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高級腕時計も、孔雀の尾羽も、《進化論「ハンディキャップ仮説」》で説明できる?(街で★深読み)

300万円を超えるような、高級ブランドの腕時計が売れているそうです。昨日の新聞記事です(↓)。

特に名古屋市内の百貨店での売れ行きが良く、下記のような記事を書いて2000円以下の時計を自慢している人間は、いずれ村八分に遭って街を歩けなくなるかもしれません。

《腕時計》というのは不思議な商品で、

《日常生活において正確な時刻を知る》

という《機能》においては、数百万円の高級品も、2000円の安物も、ほとんど変わらない ── 価格は3桁以上も違うのに!

時計と比較すると、例えば、家庭用の冷蔵庫でひと桁値段が違うものって、そうそう見つかりませんよ。容量が極端に違うものは別として。

クルマだって、メルセデスの最高級グレード「マイバッハ」は2000万円超え、軽自動車との差はひと桁ちょいですが、両者間には明らかな「性能の差」があります(たぶん、前者に乗ったことはないけど)。

というわけで、私個人は高級ブランド腕時計に興味はありませんが、
「大金出してでも欲しい!」
という人の心理を考えてみました。

すると、唐突に浮かんだのは、孔雀、あの優美な《インドクジャク》のオスの尾羽です。

伊豆シャボテン動物公園の孔雀クン

オスの孔雀の美しい尾羽は、それ自体、エサを確保しやすいとか、オス同士の戦いに勝てるとか、実質的な《機能》は一切ありません
それどころか、羽根が重くなって短い距離しか飛べない ── ホントにしょーもない「お飾り」です。

ダーウィンは悩んだあげく、クジャクのオスの尾羽は通常の生活には確かに不利でも、メスに対するアピールとしては有用であり、尾羽の長いオスの方がより多くの子孫を残せていると指摘しました(性選択)

── 生存には不利な外見を持つオスを、なぜメスが選ぶか?

ハンディキャップ仮説がその説明のひとつです。
生存にとってはむしろ「不利」な、長く派手な羽を持つことは、
《そんな「ハンディキャップ」を持っているにも関わらず、しっかり生きている》
ということであり、それ自体が、そのオスの「力の証明」になっている、という考え方です。

生存の上では邪魔な「長くて派手な尾羽」を抱えたまま生きていけるオスは、そうでないオスよりも生きる力に優れている、(と「判断」される)という仮説です。

つまり、派手な尾羽のオスに、メスの孔雀は、
(「まあ、なんて美しい!」ではなく)
「頼もしいわ!」
と駆け寄ってきてからだをひらく(のかどうなのか、鳥はどうするのか、お尻を向けるのかな……)。

このように、ハンディキャップが大きいほど「力のあるオス」としてメスに選ばれやすくなる、という理論だそうです。

*では、孔雀のアナロジーをヒトに適用してみましょう:

例えば300万円の「高級ブランド腕時計」をハメているヒトのオスは、

「過去に300万円の出費をした」

ということが推測されるため、

《生存のために使えるお金が、資産から「300万円分」少なくなっている》
つまり、
《「300万円分」だけ、生存しにくくなっている》
はずです。

では、こんなオスはメスに選ばれないのか?

いえいえ、ここで登場するのが「ハンディキャップ仮説」です。

ヒトのメスは、むしろ、
「この人、時計に300万円を払っても、まだ生存している! (それどころか、高級レストランで高級ワインを飲んでいる!) とっても力のあるオスなんだわ! なんて頼もしいんでしょ!」
と駆け寄ってきてからだをひらく(ワンパターンでスミマセン……)。

── と、ここまで書いてみると、「ヒトのオスにとっての高級腕時計」は、「インドクジャクのオスにとっての派手な尾羽」より、

はるかに《進化論「ハンディキャップ仮説」》があてはまる!

……では、私のように、2000円以下の腕時計をしているヒトのオスはどうなるのか……。

心配になってきましたが、孔雀に関しては異論もあるようです:

……必ずしも全てのクジャク個体群で、派手な上尾筒に対するメスの好みが観察されるわけではないことだ。実際、上尾筒の小さいオスが好まれた個体群もあれば、上尾筒の特徴とメスの好みに全く関連のなかった個体群も報告されている。

「クジャクのオスはなぜ美しい? ~配偶者選択と装飾羽の進化~」
東京大学総合文化研究科 高橋麻理子
http://www.syoshi-lab.sakura.ne.jp/sympo2006/abstract/takahashi.pdf

ヒトも、
「必ずしもすべての個体群で高級ブランド腕時計に対するメスの好みが観察されるわけではない」
に(苦しいが、……なんとか)期待したいデス。

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