雨の車窓から
この地方も梅雨入りだなと感じる朝。
今年はアジサイがどこも綺麗な花をつけている。
たまたま、そんな庭のあるところを通りかかったからかもしれないけれど。
うちの庭にも2株のアジサイがある。
「額アジサイが好き」と言っていたら、鉢植えと挿し芽をもらった。
もう20年以上前のことだ。
地植えにしたらどんどん大きくなって、今では2種類の額アジサイがひとつの木のようになって咲いている。
結婚した翌年のこと。
夏休みの子ども連れで賑やかになる前にと、7月の上旬、箱根へ出かけた。
強羅に向かう箱根登山鉄道の車窓からは、雨にしっとり濡れたアジサイが美しかった。
丸い西洋アジサイ、ピンクと青と。
そんな中、薄い水色の額アジサイに心を惹かれた。
可憐な、こんなところに咲いていたの、と思わせるような花だった。
強羅の駅に降りると、傘が役に立たないほどの土砂降りだった。
駅舎からしばらく空を見上げていたが、雨は止みそうになく、外を歩くのを諦めた。
あの日の土砂降り、足下に撥ねる雨粒。
結婚するって、こういう日もあるってことなんだろうなと、小さな覚悟みたいなものを感じた。
「もう戻ろう」と言う夫と、また電車に乗った。
そこからどのルートで宿に行ったのか記憶がないのだが「またいつか強羅に行こう」と話した。
あの日、雨に濡れていた額アジサイ。
山アジサイだったのかな。
アジサイは品種が多すぎて、あの時のだというものに出会うことがない。
同じ花はないかと、この季節になると気にしているのだけれど。
ただ、1軒だけ気になっているアジサイがある。
以前に住んでいた隣町の、あるお宅の庭に。
花が終わるころ、ご主人が枝を剪定しておられるのを見かけたことがあった。
でも、下に落ちてる一枝くださいと言えなかった。
欲しいものは、手に入らないからいいのかもしれない。
あの花も、電車の窓から見た記憶が脚色されて残っているのかもしれないし。
また来ようと言ったままの強羅。
こんな雨の日は、箱根登山鉄道に乗ってみたくなる。
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