第6回古賀コン短評
古賀コン6 短評
文責:張本セーフティスクイズ勲
古賀コン参加作の評などを書いた。
古賀コンの方針にできるだけ倣って、1時間とはいかないが、可能な限り反射的に書いてのワンライティングである。結果、書いているうちにゾーンに入ったり抜けたりしている。そのための読みにくさ、的を外した読み、偉そうさ、ご容赦願いたい。表記揺れも多数。
表記間違いのご指摘、反論はusigakuboposset@gmail.comまで。事務的なこと以外には応答しない場合もあります。
参加作すべて、面白く楽しく読んだ。いろいろな人が褒めており重複するため詳述しないが、私も、すごくいい文化祭だと思う。キャッチコピーがいいし、コンセプトがしっかりしているし、ラフさもいい。そんな場で、このような顰めっ面の文体は似合わない自覚があるものの、これも癖ゆえご寛恕請う。いい時間を過ごした。主催と参加者に感謝を申し上げる。
1.非常口ドット『私怨小説』
恨み悲しみが成功に繋がってもなお、
叶わなかった夢と苦しみの記憶は、「私」を苛む。
成功などするよりも、苦しいことがないほうがよかった。
それがただ悲しい。
「ただの恨み」は「ルッキズムへの批判」と社会的な顔を与えられた。
「ただの恨みです」と表現できたらなら、何かは変わっただろうか。
ごく個人的に色々と思うところあったので書いてくれてありがとうの気持ちの天晴。
2,憚譚之傍見『今夜の気分』
シャンソンっぽい曲をつけたら雰囲気が出て楽しそうな一作。
"……"のところは無言で、伴奏も止めるかな、どうしようかな。
降りてきた星はたった一つ。そんな空には満足できないのか、どうなのか。
全ては無言のなか。そこにあるのは失望か諦観か幻滅か、明言しない夜の気分。天晴!
3.げんなり『三浦じゃないし山田でもない』
幕切れのハードボイルドな感じがいかす。
レストランのネーミングがいいし、
レストランに入ってからの描写がピカイチ。
三浦じゃないし山田でもないあいつは誰なんだ?
そして拳銃なんか持ってる主人公も何者なんだ?
と、徹底して何もわからない幕切れがいい。
力技でお題を処理している気がするチャーミングさと、
ハードボイルドな幕切れのかっこよさで力技をごまかしている上手さに天晴。
4.渋皮ヨロイ『届いたらびっくり、ゴリラでした』
ウホホのホじゃないよ!笑った。
ウホめいたものって。
うなずき倒すって。
ゴリラの壊した水晶玉よろしく、きらきらの表現でいっぱいだ。
コールセンターの重川が感情が完全に麻痺していて桃田さまを舐め腐っているのがいい。
あとゴリラ飼ってる人の名前、えっ、何?
ぜんぶ面白かった。思うに任せた文章の喜びに満ち溢れた快作、天晴!
オフビートなジョーク・ノベルで、上品さもあって読み心地も気分がよく、天下を取ってほしい。
5.添嶋譲『カスタマーレビュー』
こいつ、俺、自分、はそれぞれ別個のものを指していたりするのか。ちょっと穿って読みもした。
お前何のためにいるんだよ、
すみません、わかりません。
このやりとりには人間存在の根源的なものすらある。本当にだよ。
近所のおばさんからぶつけられる怨嗟に、受け流すような頷きしかできない俺。
求めていないコミュニケーションに対する曖昧な自己防衛。
ひょっとしたら「お前」も、別の役目を求めてここに来たのかもしれない。
ゴミ出しでも、都合の良い遊戯の相手でもない、「日本の技術はすごいなあ」以上の、なにか「お前」のおもう望ましいコミュニケーションのために。
「すみません、わかりません」。そう言うしかない状態はただ悲しい。悲しくなったのでよかった。天晴!
6,大江信『極北からの手書き文字』
「北」がまず発見される。八周するたび見つけているが、彼女も「彼」もそれは知らない。
決定的なことが起こるその瞬間、「彼」は「北」へと飛ぶ。「北」にあるのは「彼」の手がかりだ。「彼」は書評から目を背ける変わりに、自分で見つけなくてはならない。
若者の昂る肉体をおさえつけながら。動揺のあかし、罪の意識の証としての、蜂蜜の刻印を引き受けながら。蜂蜜の刻印は「彼女」にも与えられる。☆1を下した証としての。
変なことを言うことにしよう。
『息子』、と、『「彼」の息子』は別の存在である。ここでは二人の息子が二重写しに存在している。
蜂蜜を「見ている」だけで、触っても自分の手にのみ留める「『彼』の息子」と、
「『彼』の息子」からそれを舐め取り、彼女にうつし、
共通の蜂蜜を二人に刻印してはるかな時空をつなぐ「息子」と。
蜂蜜の移動は「彼」と「彼女」の罪への捉え方の象徴であり、
「『彼』の息子」は親の罪を引き受けようとするが、
「息子」は「彼女」に強く忘れさせまいとしている。
二人が唯一折り重なるのは、
直接的な対決を望まないという総意のあった最後の三行のみ。
息子たちは許していない、何もかも。だから諍いを半永久的なものとしている。
大いなる誤読をかましてみたが、問題はタイトルや「北」を回収できていないことである。「罪」とか平凡な解釈を導入したのもマイナス。作者の真意はいかに。歯ごたえあったぜ天晴。
「私」まで出てきてギクっとしたがこれは深読み。
10/2追記…迂闊にも1枚目を読み逃していた。大変申し訳ない。蜂蜜への解釈は変わらず。「彼」がその身に蜂蜜を引き受けていることが強化されている。
7.比良岡美紀『架空☆1レビュー』
「俺を不機嫌にさせた責任をとれ」
これは理不尽な手合がよくのたまうやつでございますな。
店側の不手際が発端となっての苦情ではない物事には、
断固として対応できればよいのですが、ときにしがらみがそれを許しません。
お役所だって市民に声を荒げるわけにはいきませんし……
ああ面倒くさい心底面倒くさい。
軽妙な語り口からの実に嫌な話、相当嫌な話を軽みをまとわせて出してくる語りの妙に天晴。
もう弟ではなくて「クレーマー」という関係性になる、
そのくらいクレームというのは破壊力があるのですよねえ山田くん。ねえちょっと。座布団運んでくるのが遅いんだよ!山田!俺を不機嫌にさせた責任をとれよ!おいだれだ山田をかばうお前は…えっ三平?三平じゃないか!つまみだせ!誰か来てくれ!やめろ三平!カツラをそんなふうに使うな!助けてくれ!「オマエノフキゲンヲココデオワラセテヤル……カンガエルコトモナケレバフキゲンニモナルマイ、シネイ」助けてくれえええ!はっ……ここは……海老名家……?
8、草野理恵子「レビー小体」
紐が歯を折ったとき、父さんとの何かが変わった。
もう一度、紐に縋れったら、やりなおしはきくのだろうか。
連れ去ることはしない。紐を昇るにしても、水に沈むにしても、自発的にいかなくちゃいけない。
差し出した星を宇宙人は受け取ってくれただろうか。それは本当に差し出せるものなのだろうか。差し出せたらいいなと思う。走り出した彼にいいことがありますように。
金色の色彩に支配され、光る感情に満ちて「架空の感情」という語が生まれるシークエンスが見事の天晴。
9.こい瀬伊音『ルラの夢』
剛力すぎる冒頭の地引網の比喩がルラのパワーを際立たせていて天晴!
