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もう戻れない儀式

早起きをして車に乗り込む。

交差点で止まると、遠くに散歩する黒ラブが見えた。
同じ黒ラブ、ななと散歩していたころを思い出す。

朝はいいな。何もかもが新しい。

私が結婚したのは秋だったけれど、その朝、赤い打ち掛けを着て家を出た。

実家を出る時、本家のおばさんが、
「ムシロあったかな、竹と木の棒も!」
と急いでいた。

玄関を出ると、私の後ろで木の棒と竹の棒を持った人が、ムシロをパンパン!と叩いた。

もう帰ってきちゃいかんよという意味らしい。
ちょっとさみしくもなる、晴れの日の朝だった。

ムシロの儀式は、人が亡くなった時にも行われる。
これもまた、もう戻って来れないんだよという意味らしい。

最近ムシロなんて、いくら田舎でもないんじゃないかな?

明日の朝、義父は家を出る。


【追記】
私のお嫁入りの時、ムシロを叩いてた棒はどちらも木の棒だったようです。
おばさんたちが、わーわー言ってたことは覚えていたのですが…。
お葬式の出棺が、木の棒と竹の棒だそうです。
木箸と竹箸を持つと、死んだ時だからあかんあかんと言われます。

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御手洗 育/暮らしのエッセイスト
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