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バースデイ・ガール

「どう思う?」と言う友人に勧められ、村上春樹の短編小説、「バースデイ・ガール」を読んだ。


主人公の女の子はその日、二十歳の誕生日だった。ボーイフレンドはいるが、彼とは最近修復不可能な喧嘩をしたばかりだ。おまけに熱を出した仲間に代わって、バイト先のレストランで仕事をすることになった。


さて、私は二十歳の誕生日を、どうやって過ごしていただろうか。多くの人は、正々堂々とお酒を飲んだとか、彼と食事をしたとか、記憶に残る一日なのだろうが、何も覚えていない。もうずいぶん昔のことで、忘れてしまった。
ただ、二十歳のころ、私も同じようにボーイフレンドがいた。

一つ年上の彼は、優しいけれどどこか頼りないところもあった。些細なことで喧嘩になると、彼は降りるはずの駅を乗り越し、名古屋港へ私を連れて行く。今ではすっかり整備されたガーデンふ頭だけれど、30年前の名古屋港はロマンチックとは言い難いところだった。休憩所の建物の屋上が展望台になっていて、夕方になるとぼんやり明かりがともるだけ。冬の港は、風がビュービュー吹き付けた。それでも二人の喧嘩をおさめるには、ちょうどよかったのかもしれない。


私は大きな声で怒ったわけでもなく、彼が私の機嫌をとっていたという記憶もないが、そこに行けばなぜか仲直りをして、帰り道にはいつも金山駅で手を振って別れた。


小説の女の子は、その夜初めてバイト先のオーナーに会った。その老人は彼女が誕生日だと知ると、何か一つ願い事を叶えてあげようと言う。そこで彼女は願い事を言うのだが、それが何だったのかは、最後まで語られていない。
二十歳の彼女の願い事。それは名古屋港にいた私と同じだったかもしれない。


あれからから30年がたった。今年の誕生日、私は大学生の娘と高校生の息子、そして夫の4人で、レストランで食事をした。


私のところには、彼女のバイト先のオーナーのような不思議な老人が現れることはなかった。でももしかしたら、あの日、名古屋港で私の頬をなでた潮風が、あの老人のように魔法をかけてくれたのかもしれない。

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