「まつげとまつげを触れあわせて、まばたきを繰り返すっていうキスをしてみたい」というキラー・センテンスも途方もないロマンティックな夢。一瞬の切れ味の鋭さにたまげる。
幼い頃はそれは夢ですむ。そのうち、社会の状況や制度に揉まれ、夢が現実になる。100%叶う夢はない。割と満足して生きて☆5だって、「割と」だから、本当は☆100になる可能性があった。
なんにも叶わなくて☆1になる人生もある。
そんな光景を読んだあとだと、ルラの描いた夢は、悲しいくらい眩しく輝いている。天晴。
10、所沢海行『☆1』
めげなくてもいい。ミは分かったんだから。おそらく普通は、ミも分からない。
転職サイトのレビュー欄の体裁だろうか。
レビュアーの筆致は落ち着いていて読みやすく、観察も細かだ。
そのくらい、いい目をしているレビュアーでも、この会社のことは分からない。
やることなすことが、単語でしか示されないからだ。
前後の文脈なくゴロンと置かれた単語は、
状況にそぐわないとき、意味が削ぎ落とされる。
ただそこにある言葉を楽しんで天晴。
「はい、わかりました!」っていってテキトーこいて会社に大損害を与えてもいいと思う。教えてくんないんだし。
11、赤木青緑「くさくあれ」
怒っている。とても怒っている。わからなくもない。
わたしはここに、いいことが書いてあると思う。天晴。
せっかくなら、ド臭い書物がいい。
臭みはどこから現れるか。納豆をはじめ、臭いものはおおむね、発酵している。
したためる書き手のなかで発酵した何らかが、つまり、くさくなるのか。
手入れをした臭みもある。いまや納豆は製造過程で厳密に管理されている。腹を壊すから。それで成立している。臭みもコントロールできる。でも、作者は手を入れない原初の臭みをもとめている。うわべでくさければいいのではない。腹を壊したいのだ。全力で汗かいてくさくなれ!なのだ。
この評は無臭だと思う。申し訳ない。
なかなか、くさくあるのは難しい。思い切りくさくあれるのは最初だけで、開封すればくさみは減じる。シュールストレミングくらい延々くさくあれるのは、一握りの多感な書き手だろうか。誰でもそのようにあれる気もする。誰もが、何度でも、くさく、くさく、よみがえることができる。そんなとき、その書き手も腹を壊している可能性は高いが。
12、葉月氷菓『流星チャーハン』
着想のどっぴろさ、それを成立させる理論のそれらしさ、とってもセンス・オブ・ワンダーで天晴。文章も読みやすい。
あまりにも手慣れているので、隆々軒の店主、普段から絶対「やってる」と思う。「うおっ」はたぶん毎回言うのだろう。こういうのもいいディティールだった。
さいきん思うのは、こういう大仕掛けのときに電力をどこからとってくるのかなということ。
それもたぶん、店主が普段からやってて、勝手に盗電しているなら謎は解ける。
個人的には(笑)じゃねえよこいつと、ここまでの古賀コン6で最大級の怒りが込み上げたのだが、語り手は優しい。
13.エンプティ・オーブン『スター1☆レビュー』
高い文学性と低い腰!
スターダスト・レビューを一人でやるという無理筋、☆とレビューから「スターダスト・レビュー」を導く発想は大好きである大好きなんてもんじゃない。ほんとに楽しくていい曲ですよね。天晴!
家の前で急にスターダスト・レビューのモノマネが始まったらたしかに何事かと思って出てくる。あんな声出ますか?
14.tairananame「頤をぶち叩くのは俺か、お前か?」
既存作のレビューかなと思ったのですが、自作のレビューですね、たぶん。
堂々たる振る舞いだと思う。天晴。
そちらにも目を通しましたよ。
どこから切り出しても絵になる、そんな象徴性がある。映像詩にちかい。切り出せば楽しい。繋がれば悪夢だ。率直に書くが、疲れた。課題はただひとつ長さにある。作者はわかっててやっているのだと思う。どういった意図あるいは経緯があって、あるいはどういった意図なしにこうなのかは、非常に興味がある。
さて古賀コン参加作。顎――わたしのIMEでは変換できない――を叩いてほしくて、出てきたということか。読み合う大会である。読まれたいという気持ち、それはそうである。誰もが読まれたくて書く。誘導にハマって私はうかうかと読んだ。目論見が達成されたのであればよかったと本当に思う。顎を叩こうとまでは思っていない。
15.夏川大空「イケメン☆モテモテ学園ハーレム ドキドキスクールライフ」
そうだ、君の人生は別に☆1なんかじゃないぞ。武イイ奴そうだしな。でも武への偏見がきついぞ。
なにげにポップな画像化の手のこみようにも天晴。友情の合作だし、内外へのサービス精神に天晴。
ゲームのほうのありそう感に非常に笑った。
水谷くんのホームランは普通に人死にが出るやつなのだが、これは明らかに学校の設計に問題があって、野球のグラウンドが近すぎるものと思われる。ていうか武じゃなくて水谷も後でちゃんと謝りにきなさい。本当にいいやつだな武。
16.日比野心労『夜渡り』
見事!!!天晴!!!!
懐かしい手触りの語り口。一つずつ減っていく星も、昔話ふうの演出で、全体のトーンを支えている。
そして☆1の処理が見事。いちばん数の少ない星で、いちばん大きなセンス・オブ・ワンダーを描いた。
個々のエピソードもいい。背後のドラマが匂い立つ。要素の取捨選択がうまいのと、語り口の叙情性に尽きる。よかった。絵本をお書きになっても良いのではないかと本当に思う。いい読者に届くはずだ。
17.佐藤相平『一つ星』
直也の青っぽい自意識がよく顕れているディティールに天晴。
顔の良さ、市政レポートへの文句、小説を書くこと、トンボの弔い。
頬へのキスは、直也へ自分の感触を残そうという、主人公の企みなのだろう。
おおっぴらにキスをして、小説に二人の痕跡を刻んで、外部へと開いてしまおうとする直也へのアンサーとして、そのささやかさは、愛おしい。とても強欲でもある。
それにしても文章の瑕疵のなさったらすごいし、
構成の無駄のなさも図抜けている。
なかなかの長さだが、作品に寄与していない文章が一つもない。これはすごすぎるぞ。
18.甘衣君彩「ひとつの星から愛を込めて」
率直でいいと思う。爽快なほどに率直だった。評価が欲しい。そらあ、そうなのである。
「僕がいればいいじゃないか」的なことを☆1は言う。☆1は☆1で優しいことを言っている。
けれど、☆5が欲しいのだ。
☆1でも読んでもらったからいいとか、足りないところがあるけれどこの人でもいいかとか、
そうした生ぬるさを跳ねのけたいときはあるのだ。甘んじなくたっていい。諦めなくたっていい。望むものすべて欲しい。それを率直に叫んでしまって全く問題はない。手に入るかどうかは別問題。
評価をもらう手段として潔くSNSで暴れるのもリアリストな感じがしていい。
できることはやり、その結果を総身に引き受けるのみだ。心のままがんがん行け!天晴!
19.貞久萬『チェリオス効果-2.0』『チェリオス効果-2.0裏』
カロ穴木工って!天晴天晴!こういう捻り方は大好きである。
アウトサイダーっぽい荒み女子同士の物語はここから始まる。
その出会いの物語として非常に切れ味のいい荒み方をしていて、キャラ文芸的に楽しく読んだ。
社歌、作詞した社員も内心で会社のこと嫌いなのではないか。社長の奥さんをイジるところなどは地元企業社歌あるあるっぽくて楽しい。
ということで「チェリオス効果-1.0」も読んだ。
ルビ芸に目からウロコ。掛け合いもキュート。ラブレターが冷蔵庫に入っている、という発想と、
選挙権などの小ボケがとても好き。
20.ユイニコール七里『星一通りにある架空場のレビュー』
発想の勝利。架空を火葬の書き間違いとし、間違っていがちな海外の看板というモチーフを導入した独自性に天晴。
乾いたトーンの語り口が、うす淋しいカナダの町の空気に似合っている。
ぽつぽつ、と語る箇所や、個性的な句点の打ち方が散見されるところも雰囲気を作っている。
灰色なトーンを維持しきった筆力に天晴。
あまりにも慕われている「叔父さん」との徹底した距離感を感じさせるラストもいい。
日本での思い出をたどってもたどっても、ソフローニアでの叔父さんの顔は出てこない。だから顔も姿も見えない。
いい嘘つくなあと思ったら本当にあったのでびっくりしたマンゾウ・ナガノ山。
21.鮭さん『足さん』
足さん、泣いてるよ。みんないなくなっちゃったから。
いや鮭さんワールドの足さんには涙はない。ただ平然と受け入れるだけのような気がする。鮭さんワールドのものは色々なことを平然と受け入れたり忘れたりしそうだ。そうでなければ生きていけない。それは意外と今生でも同じかもしれませんね。
ところでカクヨムの「鮭さんのショートショート(とても面白い)」は2017年からこの調子で書き継がれており、全458話・総文字数33万3671字に到達している。戦慄した。天晴。誰か高橋源一郎に連絡をとるように。
22.七名菜々「5×10の一つ星」
ラーメンの話もいくつかある。その違いが面白い。
そうそう☆5のときって、案外と通り一遍のことしか言えないものだ。
そのてん☆1案件の☆1っぷりは多種多様である。
と思ったらラーメン大好き丸さんの褒めの語彙が豊かで面白かった。褒めテクに天晴!
