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ロンドンで倫敦塔を読んでいる。(本当に)

旅日記もそろそろ(一旦)終わりに近づいてきました。
と言っても、リアルタイムの実況旅日記は旅程に従って終了しますが、旅の最中に書ききれなかった色々なことは、また後日、帰国してからゆっくり書いていこうと思っています。

というわけで、只今私は倫敦塔(の前のカフェ)におります。最終日に倫敦塔に来ることは、実はイギリスに来る前から決めていました。なのでこの旅日記の一番初めの記事が「ロンドンで『倫敦塔』を読んでいる」なのは、計画的な犯行です。
初日に読んでいた(と書いている)夏目漱石先生の『倫敦塔』を、今ちょうど読み直したところです。
とてもとても面白い。

なぜ面白いか。うまく説明できると良いのですが。。

まずは実物の倫敦塔、ロンドン塔のことから書きましょう。

ロンドン塔は、ロンドンのイーストエンドのテムズ川沿いにあります。地下鉄のTower Hill駅を出て目の前です。ロンドン塔の目の前には、おそらく「ロンドン」的建物のシルエットとしてよく見る、タワーブリッジがあります。
因みに、新潮社文庫版の『倫敦塔・幻影の盾』の表紙の前面に出ている建物は、おそらくタワーブリッジです。(多分)

建物や歴史などの情報は、wikiをはじめとした他のサイトにたくさん情報が出ていることと思いますので、あまり詳しくは書きませんが、1066年にイングランドを征服したウィリアム王が、外敵から守るために要塞として建てられたのが、ロンドン塔のメインの建物である、ホワイト・タワーだそうです。因みに、ホワイトタワーをはじめ、ロンドン塔全体は、「塔」というイメージよりも、「城」とか「要塞」とか、「監獄」の建物のイメージに近いような気がします。もちろん、四方に「塔」は立っているのですが、その間は廊下、というか壁で繋がっているので、(私のように知識がない人間が、、想像する、、)「ラプンツェル」の「塔」みたいな感じではありません。

漱石先生の『倫敦塔』では、ホワイトタワーは、「白塔」と呼ばれいます(新潮文庫版pp18-20)。因みに、漱石先生がビーフイーターから教えられてご覧になった、徳川秀忠からジェームズ1世に贈られた鎧と兜は、現在もしっかりと日本からの贈り物として展示されていました。

さて、ところでロンドン塔です。入場料がなんと£33.6と驚き!!のお値段です。いやでも、この旅はロンドン塔に行かねば終われない、、と、決意を固め入場しました。
・・結果として、(円安の日本人としては痛い出費ですが、、)建物の他にも実際にセレモニーで使われた王冠たティアラの展示など、見所がたくさんで、£33の価値は十分にありました。

https://www.hrp.org.uk/tower-of-london/#gs.1ftnu6

さて、入り口付近に小さな広場があるのですが、そこで待っていると、1時間に一回くらいのペースで、本物のビーフイーターの方による無料のガイドツアーに参加できます。「ビーフイーター」というのは、ロンドン塔の警護をしていた兵士の方々のことだそうです。因みに「ビーフイーター」と呼ばれている理由は、定かではないそうです。
30分くらいかけて、各塔や建物を外側から回りながら、歴史やエピソードをお話ししてくださいます。分かりやすくてとても面白かったです。

色々な逸話が本当に面白かったのですが、全てを書くことは出来ないので、ひとまず、分かりやすく面白かったところを、漱石先生の『倫敦塔』と絡めつつ、2つばかり紹介しておこうと思います。

まずは烏。鴉です。
ロンドン塔のカラスのエピソードは、漱石先生の『倫敦塔』にも出てきます(pp21-22)。
前半のこの部分と、最後のpp31-32の、宿の主人との会話の「オチ」の、幻想と現実の高低差が、私の中の「漱石」像にぴったりで大好きです。

百年壁血の恨が凝って化鳥の姿となって長くこの不吉な地を守る様な心地がする。吹く風に楡の木がざわざわと動く。見ると枝の上にも烏が居る。暫くすると又一羽飛んでくる。何処から来たか分からぬ。傍に七つばかりの男の子を連れた若い女が立って烏を眺めて居る。希臘風の鼻と、珠を溶いたようにうるわしい目と、真白な首筋を形づくる曲線のうねりとが少なからず余の心を動かした。

新潮文庫『倫敦塔・幻影の盾』

すごいですよね!!この文体!!
表現力、想像力、構成力。。
先ほど、百数十年の月日を経て、同じ建物を見てきましたが、、こんな表現、、私には逆立ちして宇宙に行っても無理です。
このあと、鴉にパンをあげたい、という子供に対して、「あの鴉は五羽居ます」という女性の答えから、何か不思議な因縁があるのではないか、、と漱石先生の空想は加速して行くのですが、宿に帰って主人にその話を話すと、鴉が五羽なのは決まって居るからだよ、と笑われる、というオチです。

因みに、この「5羽」というのは(正確には6羽です)英国にとってはとても重要なことらしく、”It is said that the kingdom and the Tower of London will fall if the six resident ravens ever leave the fortress.”  「ロンドン塔の鴉がいなくなると、英国は崩壊する」という言い伝えがあるそうです。

https://www.hrp.org.uk/tower-of-london/whats-on/the-ravens/#gs.1fvdkt

ロンドン塔には現在も本当に、羽を(おそらくどこかの筋を切られて居るのだと思うのですが)飛べない様にした、鴉が6羽います。
・・ビーフイーターさん曰く、何故か7羽居るときもあるそうです。また、いなくなった時のために補欠鴉もベンチに座っているらしいです。笑
また、一番長生きの鴉は40年近く生きているそうです。


なんとも。。

この旅の初めの「旅」という独特の緊張とテンションの中で読んだ『倫敦塔』の格式高く(読みにくい)文体、特に前半部分から滲み出る、漱石青年のナイーブでありながらも逞しい想像力と圧倒的な文章力に飲み込まれ、異国の大都会を独り彷徨う異邦人のような気分に酔いしれていた、、ワタクシ自身を、ちょっと恥ずかしいような、でもそれはそれで大事なことなんだよね、と保護者の様な現実的で生暖かい目で観察し記述する現在の私が、はたまた「そりゃ当たり前でさあ、・・」と笑い飛ばす二十世紀の倫敦人の言葉と複雑に絡み合いながら、2023年11月終わりのロンドン塔前の喫茶店の中で、打ち込んでいます。

、、と言ったところで、あっという間に時間が経ってしまいました。
2つ目のお話は、また気が向いたら、、帰国後(?)に書こうと思います。
つづく。




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