どっちが先生? ── 内科医院の《腹話術師》 (エッセイ)
《すぐそこにある》シリーズ、小学校5年とは思えない《論理》で周りを振り回すユウタくんの活躍(?)、いつもお読みいただき、ありがとうございます。
前回は二世議員の演説会場で、父親から引き継いだベテラン秘書が彼に後ろから「指示」する情景を、
と言いましたよね。
まったく別の場面になりますが、私は《腹話術師》を実際に目撃したことがあります。
《再勉生活》が終わり、3年半ぶりに日本に戻った時、以前のかかりつけ小児科ではなく、もう小学生になっていた子供を、初めて別の内科医院に連れて行ったことがあります。
おそらく土曜だったのでしょう、私も同行しました。
そこは3階建ての豪邸風な医院で、若い男の先生でした。
30代半ばぐらいでやけに童顔の彼の傍らには、50歳ぐらいの看護婦さん(当時の呼称)がぴったり寄り添っています。
医者が口を開こうとするのを先回りして、
「まず、お熱測りましょうね」
「のどを見ますよ、はい、大きく口をあけて、『あーん』」
「はい、次は服を上げて、胸を見せて」
看護婦が、次々と進めていきます。
聴診が終わると、── さすがに「聴診」は医者が行いましたが ── その《聴診結果》は知らないはずの看護婦が、
「風邪ですね、先生」
と《断言》しました。
彼女の《診断結果》を聴いて、《ボクちゃん先生》は、
「……そうだね」
とうなずきます。
続いて看護婦は、
「解熱剤出しておきましょうか、先生」
と促します。
「……そうだね」
《ボクちゃん》はうなずきます。
「安静にして、栄養をしっかり取って休んでくださいね。体温が38.5度を超えて、子供さんが辛いようでしたら解熱剤を使ってください。でも1日2回までに抑えてくださいね」
── もちろん、ベテラン看護婦さんの直接指導です。
「……では、お大事に」
最後のここだけは、《ボクちゃん》が独自につぶやき、背後の《腹話術師》は軽く頭を下げました。
《ボクちゃん》が粗相なく仕事をひとつ終えたので、ホッとしているのかもしれません。
── その後の妻の《調査》によれば、《ボクちゃん》はその父親から医院を引き継いで3年目だということでした。
我が家がその館に再び足を向けることはありませんでした。
でも、それから10年ほどして、医院はさらに立派に改築したのです。
(うーむ、《謎》であーる。先代の評判がよほど良くて《固定客》がついているのか、あるいは、《ボクちゃん》の……いやいや、それはないな……ひょっとしたら《腹話術師》の評判がいいのか……?)
ユウタくんが次のように話した時、私の脳裏には、あの時の《名コンビ》がありました……。
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