こちらが本腰を入れて☆5に向き合っていないんだなと反省する次第。
ジローと蘭の会話のテンポの良さはコンテスト随一のもので、天晴を感じた。
さて縦読みになるのだろうか、それとも込み入った暗号か。レビューを暗記するジローの動向やいかに。実はジローの正体はラーメンではなく滅びゆくキッチンジローであった。
23.はしもとゆず「☆が欲しくなった日」
かわいい。かわいいじゃねえか。nyamazon。検索ボタンがおさかな!細部まで行き届いたかわいい。
レビュー1件か~いの表情もいい。参考になるレビュー少なくて泣き笑い、わかる。
星を買ったねこちゃん。無限の癒やしだ。天晴!!!
24.萬朶維基『薔薇と能楽』
着想と、レビュアーのほうも異常者であることが判明する一文の加速度に天晴!
「!」で盛り上げてから、当該一文の句点が「。」であるところ、心憎い。
めっぽう面白かった。大笑いした。この文章はバズると思う。
「精神の表現には行為がいり、行為には肉体がいる」
みたいなことを三島由紀夫はたぶん書いていた。
肉体を重視した三島が、2次元のフィルタを実体に被せて活動するadoに転生したという着想もいい。
25.小林猫太『俺か、ローランドか』
1時間でこのキレッキレの文章おそるべしである。流れるような文章の可読性は参加者随一。
ただし残念ながら事実誤認がある。
古賀裕人1st写真集『俺か、ローランドか』に
おさめられている脚の写真は古賀本人のものではなく、
美術助手であった好村直行の脚を型取りしたものであると申し添えておきたい。
いま市川さんに聞いたから間違いないんだよ。喝だ喝!
ちなみに撮影地はオール・岡山。そのとき古賀が宿を求めた旧本陣の末裔・一柳家の屋敷では、長男・賢蔵と小作農の出である久保克子の結婚式が執り行われていた……
この感想の半分がウィキペディアの引きうつしだってさ。走り込みが足りないんだよ!自分に喝だ!
26.安戸 染『星の子たち』
どんどんどんどんしょうもなくなっていき、
作者本人もどんどんしょうもなさに対して気分がよくなっている感じがして、
もういいかげんにしろと思う次第である。
もちろんこのいいかげんにしろは、
くすくすと呆れ笑いをしながら「いいかげんにしろよ」と小突いている親密な身振りで、
天晴であることを申し添えておきたい。
再読しても完全にうわごとだった。天晴!
27.染水翔太『全日本架空☆1レビュー選手権』
有村昆選手の言っていることはよくわかるよ。見直したよ、昆ちゃん。
ラップバトル的な選手権と、奇妙な肉体を持つ選手たち&ゆかりの人々でボケ倒していく構成に、
死んだり欠場している選手たちを描く短い文章がリズムを生んでいてうまい。
「爪を噛むことが完全に癖になった子供の、なんとも言えない目つき」選手、やめろよ、なんか分かるなあその目つき、という感じでえぐってくるのは。いい解像度をしているので、妙に暗い気持ちになってしまった。
個人的ハイライトはカラオケ館江古田店選手の外見。よく思いついたなー、こんなん。天晴!
28.回円『かくうほしいちれびゅー』『境界のレビュー』
「かくうほしいちれびゅー」、申し訳ない、たぶん上手く読み取れていない。
新しい組み合わせを開発したということか、それとも星新一とか工藤新一とか新加勢大周のようなことか。
などと考えていたら、「わかってないわね」の文が目に刺さる。
私に言われたことでもあるのか。かくて私は作中に取り込まれて天晴。
「境界のレビュー」は「仮想」空間の星レビュー。
本当にひどいところからの脱臭は難しい。本当にひどいところでは声も上げられない。そこは本当に仮想の架空の空間だったのかしら。
29.AYAKA 「“VERY BAD KINKING”」
オニヤンマが乳首に停まったら乳首ちぎられるのでは、と思ったらきちんとその懸念が表明されていて安心した。梱包の雰囲気を確認する時間が長すぎる点など、ツッコミ不在の妙なボケがしみじみと面白い。小ボケを探すのが楽しい。
突如として壮大な話がきらめく。そもそもなぜ評価点は「星」なのだろう。星のきらめきに我々は意味を付与した。いつか世界が終わる時、ひとつまたひとつと減っていく星の輝きを、なんらかの存在が我々を評価する指標のであると捉える集団が、生まれるかもしれない。
うねる展開を楽しみ、機知あふれる文章と小ボケを楽しみ、もういちど冒頭に戻ると投稿者名がオニヤンマさんで、まんざらでもなかったのかとひと笑いの天晴!
大泉さんはいかがでしたか。「そうですね、小説というものは、文字を読みます。文字を読んだ時、私達は小説を読んでいて、読み終わったときには、小説が終わっているのです。聖域なし!」なるほど。そんなこと言ってるから麻生さんが帰っちゃった。
30.高遠みかみ『最低評価が12件あります』
余白が多ければ多いほど、人は想像し、怖がる。
その余白が徹底的にコントロールされている。
危害を加えるための、不気味な何かがそこにある、と。
だからこそ、最後の☆5レビューの短文が、一段と恐ろしくなるのだ。
怖ろしいものの対象が「なにか」から「レビュアー」に反転していること、
レビュアーの素朴な書き込み。
ほかのレビューの表現の気の利いたことは言うまでもない。
名人芸。天晴!!!
31.うさみん『「世界一信用できるレビュー」』
つのだ☆ひろとダイアモンド☆ユカイが、☆入ってる系有名人としては二大巨頭なのだろう。一日に二度もつのだ☆ひろの名前を見る日はもうあるまい(筆者注・26番と同じ日に読んでいます)、天晴!
あとは誰がいるのだろう☆つきの有名人。ダンス☆マンだろうか。彼から奪えば★は8つになる。
それにしても書き手は★1にするかどうか逡巡している。
商品の良さとの葛藤である。そこに善性を見出すが、すね毛のくだりで印象は粉々に砕け散る。
32.ケムニマキコ『君の知らなひ物語』
こんな最悪な「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」を私は知らない。宇宙に帰ってくれ。爆笑の天晴!
☆を絵文字でわざわざ埋め込んでいる手の込みようが、
大いに作品に貢献していて、☆がうざいったらありゃしない。神は細部に宿る。いい勉強をした。
「おぎゃあ」と絵文字の☆の組み合わせによる厭さがものすごい。大発明。
おぎゃあ☆パートがいい感じの前フリになっているので、
そのあとはもう何を書いても面白く、
「ぬばたまの夜空」といった何気ない文学的表現すらも今更ぬばたまじゃねえよという気分爽快な笑いが生まれる。
その後半の長さもちょうどよく、いい天晴。
33.尾崎ちょこれーと「愛するヒビ」
好きだなあ。句点が消えはじめてからが勝負。冷静さを失っていくかんじ。天晴!
