美作國・津山ひとり旅;八つ墓村よりB’z(旅で★深読み)
東京で研究室時代の先輩4人と同窓会をした際に、もうひとりの先輩を訪ねて丸亀に行こう、という話になりました。
私以外の4人は(まだ現役の人もおり)「丸亀宴会」当日に自宅を出るようですが、自由度が大きいフーテンジジイは、前々日にまず、岡山県津山に向かいました。
なぜ、津山?マイナーな街(ごめんなさい)に? ── それは、個人的な背景があるのです。
ある記事に書いたのですが、小学校4年の担任が熱心なローカル地質学者で、5,6年生では彼の主催する部活「天文地質クラブ」に所属し、せっせと化石を掘っていました。
(同級生から地質学の教授がひとり生まれた!)
この先生は体育の時間と雨天が重なると、必ず教室で「怪談話」をしてくれました。それはいつも、かなり怖かったのですが、学年が終わる頃、彼がフッと言ったのです。
「キミたちに、一番怖い話はしなかったな。……本当に怖いのは、お化けでも幽霊でもない ── 人間だ」
先生の言葉は、ずっと頭に残っていました。
中学に入り、横溝正史の「八つ墓村」を読みました。
文庫本の解説に、その作品は著者が戦時下で疎開した岡山県津山地区で起こった事件がモデルになっている、とありました。
思い出したのが、4年の担任も津山出身だったことです。
……調べていくと、1938年に起こった、いわゆる「津山30人殺し事件」に行き当たりました。その先生が ── それこそ、小学生の頃に起こった事件でした。
《本当に怖いのは ── 人間だ》
これだ ── ピン!ときました。
その時から、私の中に「津山」という街がインプットされ、半世紀経って、ようやく訪れる機会ができたわけです。
岡山で津山線快速「ことぶき」に乗ります。お昼前後の時間帯は1時間に1本、ワンマンカーなので運転手さんは超・多忙です。無人駅に着くたびに、ホームをほとんど走っていました。
途中の「弓削駅」に興味を覚えました。
弓削といえば女帝・孝謙天皇に寵愛され、天皇の座も狙ったという弓削道鏡!
関係あるのかな、と調べると、弓削氏というのは古代日本で弓を製作する弓削部を統率した氏族で、ここ吉備國の弓削氏と河内弓削氏があったそうです。
道鏡は河内の弓削一族だとのこと。
「巨根伝説」も残る道鏡は、江戸時代の川柳に詠まれました:
道鏡は すわるとひざが 三つでき
……お後がよろしいようで。
津山の駅前にはSL機関車と共に、箕作阮甫の銅像が設置されています。
この人は、津山藩士で江戸で洋学を学び、ペリー来航時に通訳を務めます。はーぼさんの幕末小説にも名が挙がります。
津山駅と城下町の間にある吉井川を渡ります。
駅前と城を結ぶメインストリート「今津屋橋通り(ごんご通り)」はシャッターが目立つ……。
この《ごんご》というのは吉井川に生息していた河童のことで、「ごんご通り」の両側には青銅製の河童君たちがいろいろなポーズをとっています。
途中、立派なアーケード街もありましたが、やはりシャッターが目立ちました。
「うーん、なんとかしなくっちゃ」
スーパー・やおいの歩美ちゃんならそう思うはず。
ホテルに荷物を置いてから、津山城に向かいました。
石段を登ると、津山藩の初代藩主・森忠政の銅像があります。この人は美濃土岐氏・尾張織田氏に仕えた森可成の末男子、というより、本能寺で信長と運命を共にした森蘭丸の末弟という方がわかりやすいでしょうか。
この人は六男でしたが、長兄が朝倉攻めで、蘭丸ら三兄から五兄3人が本能寺の変で、次兄がその後の小牧・長久手の戦いで戦死したため、ただひとり残ったこの人が家督を継ぎました。
この人も信長の小姓でしたが、本能寺の変の直前、信長の前で同僚の頭を扇子で殴打したのを見咎られ、美濃国の親許に返されたそうです。
この事件がなければ、森家は全滅していたわけです。
さて。お城です。
往時は広島城や姫路城をしのぐ数の櫓が建ち並ぶ、壮大な平城だったようです。明治初めの「廃城令」によって全て廃却されたそうです。
それをまた再建しているって……膨大な無駄ですが……明治維新の「コペルニクス的転換」には、「過去の清算」が必要だったのでしょうね。
本丸の備中魯から天守閣に行くルートは、防御のため、ストレートに進めない道になっています。
明和2年(1765年)、城内に設けられた藩校・鶴山館にも行って見ました。その中に入ると、なぜか……
まったく知りませんでしたが、B'zの稲葉浩志さんが津山出身なんだって! 「凱旋/津山公演」とあります。
── ファンにはどやされそうですが。
「そんなことも知らずに津山行ったんか!」
幕末の洋学者・箕作阮甫より、B'z・稲葉浩志さんが今や街のヒーローなのは間違いないところです。
「八つ墓村」がらみでやって来るのは今や私ひとりで、津山を訪れるのは、B'zファンによる「聖地巡礼」がメインストリームなのかも。
この続きは……