帰りの電車で
今日の勉強会は、かなりヘビーな内容だった。
当たり前だけれど、カウンセラーにも感情があって心は動いている。
事例の影響を受けて、ドッと疲れることもある。
遅くなったので、デパ地下でお惣菜を買って電車に乗った。
帰宅ラッシュの電車は超満員で、私は押されないよう車両の奥へ進んだ。
ほとんどの人は、スマホを見ているか眠っている。
私が見下ろす形になる席に、同年代の男性が座っていた。
ふと手元を見ると、LINEを確認するところだった。
(たまたま見えたのよ、グリーンの壁紙が)
家族にLINEでもするのだろうか。
それにしてもフリック入力が遅すぎる。
うちの旦那も遅いけど、おっさんおっそい!
重い気分の上に、さらに焦れったさが加わる。
あかん、外を見よう。
と思ったが、カーテンが閉まっている。
吊り革にぶら下がるように目を閉じ、また顔をあげた時だった。
目の前を白いものが横切った。
外はすっかり日が暮れていて、カーテンの隙間からネオンの光が射したのかと思った。
が、その薄緑色の物体は、フワッとカーテンで止まった。
よく見ると緑色の、角ばった背中をした、あの虫だった。
それも、フリック遅入力おじさんのすぐそばだ。
気づかなかったの?
と思ったら、うつむいたその男性はもうおやすみモードらしかった。
緑色の亀甲型昆虫と、男性の頭の距離は20cmもない。
このままあの人が爆睡して、こっくりこっくりしたら、それも前後じゃなく左右に揺れたら、窓にゴン!と頭ぶつけてしまったら。
もうその映像が目に浮かぶようで、さらにその後車内に広がるあの虫特有の…。
悲劇だ。
そんなこと思っていたら、自分の降りる駅を乗り過ごすところだった。
まだ降りない人の間を抜けて、なんとかホームに出た。
あの電車の終点までは十数分。
何事もなかったかな。
ただそれだけのことなんだけど。
気づけばヘビーな気分は、さっきまでより軽くなり始めていた。
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