裏切られたから「どちらでもいい」と思うのか、それ以前から、そう思っていたのか。
そこは結構、重要なんだろうなと思う。たぶん、裏切りのあとから、なのだろうけれど。
「わたし」の心は「ひとり」だが、
「大人」や「わたしのふりをして会う」わたしなど、いろいろな仮面をもっている。
仮面にはそろそろヒビが入っている気がする。その傷も詩を通して癒せるのなら、詩があってよかった、ということになる。
34.牛ヶ渕ぽしぇっと 「岩澤課長のトミー・ジョン手術」
自作ゆえ省く。
35.じゅーり『もう誰も殺させない』
全文面白い。天晴!ただごとではない。
冒頭からのテンポ。
髪型と食べ物で違う、というアクロバティックなんだけど納得行く理論構成。
シェフが親子二代というあるある感。
「タイガーマスクや」のわからなさ。
後半からぐんぐんナンセンスになるところも二度美味しい。
「殺されかけるくらいならいいんちゃうかな」の身も蓋もなさが俄然愛せる。
殺し屋→ホスト→市長ってギリギリ有り得そうな気がしてくる最近の世の中。
苦しみ一つなく☆5つ、天晴!
36.えこ『架空の虹を駆ける』
大きな物語の序章といった気配。広がる可能性を感じる。
ネーミングをどんどん凝っていけば広範な民族による合議制が「天」ではとられているのかなあとか想像が膨らもうというもの。無数の種が蒔かれた一作といった感覚の天晴!
ミミズのような宇宙人は実は地底から来ていて、人間を天へと追い出した。万物は実は大地から生まれたのだ。妄想が膨らむ。巻耳さんは性別の描写はないがほんわか癒し系女性、でもきっと裏がある。陰謀を持っている。妄想が膨らむ。
頭腹尻病のネーミングが痛快。ただ体の部位を並べただけなのに異様に恐ろしい。手足口病も怖いものなあ。確実に死にそうだ。なんとかなりませんか。
37.乙野二郎「ダウナ&アツパ2ndシーズン」
弁護士の立場から☆1レビューについて取り扱う。新鮮な着眼点が天晴!
いにしえの洋画ふうな会話がリズミカル。これは140字の制限の賜物でもあるか。
実際の法律事務所もあれやこれや口コミが大変であろうし、
☆1をつけてやりたいご同業も大いに思い当たるのではないか。
法律家にとんでもレビューするやつっていい度胸している気がする。
38.はんぺんた「星が欲しけりゃ自分で掴め!」
じっさいショッピングチャンネルは大変に迷惑である。
督促状カラーの下地、芸が細かい。
しかしチャンネル1つ潰すのだから物凄い負のエネルギーだ。
だがレビューは世に溢れている。チャンネル1つ壊せても星1は潰せないようだな。
星からドラゴンボールを連想するのは意外であった。天晴!
39.鞍馬アリス『切れ痔レビュー』
「☆3」が「普通」。
なんとなく常識のように思っていたことだが、「☆1」や「☆5」が「普通」な人もいるだろう。ものすごい厭世的な人やものすごいおめでたい人。「普通の状態」にすら主観での差はある、ということを意識していなかったので、とても天晴!
「☆5」を強制しない関係性がいいですよね。
切れ痔から、この少しゴロっとした思いがけにラストに至る意外性に天晴。かくて我ら様々のことより人生を見出す。
40.草加奈呼『リサイクルショップ魔蒼堂』
ピーリカピリララポポリナペーペルト!ファンタジーだ!新鮮な気持ちで読む。
柿の青いうちは鴉も突き申さず候、ということで、
おいしいワザがだんだんと市場に絡め取られてシステムが荒廃する話、と、
意外にもシビアな展開で驚いた。
そしてマズい風潮になったら、とっとと足抜けして誠実な商売に舵を切る。お金も貯まっていただろうし。フィンくん、結果的になかなかの策士なのではあるまいか。損切のタイミングをしっかり心得ることを思いがけず意識させられて、天晴!
41.あきのみどりは『秋来たりぬ』
いちど手にした星が、思い出にならないこともある。
もう一度、手に入れたい。密かな執着を、子どもたちが知らないであろうことは幸福か。
でも、きっと、保護者は思っている。先生が一番張り切ってて派手だなあと。
いちど星になったものは、そうやすやすと輝きを手放せはしないのだから。
天晴の140字。
42.くさのこうや(くさのりえこ手伝い)「ほしひとつ」
あたたかい出来事だと思う。きっと、草野さんが呼んだUFOにくっついていた星が、おまけにぽろっとこぼれてきたんじゃないか。草野さんの星は、こうやさんのところに来た。
古賀コンの島には79の星が来ていました。書いたり作ったりする仲間たち。目を覚ますたびにいっぱいの星がそばにいるよ。天晴!
43.百目鬼祐壱「紀子先生」
瑞穂青陵高等学校、写真の件数、どうなっているのか。恐怖である。
通り一遍の解釈をするならば十円玉は六文銭なのだが、
紀子先生はつまり三途の川の渡し賃など要らなかった。
川を渡ろうとは思っていなかった。そして語り手のなかにこびりついた。
語り手は、その三十円を今も持っている。だからベッドの上から動けない。
ここに囚われの物語は完成するのだが、
さて、ビンラディンの殺害時は、戦時ではなかったか。
あれを戦争だと思っていた日本人がどれだけいるかは知らないが。
そうとは思っていなかった語り手を、紀子先生は戦時へと引きずり込んだ。
ところが語り手は未だ開戦していない。
寝ぼけているのか、それとも実は、日常ごときは戦争ではないと、紀子先生をすでに超越しているのか。
後者であってほしい。紀子先生の話もろくろく聞いていない、痛快なやつである。もとから聞いていない感もうけるが。そんな青いもだもだをじっくり読ませる力があって、天晴。
44.大杉玲加『天使の星』
いい話だ。ほっこりの天晴。
すれ違いの話なのである。天使と私、そして私とA/B/C子。言葉は交わされない。だから真意は分からない。語っていたら、どうだったろうか。わたしは何かに負けたのか、それともA子たちは何かから逃げたのか。
いずれにせよそのときの彼女に降った星は、慰めの星で、つまり天使はずっと彼女を慰めている。外国人との「会話の失敗」もまた、ネガティブな思い出である。天使ももうちょっと早く真意を教えてくれてたら、もうちょっと早く気が楽になれたのになあ。でもいいのだ、この小説を読んだから、天使の意図はもう分かる。みなに幸あれだ。だいたい一個でも五個でも星は星、それは誉れの星なのだ。
45.枚方天「二度と御免だ」
これはもうお疲れ様でしたとしか言いようがない。
病院というのはもう、しばしば、バカバカしいポーズをさせられる。屈辱である。
「え~」の、この、「~」だ。間の抜けた声をあげるために俺ののどちんこはあるんじゃないやい。ぼんやり口を開けるのもいやだ。
いや病院側だって、尊厳を奪おうとしてやっているのではない。わかる。医療に携わる全ての皆さん、患者のためにやっている。でも情けない気分になる。
検診はともかく、作者は、☆5ですよ。ちゃんと検診行ってるんですもの。生きてなんぼですよ。生きているからタバコがうまい。天晴!
