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なも締め
先日、業界団体の新年会から帰った夫が、
「なも締め、知っとる?」と聞いた。
「知ってるに決まってるやん」と言いながら、5年ほど前のことを思い出した。
それは娘の結納の日のことだった。
結納と言うといまだに派手な名古屋の嫁入りと思われそうだが、結婚の運びになったお祝いということで、名駅にある日本料理店で両家が食事をすることになったのだった。
特に儀式や口上があるわけでもなく、本人と両方の親あわせて6人の宴席だ。
料理が運ばれ、さて誰が挨拶を?と思ったところへ、女将が来られた。
突然で申し訳ないのですが、西川流の名取が踊らせていただけないでしょうかと言う。
お祝いの席のことだ。私たちもぜひぜひと歓迎して踊っていただくことにした。
艶やかな着物姿の若い名取3人が、華やかな踊りをいくつか披露してくださった。
おかげて緊張もほぐれ、とても和やかな雰囲気になった。
そして、ご一緒にと勧められたのが『なも締め』だった。
「なもなもなも、なもなもなも、なーも、なーも、なもなもなも」
その声にあわせて
パンパンパン、パンパンパン、パン、パン、パンパンパン と手拍子だ。
最近は名古屋の上町言葉「なも」をつけて話す人はほとんどいないのではないかな。
「よく来てくれましたね」を「よう来てちょうでゃぁしたなも」みたいに。
私は岐阜出身なので、微妙に違うところはあるけれど、子どものころおばあちゃんと話すときには「なも」をつけていたと記憶している。
実家の母は、近所の目上の人に「日曜日は神社掃除やなも?」などと尋ねていた。
「こないだの旅行は、ほんと楽しかったなも」と同意を求める時にも。
「なも」には結構優しい共感が含まれている。
夫の行った新年会は、東海地方の人たちが参加している会だ。
能登半島の災害状況を思い、威勢のいい三本締めでも一丁締めでもなく、優しく明るい気持ちになれる「なも締め」を選ばれたのだろう。
西川流家元の西川右近さんが、これを考案された時には、んんん?と思ったけれど、「なも締め」いいんじゃない?と今は思っている。
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