健全になってほしい。

そう言う寅ちゃんは、「愛を語り合いませんか」と微笑む。

「愛?」「愛」「愛」。

ちょびひげ多岐川さんの、おちゃめな笑顔が目にうかぶ。
多岐川さんも桂場さんも頼安さんも穂高先生も、かたちは違うけれど愛の人だったな。

ところで、もう忘れるところだった、というか思い出すのも恐いセーラー服。
あれから20年ほど経って私たちの目の前に現れたのは、美佐江にそっくりな女子高生だった。

この場面になると急にサスペンス調になり、嫌な予感ばかりした。

寅ちゃんが美佐江と会った廊下で、殺気を感じて優未を自分の方へ引き寄せる。
あのシーンは、後から恐ろしくなった。
同時に、寅子はそこまで危険を感じたのかと釈然としないままだった。

全てを知ったあと、あの日あと一歩だったのだという心の声。
いや、それに気づいたとしても、美佐江を受け止めるのは無理だったでしょう。
そして死んでしまった今では、もう確かめようもないことだ。

「どうして人を殺しちゃいけないのか」と聞く美佐江の娘・美雪。

寅子の答えは「奪われた命は元に戻せない。死んだ相手とは言葉を交わすことも触れ合うことも、何かを共有することも永久にできない。だから人は生きることに尊さを感じて、人を殺してはいけないと本能で理解している」と。

「理由がわからないからやっていいじゃなくて、わからなからこそやらない」。

そう言う寅子に、美雪はお母さんを彷彿とさせる薄ら笑いで否定する。
そしてナイフを出す。

しかし寅子は美佐江のことを「恐ろしい存在と勝手に思ってしまった。そのことが過ちだった」と美雪に言う。

美雪が何と言おうと、寅子がどんなあなたでも受け止めるという迫真の場面に、心を揺さぶられ続けた。

美佐江と美雪、母娘二役を演じた片岡凛さんの演技力もなかなかだった。
心の変化を感じられる目線は、恐ろしくもあったけれど、まだ幼い高校生だでもあった。

そして最後に思ったのは、どんな子どもも、あなたのことを大切に思っているよということさえ伝われば、きっと強く健全に育ってくれるのではないかと、そんな希望を持った。


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御手洗 育/暮らしのエッセイスト
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