46.和生吉音『星とはどんなものかしら』
縄文時代ばなしかと思いきや。1時間で「星」からここまで着想を広げたことに敬意の天晴。
若者たちの操る言葉は、今様の、古代の人々にいまっぽい言葉を喋らせるテクニックかなと思っていたが、ひょっとすると言葉づかいだけは生き残っているのかしら。そんな驚きがあった。描写とセリフのテンション差を1時間のあいだで扱い切る手綱さばきもブラボー。天晴
それにしてもミームとして残っている言葉は殆どがインターネット関連のものだ。我々の文明はとっくにウェブ空間のなかに移動しているのだなあと、なんだか感慨深くなってしまった。
47.のべたん。『☆1』
突然だが長野県の星糞峠をご存知か。かつて黒曜石の産地であった。
縄文人はキラキラ輝く黒曜石を星の欠片であると思い、
それがいっぱい散らばった様子を「糞」の字で言い表したのだ。「糞する」には「チリで掃く」という意味があるとか。散らばった糞が星のようにきらめくこともある、言葉の上では。
一方で、アバタづらを月面宙返りと呼ばれることもあるし、胸の傷が北斗七星に擬えられることもある。星は身体上では痛みの象徴としてあらわれる。星は傷である。
身に浴びた糞を星のように思う今の彼は、傷だらけだ。痛ましい。「人間らしく」「誠実」であることとは、鳩殺しを引き受けることではない。鳩殺しを免れた人々は、どうせ語り手の預かり知らないところで全然べつの苦しみに出会う。人の苦しみを背負おうとか軽くしようとは思わないことだ。幸あれかし。
「鳥対策の仕事だ」というずばっとした転調にも天晴。
48.海音寺ジョー『星合』
句会は人によって☆変わりますもんね。
「血行をよくするための八角棒」とかのさっぱりとしてユーモラスな感じは☆5で天晴!なのだが。☆1だったのか。無季だから?
「花信風」の句も相当いいと思う。が、この感慨なら、もう一親等、近いほうが、腑に落ちる気もする。そうするとハマる言葉がないので、俳句は難しい。
49.UBEBE『地球』への上位レビュー
ジョン・レノンの言うことは全部サクラみたいなもんで、
手に入れる前だから素晴らしいと言えるし、
永遠に手に入らないものだから素晴らしいと言い続けられる。
この世が平和であったらいいのにと、そういうことである。
「朝あれば夜あり」のレビューの人の言っていること、めっちゃいい。泣ける。当たり前のことを、ゆっくりと確かめている。そうして仕組みを知り、「今後の期待」を持ちながら、☆4な気持ちで生きていく。期待が失望に変わって☆1になるまえの、あの束の間の喜びが、閉じ込められている。泣けた。涙、涙、天晴。画像作ったんですか?すごい。
50.藍笹キミコ「恋愛感情についての勉強、期待外れな教材」
なるほどである。
確かに、AIだって効率的に学習したかろう。教材であるところの人間をレビューする。面白い着想に天晴!
なんだか自分に言われているようでしょぼくれてしまう。きっと色々なことを聞かれても、感情についてうまく説明することはできないし、矛盾するような行動を見せてしまうことばかりだろう。
でもね、違うんだよ、AIさん、君が掘り下げたり、混乱をときほぐしたりして、相手のことに近づこうと一生懸命になる、それが恋愛なんだよ、学習が延々と続くのが恋愛なんだよ……それが面倒くせえって言ってるだろうが!
実際問題、恋愛感情それ自体の根源は、パターン化できそうな気がする。恋人同士の無数のエピソードがかぶせられなければ、無味乾燥な類型に過ぎないのだろうが。
51.栗山心『Pちゃん』
長期レンタル割であった、という点が、全ての始まりなのだ。
ほんとうにそれを望んでいるのか?
新しいサービスは半信半疑のもとに始まる。
というか、子を迎える不安が、この書き手のもとにも訪れた。
その不安が愛めいたものに変わる瞬間もまた、この書き手に訪れた。
わたしはこの書き手をことほぎたいけれど、Pちゃんのほうはどう思っているのかも大事だよなあとか。レビューは架空だから、本物がどんなPちゃんなのかは、わからない。でも、書き手は、Pちゃんを愛している。もちろん天晴。豊かな余白がある。
52.津早原晶子「キジバトの星」
とぼけた味わいが非常に天晴。訪れる破滅には凄みがある。
「もうこの際これからは正時のたびに変拍子の鳴き声を刻んでやろうか」が凄くいい。ここに3天晴を進呈したい。
鳥目で星の見えないキジバト、滑稽で、ちょっと寓話っぽくていい。
全体にまったりした不思議な空気に包まれていて、なかなかない読み味だった。
それでもやっぱり異種族だ。超新星爆発の光に照らされ、きっと喉を振り絞って鳴いているキジバトの姿は、わたしにはけっこう怖くうつる。爆発は星の死である。キジバトの目には死しか映らない。
53.入谷匙『カスカスのカス』
カスタマーレビューは人生の一面を切り取る。
レビュアーが最悪の体験をした、その一瞬が商品の売り手へとにぶつけられる。
本作の場合は、カスカスのインクが、語り手の経験した「悪夢」の体験を引き寄せてしまった。
ちゃんと書けるペンだったなら、我々は知らずに済んだはずだ。
語り手、いや、書き手か、が、自動筆記のようにつらつらと書いた悪夢を。
試し書きコーナーだろうか、自宅なのだろうか。
紙の上という閉じられた場所では、レビューは届くまい。それなのに猛然と自らの悪夢を書く書き手にほんのりと恐怖を覚える。レビューとは本質的に誰かに読ませるものだ。閉じた紙上の愚痴は、あたかも悪夢じたいが悪夢体験を書き手に書かせたかのような自動的な筆致で書かれ、レビューを、そして古賀コンを媒介して外へ出る。そのとき悪夢の扉が開く。怖かった。天晴。
54.吉野玄冬「超新星に捧ぐ墓碑銘」
バーバヤガ書房『史劇ぴ劇』10月号には、天音悠花を偲ぶ人物評『超新星に捧ぐ墓碑銘』が掲載されている。天音悠花は早逝した名女優だ。評者の吉野玄冬は劇評家で、『堕天』を観劇した幸運な――という表現には障りがあろうが――観客のひとり。天晴な仕事だ。
ここで吉野は、『堕天』におけるサリエルそして人間が、天音悠花の喪失を受け止める観客と二重写しであることを周到に示している。役に没入した天音は、サリエル自身が辿り着いた答えがほんとうであるのか、人間は変わっていくからこそ意義深いのか、確かめようとした……そのようにも思えるが、過度の伝説化を防ぐために吉野は明言を避けたのであろう。それにしても、天音には生きていて欲しかった。サリエルは人間になることを選ぶ。天音は天使には、なるはずではなかった。現実は演劇ではないのだ。残念なことに。
ところで、脚本家は『堕天』を二度と上演しなかったが、弟子筋である小野寺了※1によって、人買いモリスを主人公とした『能天気男一堕居』が企画されたことがあった。全く懲りずに人身売買を繰り返し、サリエルの替わりを探すモリスの非道を描いた作品であったが、さすがに猛反発を食らって沙汰止みになった。今にして思えば、小野寺こそモリスであったか。彼は喪失が耐えられず、もういちどサリエルに、サリエルの影に会おうとした。これもまた人間であると思う。
※1 劇団オンディーヌの演出家・小野寺一の実弟。
55.柊木葵『帰路』
1時間でこの強度の作品が書かれたことに天晴。
たんねんな情景描写から、
「わたし」の内面に迫る作品であるかのように、まず錯覚した。
「恋人」への通話を皮切りに印象は変わり、
どのように転がっていく小説なのだろうかと強い興味を惹かれた。
語りの順序の妙に拍手。
どんどん書いてほしい。
56.それいけ!まちか2世『ネオチンピラ』
なんなんだよこれ笑 天晴だ!
唐突な急ハンドルの切り方が醍醐味。
ネオチンピラはやべえタールのタバコさえ吸っていればネオなので、
見た目は普通セールスマンでも心と肺が真っ黒で唇がまっ紫ならネオチンピラなのだろう。
みなの心にネオチンピラがあれば悪徳商法はなくなるといってもよい。みなネオチンピラとなれ。
始まり方がいいかんじに、それまでの余白を想像させるところも心憎く、
そうした「商品」への興味をネオチンピラが全て粉々にする豪快さにも天晴。
57.桜雪『☆1の方が幸せだった』
「まさに、鬼の目にも涙というやつだ」。そうかなあ……?反省してないな。さすが鬼である。笑いの天晴。じっさいドジッ鬼、改善する意志、全く見えない。どうせ相手は地獄の亡者、悪の限りを尽くした奴らであるから、地獄の運用も理不尽で構わないのだろう。
自分よりも恐ろしいことを平然とやるやつがいる。それは分かっても、どのくらい恐ろしく、どのくらい平然としているのか、実際に想像するのは難しい。それをやるやつこそが鬼なのだ。鬼には出会いたくない。
58.夏目ジウ『ヒロト☆シンジ 1.2.3』
なんか大変なもん読んじゃったな。
前後の繋がりがギリギリのラインで切断されている文章に酩酊感を覚える。天晴!
