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加藤さんって誰なのよ

ゆうパックの不在通知が、郵便受けに入っていた。

いつもなら、それを見て再配達をお願いするか受け取りに出向くのは自分なのだが、郵便受けから持ってきたのは夫だった。

ビールを飲みながら、東京でのことや、仕事のことなどを話していると、不意に夫が、

「加藤さんって知ってる?」と聞いた。

何のことかと思ったら、ゆうパックの不在通知の送り主が「加藤さん」なのだった。

加藤さんと聞いて思い浮かぶのは、従妹か高校の同級生、あとはかつての同僚くらい…。
夫も、周りに加藤さんはいないと言う。

最近少なくなったとはいえ、香典返しや結婚内祝いが家に送られてくることはよくある。
送り主が姓の違う身内だったり旧姓が書かれていたりすると、すぐにわからないこともある。

見せられた不在通知には、加藤と読めた。

夫が「加藤寿子さんだな、としこか、ひさこ」という。
確かに、草書体(?)で書かれた字が寿子と読める。

そのお名前だと、少々年配の、会社の若い人のお母様だろうか。
ご主人を亡くされた70代半ばの女性、それとも・・・?

加藤寿子さんって誰なのよ。
私は知らないけど?

しかし夫は、最近祝儀不祝儀いずれも会社関係にはないから、きっと私の方に違いないと言う。

それからはふたりで、加藤さん探しが始まった。

「かとうさん、かとうさん、かとうさん」

諦めようとしたころ、ピカッときた!

かとうさん・・・加藤産業!

正しくは「寿」が「産」、「子」が「業」だったなんて。
(もう少しちゃんと書いてよ~)

夫がわずかに持っている株式の、加藤産業からの優待品だった。
雑誌を見ていて理由もなく買ったのだけれど、毎年美味しいジャムが送られてきて、業績もいいと喜んでいたのは夫の方なのに。

加藤寿子さんのご主人、亡くなられていなかったんだ。
(もともとそういうお方は、実在しませんけど)

いつもお心遣いいただいて、ありがとうございます、という気持ちになる。
どこか親戚気分なのだ。

というわけで、出かけたついでに郵便局寄ってくると言っていた夫が、ジャムのセットを持ち帰るのを待っている。

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御手洗 育/暮らしのエッセイスト
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