それは作中でレンタルされている奇妙な邦画と同様の、
アングラな作品にこわごわ接しているような感覚にも近い。
古いビデオ(厳密には、古いビデオ屋にある、というだけで古い作品なのかは分からないが)
の出演者のことがインターネット・ニュースになるあたりで、
そしてそこに使われているのがAI技術であるという事実が明らかにされるにあたって、
時空間は甚だしく転倒する。
作中の万事一切が架空である。
だが物語外にある「ハッシュ・タグ」は確固として生きるある人物と紐づいている。
彼らは虚構であるが、彼らが「いる」ことを作者は主張してもいる。
そこに、マイ・ヒーローへの倒錯した憧憬を確かにわたしは見た。
59.605「間違いなく良品。ただし同封品のみ難点。」
気が利いていて完成度が高く、文句なく天晴!
パターン化した文句が気の利いたものに変じる結句が鮮やか。どうだ、みたいな気負いも感じないところ上品ですらある。
除霊師の塩へのこだわりという発想、業界団体の実に業界団体らしい真面目な検査、塩に思念がうつるという冷蔵庫のニオイ移りみたいな生活感のおかしみ、とにかく纏まりが良い一級品だ。塩の良さをつたえる描写も地に足がついている。これはグウの音も出ない。
こだわりの製品に、力のこもったお手紙が入っていることは、よくある。筆文字の。来歴とか書かれた。そんなあるあるを逆手に取ったところも巧みだ。再度天晴!
60、野田莉帆『コガヒトロ社をよろしく。ロボットの会社です。』
「今日も元気に一律☆1レビュー!」コラ!!!!清々しい悪気のなさに天晴。笑う。あまりに無邪気だからこっちも単純な叱り方しかできなかった。
しかたがない、そういうふうにできているロボなのだから。
でも、「嫌だ」という感情が生まれてから、ウメには自発性も生まれた。
命をつなぐために、レビューを書き込み続ける。企業に寄与するためではなく、自分が生きるためにレビューを書く。ウメ=サクラは、ひっそりと、ただならぬ存在に進化しているのかもしれない。
しかしこれ梅村さんがだいぶ悪いしポンコツなので、コガヒトロ社は梅村さんに処分を下したほうがいいと思う。で、ポンコツとか、処分とか、モノに使われる言葉はけっこう人間にも当てはまる。悪い意味で人を見る時、じつはその人をモノみたいに見ているのかもしれない。
61.群青すい『Lucifer』
星ひとつの、レビュウの、その詩。
人のことなど歯牙にもかけないであろう金星の、
大きくて優雅な身振りが見えてくる。
見上げる我々は絢爛な姿に圧倒されるのみだが、
思うままの踊りが穿った宙の穴に、
畏怖とも尊敬とも異なる感傷をみる。
「妙なる機嫌」がなかなか見ない表現。神秘的な機嫌、あるいは美しい機嫌といったふうな言い換えができるか。人が何の策も弄することのできない、宇宙の向こうの大いなる機嫌だ。浪漫である。最後の連がめっちゃいいです。曲をつけてほしい。天晴。
62.ししゃも「古賀コン」
そんな!天晴!
「古賀コンの☆1レビュー」という、開催告知で目に入る部分だけから全ての材料を持ってきた機動力に敬意を表したい。このような抜け道があったか。
「寝る間を惜しむ前に寝たいし」、それはそうである。正直でいい。そうこなくちゃとすら思う。
「1日1日の時間の流れが早」い。それもほんとそうである。1日に☆1。
63.只鳴どれみ「Yalla(ヤッラー)」
「やれやれ」をひどく便利に使っている。「やれやれ」って言えば終われるのだ。勉強になった。
サニーレタスに似ている黒ロリ、という描写にまず唸った。「面白い可能性を期待して」という軽はずみっぷりが全体のトーンを決定している。こういう四角ばったことを書いているのがダサイ気持ちになってきた。続ける。「可能性」という未知・未来・試み等の何等かを包括するふんわりした表現もまたいい。全体的に言葉のセレクトが良すぎるのだった。
高精度高濃度の悪夢に天晴。ちゃみとぅるる・ちゃみとぅるるってちゃみとぅるる・ちゃみとぅるるって感じかなあ、というところは審議待ちだ。
64.笹慎「★☆☆☆☆『オーシャン・リーパー2』レビュー(ネタバレあり)」
悲痛である。レビュワーの言う対案の全てが的を得ている。その解像度の高さに天晴。
せめてもの対策すらしてくれないのか、という絶望がありつつ、罵声を必死に抑え込んでいる感じがする。そういえばスピードマックス2、全くノレなかった。どうしても「前作は何だったんだよ」と思っちゃう。何をやってもマイナスからのスタートなのだ。
続編映画をむなしいものにする方法を心得た作者に敬意を。むなしい続編が二度と出てきませんように。
65.山崎朝日「湖の虹」
約束の虹も、望まぬ対価であるところの星も、娘さんのところへと流れていった。
いつか天国へ来るであろう語り手を、星が舞っている。
いつか会えると思えば、生きていけるものだろうか。軽々しいことは言えない。
娘さんの「やくそくね」という言葉がいたましい。彼女も自分の約束を果たしたかったろう。約束は相互でやるもの。すでに片手落ちの約束へ向けて心を砕く語り手のことを思うと、それもいたましい。
と同時に、約束は呪縛でもある。魔法などなければ、勉強に割く時間を娘のために使えたのかもしれない。そうした時間のなかにあったかもしれない経験か、喪失の先にある希望としての星か。どちらかが、指の間をすりぬけていく。
上手い人にうまいですねというのが失礼な気がするくらいにうまい。
カレンツァ湖のことを知らなかったので、検索してみたが、とてもいい景色だった。こういうものを知ることができて良かった。感謝の天晴。
66.南国アイス「お星様があなたをレビューしちゃうぞ」
お星様が厳しい。
システム構築の労に天晴!
67.子鹿白介「☆の数は3の倍数で」
いかにも寝不足の深夜テンションで書かれていそうな小説で天晴!
思いついたから書く。その初期衝動が大切なのだ。どんどん書いてほしい。相撲部屋河童物語を。将来的には彼女の河童の相撲部屋物語は朝ドラになる。目指せ未来の内館牧子だ。天狗が出てくる続きを書いてこそサービス業だぜ!
68.長尾たぐい「炙りカルビ 薄切りタレ漬け 特選 6人前」
よくこうもスラスラと早口言葉が出てきましたね。その引き出しの深さに天晴を!
これはもう朗読チャレンジを早急に開催すべきであろう。
試しにやってみたところ「奈良生マナガツオ」で撃沈。
これはいい。アゴの体操になる。何らかのカリキュラムに取り入れるべき。大天晴。
早口言葉キャラという、グルメレビュアーには何ら必要のない自己主張をわざわざ入れてくる老人、という腑に落ちるキャラ付けも名人芸だ。
69.若山香帆「川のホテル」
瞠目して、評を書くのに詰まってしまった。これはすごい。頭を垂れての天晴である。
部屋を横切る幻の清流。描写のひとつひとつが、涼やかな川に接した「わたし」の感覚を、あやまたず伝えてくる。評者は幻視した。人里離れた野山の渓流を、行ったことのない理想の場所を。
幻想は止まらない。絢爛な王国の一行、夜の川をゆく船の影。見たい奇想をすべて見せてくれている。なんといい眺めだろうか。ホテルにいる心地だ。気持ちを豊かにするものだけに専心していればいい、旅客の気持ちだ。いい旅をした。全く理想の奇想である。大天晴。
70.松本玲佳「遅咲きの花」
そも芸術とは神に捧げるために始められた営みだ、と聞いたことがある。
「私」は長きにわたって、顧みられることがなくとも絵を描いてきたのだろうか。自分の信念に従って。
その願いが幾許か報われた。ようやくひらいた遅咲きの花。
冥府の直喩でそうそうに神話的世界観を敷いたあたり手堅い。確かな設計に天晴。
誰かに褒められたいのではない、それはつまり神に褒められたいということですらない……という境地にまで、個人的にはあってほしいが、ここは好き好きである。文章にしろ絵にしろ、誰かに見せずに直向きに進められる人は少ない。だが、いないわけではない。彼らは自分のなかの快楽に従っている。その快楽に、衝動や神という名を当てはめるより、これは自分が好きで楽しくてやっていると率直に受け止めたほうが実り多いように思うが、これもまた好き好き。
71.ましこ「コンビニで選ばないおにぎり第一位やんけ」
おう、よかったやんけ、のう。
どう考えても最初からいい感じである、二人。
案の定中盤からデレデレである。
わかる。この「あの二人/わたしらいい感じだよね」の関係の頃が一番楽しい。
そうなってる人たちを「ほほう」と眺めているのも実生活においてとても楽しい。天晴である。
このあとはどうなるか。まだ同じアパートに住んでいる村瀬のところへ飛んでいって、ベランダで優勝の余韻に浸りながらタバコを吸っている村瀬にむかって「コンビニで選ばないおにぎり第一位やんけ!」と突っ込むのである。そして任意のエンディングテーマが流れる。天晴。LOVE。
ただ、1点。「この間ネパール人が割ってしまってから」ネパール人、名前を覚えてやってほしい。もしくは「別の店員が」でいいと思う。村瀬さん意外のことが眼中にないにしても、ちょっと淋しい。1時間で書くコンテストである。これだけしっかり起承転結をとらえているわけだから、推敲の時間があれば、気を配れる書き手だろうとも思う。うるさくて申し訳ない。こういう些細なところに、何かが出てくる。入れ替わりが激しくて名前が覚えられないとかのリアリズムはあるのかも、とかも考えるが。
で、書きながらさらに思ったが「店長」は店長でよくて「ネパール人」に引っかかったのは自己矛盾だ。案外わたしの難癖なのかもしれない。悩んでしまう。
72.ハギワラシンジ「濃厚と淡麗のあいだ」
2015年にまだマクロスFのネタで何かを始める一人称小生のラーメンレビュアーという冒頭だけで地獄を見たような気持ちになる。通読したら腹が痛くなった。ただごとではない。天晴!!
独自の生態系に住まうレビュアーの、独自の言語である。同じ日本語を用いているはずなのに理解に体力を要する。どうしてこんなふうに書いてしまうのか。レビューにせよXにせよ独特の構文の人がいる。状況が文体を作るような気がするわけだが、ではなぜこうなる。謎だ。
たぶん最初はシンプルな魚介系を出していたのだろうか、「麺にとどけ」。だんだん個性が炸裂しすぎていくにあたり、古株の語り手は、異様な語り口の裏に複雑な思いを隠しているのかもしれない。そんなことない気もする。
73.吉田棒一「無題」
自己紹介・テーマ回収1・終わり・テーマ回収2。無駄のない構成に天晴。
好きに生きていいのだ。星つけるときは星つけるって言えばいいし終わるときは終わりって言えばいいし架空なんだから架空って言えばいい。みんな走れ!ターーッ!
74.M☆A☆S☆H「架空の古賀裕人の★1朗読」
1時間ライブ朗読!こういったアプローチもあるのか。天晴!
演出がいい。時間的制約のなかで生まれた早口は、「僕」の多弁、高揚、どこに転ぶか分からない話を聞かされ・聞かせる不安感、さまざまなことに寄与していて、作品と調和している。猛然と作られていく背景の料理もそう。あまりにも大量に作られていくそれ。次々と表示されていく字幕。情報量がスピードに乗る。多重速度をここに見る。
「この小説はピュア」という評に同感する。多弁の奥にあるのはたった一言「君といられて楽しい」なんじゃないか。小説に仮託された架空の古賀裕人のピュアを掘り出したM☆A☆S☆Hさんには☆が1つではなく3つある。
75.夏原秋「燃える星」
与えられた名字よりも、与えた名前を大事にしていてほしい。
そんな願いは、この母子にとっては、再会の目印になった。
名付けにこめた気持ちが、彼を星にしたのか。あるいは、母を思う気持ちが、彼を星にさせたのか。その両方か。
危ういことを仄めかさずにはいられず、けれど名前の由来を伝えることはできなかった、母親のアンバランスさに思いを馳せる。願いを背負わせすぎないように、と考えていたのか。そう自制しつつ、つい思いがけないところから、不穏な言葉が出てしまったのか。母親は後悔しただろうか。子供がそれをどう受け取るかは分からない。星一は、母と再会することを望んだ。二人が壊れていなくて、良かったと思う。
書かれすぎないことは、読み手の想像の翼を広げる。1時間のなかで反射的に書かれる古賀コンの作は、なにを書きなにを書かないかの取捨選択について野生の勘が問われる。塩梅に天晴である。
76.蒼桐大紀「もちろんこれはたとえ話です」
書くことで罪を洗い流す。あるいは向き合う。そういった側面が確かに小説を書くという営みには、ある。文章に間に入ってもらって、ゆっくり考えを整理するような。「たとえ話です」という留保に耐えられなくなった時、書き手はついに小説を挟まずに、過去へまっこう臨むことになる。もはや贖罪はならず、せめて無事にあるようにと願うことしかできない。罪とはそうしたものだ。
自分の名前の横にあった☆は、なんだったのだろう。負の烙印としての評価ではなかったはずのそれが、地に落ちた評価という意味合いに変わる着想に天晴。
かわいそうだが、起こった出来事は、しくしくと抱え込んでいるしかない。気にするだけまともだ、という類の慰めも、語り手の胸を打ちはすまい。落ち込むばかりだ。
クラスメイト全員分の名前を書いたノートは普通に怖い。でも子どものころは、そういうこと、してしまいそう。
77.sayaka「星を並べて」
もともとは、どこが気に入らなかったのか。それこそ「得体のしれない恐怖」が初めからあったのだろう。きっと、誰を相手にしてもそう思われてしまう女性なのだろう。だから彼女は不可思議な力で評価を捻じ曲げる。出会いに乾いた人は、どんな水でもうかうかと飲んでしまう。そこに付け込まれるわけだから、異性への欲というのは怖い。
決定的な描写はなく、彼女の言動もそれほど変わらない。ただ、急に輝いて見えるだけ。そこにそこはかとない不気味さがあって、描写に天晴。
水はなくてはならないが、飲みすぎればむろん腹を壊す。なくてはらなない水のような相手、になど、ならないほうが健全だ。
人のくれたグラスに手を付けるものではないなあと思うばかり。
78.坂水「センチメンタル・ファニー・スター」
ああ、そうだ。レビューの星は、著者のものでもある。
レビューする側につい立ってしまうが、より多い星を獲得するのは著者のほうだ。
星もまた物語を探している、という着想には泣かされる。よかった、というストレートな喜びの輝きの中に星は生まれる。あまりに☆を使いすぎて、その基本を、星の輝きは尊いものだという原初の気持ちを忘れてしまっていた。☆を貰うということは、素敵なことだったはずだ。
ストレート・ファニー・ストーリー天晴である。レビューつけたいがためにヘドロ沼にまで潜る主人公、面白い。
79.サクラクロニクル「ひとつ星」
レビュー上でイチャイチャしてらしたということですね。キーッ。
ということはさておき、まさしく「だらけた関係性」の心地よさは堂に入ったもの。この感じでダウナー日常系の王となられたし。こういう空気は好きなので天晴。変な口調の三つ編み内面湿っぽ女子も好きなので天晴。多弁で糊塗したなつきぶり。いい。そうした人の内面に近づけば近づくほど凡人だと分かっていったりする。非常に、いい。好みの問題である。
☆5レビューは来夏からの応答だろうか。とっくにお互いの輝きは届いているけれど、それを口では言わないいじましさが実にまたへっへっへという感じである。
80.杏杏「おすすめ」
「死ぬまでtwitterと呼ぶと決めている」という冒頭から、すでに語り手の偏屈さがあらわれている。その偏屈は別に、日常生活には出ないのだろう。たまりにたまる鬱屈を形成する性質のひとつだ。珍獣観察も、そうした鬱屈のはけ口の一つのように思える、と、版で押したような分析を加えてしたり顔をするアカウントも☆1の珍獣なのだろう、し、意見に反対のリカバリも書き加えてバランスを取ろうとするアカウントも不可解な珍獣だ。なにをやっても珍獣に見えるのかもしれない。観察者はどんなときも上から眺めている。
タイトルの「おすすめ」が無性に怖い。天晴である。
ファンアート1 中務たきもり「浦和のパパに騙されました」
最後の二行の凄まじさが後を引く。コーヒー飲んでからカフェ行くの?ゴクゴクって文字で書くの?煮詰められた不条理の奇跡。すごかった。最後の二行に天晴!
ううむしかし、これでいいとは思えない関係性だ。たとえ紳士的で理想的な「パパ」が現れたのだとしても、その内面さえ知らなければ理想のパパでいてくれるのだとしても。
ファンアート2 ゼロの紙「かませ犬。」
強みなどない!という状態で生きてもいいような気がしてきた。実際それで耐えられるかどうかは、熟慮していないから分からない。かくいう自分自身、強みが何かと考えるのを拒否しているわけだが。☆で評価されることを拒む、自分につける☆は自分で決める、そして☆がなくても構わない、そのような生き方を望む。
「今とびきりの高級ドッグフード食べてます」という最後の文がいい。天晴!
人生をレビューしろみたいな問いかけ、別に知りませんよそんなん、みたいに軽く吹き飛ばす力がある。生きている感じがする。
犬のじゃんけんってどうやるんだろう?
ファンアート3 ユイニコール七里「カクウメガネ」
傑作。傑作、傑作。出てくるもののチョイスがいちいち良すぎる。天晴!
全体のとぼけた感じがいい。怒るほどではないな。とか。いい。
本橋君は包丁だ。包丁。この包丁っていうのがいい。絶妙なワードチョイス。
こんなに嫌なことが起きたら気が遠くなるに決まっている。別にそんな狙いで書かれたわけではないだろうが、気が遠くなったとき、まったく明後日の方向のことが脳裏に浮かんでも不思議ではない、ぜんぜん納得がいく。焦点のあわない視界のなかでくっきりと石黒賢が浮かぶ。よく2時間ドラマに出ている。2時間ドラマが終わる前に全部が変わってくれるか。
ファンアート4,ユイニコール七里「クォーテーションマーク」
毎日ログインするのを日参と表現されるとなんだか骨が外された感じがする。いや、腰が抜けた感じか。
「尻の毛が抜けるまで課金するでしょうね。へへへへへへ」とか、いい。
なんだか素敵で凄い話を教えてもらって、しかもそれが別に親しい間柄でもないんだけど、でもけっこう親密な感じで細かく教えてくれてもいて、とぼけた感じで、急に首括るとか言うからびっくりして、ああこの人ケツの毛が抜けるまで借金するんだあみたいなトキメキが。なぜときめいているんだろう。語りかけ口調だからか。淋しいのか?ときめきに天晴。こんな話されたら好きになっちゃうよ。
ファンアート5 伊吹真火「檸檬哀渦」
「家族で夜ご飯を食べて」というからには、母親もいるのだろうけれど……。父、部屋に勝手に入っている。年頃の娘さんにそれは駄目だ。当たり前のように、そういうことをしている。きっと色々なことに、ずかずか踏み込んでいる人だ。かぎりなくギリギリのラインでの気味の悪さが嫌悪と恐怖に変わる瞬間。そこには父が呑気に思い描くような、きらきらの☆は存在しない。皮は苦く果実は酸っぱい檸檬、嬉しさの甘みを有さない、「私」の中にずっとあった檸檬だ。月も星も蹴飛ばしてしまえ、恐れず檸檬を食らわせてしまえ。思春期の人間の部屋に無許可で入る人間を許すな。エールの天晴。
ファンアート6 みかんちゃん「みかんちゃんはレビュー上手」
うんこにも顔ついてそう。あと、流してないよな?ちゃんと流しなさい。大笑いして喝だ喝!
ファンアート7 久乙矢「割りスープに焼き石を」
深く悲しい愛の物語。大空港占拠、AI脅迫、水面下の全ての努力は、彼の気を引くために。その一途な想いが届く日は来るのか。焼き石はスープを再び温める。密かに覚めつつあった古駕とはぎにゃんの間を、語り手の投げ込んだ石が再び熱く滾らせるであろうことを、この比喩は予見しているように思える。石によって飛び出した汁がわたしたちだ。紙ナプキンに跳ね跳び、わたしたちは無数の星になる。紙ナプキンやティッシュのなかで冷えていく褐色矮星は、愛に輝くことはない。そしてストーカーはよくない。憎めなさに天晴。
以上。
名球会入り・ベストナイン発表
野球が嫌いな方には申し訳ないがベストナインを決める。
まず名球会入りは26.安戸染「星の子」。何度読んでもうわごとにしか思えず、シンプルながら無駄のないうわごとっぷりで1シーズン2000本安打を達成した。
ベストナインは
1番 68.長尾たぐい「炙りカルビ 薄切りタレ漬け 特選 6人前」(遊)
2番 4.渋皮ヨロイ「届いたらびっくり、ゴリラでした」(捕)
3番 17.佐藤相平「一つ星」(中)
4番 69. 若山香帆「川のホテル」(一)
5番 26.安戸染「星の子」(三)
6番 2. 憚譚之傍見「"今夜の気分"」(左)
7番 29.AYAKA「"VERY BAD KINKING"」(二)
8番 63.只鳴どれみ「Yalla」(右)
9番 49. UBEBE「『地球』への上位レビュー」(投)
DH 24.萬朶維基「薔薇と能楽」
ベストナインは打順まで決めないが、決めたかったのでやってみた。
※10月5日、打順について補足。タイトル略称御免。
1番「カルビ」は初読の愉快さが図抜けていて、しっかり出塁してくれる。軽快な読み味の機動力もあるので遊撃手を。2番「ゴリラ」も読み手を選ばないファニーさでOPSが高そう。品の良い落ち着きもあってクレバーな捕手を。3番「一つ星」と4番「川のホテル」は作品の正統派の打力が抜群。チームの柱となる守備位置をお願いした。5番「星の子」は一発がある。6番「今夜の気分」は創作&怪文書でカバーしきらないボールを確実に打ってくれる。7番「KINKING」は柔らかな読み味・奇抜な内容の不気味さ・ネタ数の多さ、技と足で掻き回す。職人的な印象もあり二塁手を。そして8番にはハマればばんばん打つ「Yalla」を置けば気が抜けない打線の出来上がりだ。9番「上位レビュー」は情動のストレートも笑いの変化球も自由自在のエースピッチャーだ。
ほか、59. 605「間違いなく良品。ただし同封品のみ難点。」を抑え投手に起用したい。
32. ケムニマキコ「君の知らなひ物語」、5. 添嶋譲「カスタマーレビュー」、74. M☆A☆S☆H「架空の古賀裕人の☆1朗読」もチームに帯同してほしい。ユイニコール七里「カクウメガネ」の肩の仕上げさえ間に合っていれば。楽しい作が多く、選びきれない。
このメンバーで日本シリーズへ向かう。ありがとうございました。
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