巨女ノ国 ~#001~
小人の男たち約100人が暮らすその村には、昔から”巨女の国”というユートピアが遥か東方にあるという言い伝えがありました。
巨女の国には、それはそれは優しくて包容力のある巨女がたくさん住んでいて、その国に住むことができれば、一生安心に、安全に、幸せに何不自由なく暮らしていけると言われていました。
ところが、伝説の巨女の国に行くためには、巨女が出してくるいくつかの質問に答えなければなりません。
もしその答えが巨女のお気に召さない場合は、生きて帰ってくることはないという恐ろしいリスクがありました。
今までも、何人もの小人の男たちが巨女の国を目指しました。
しかし、誰一人として帰ってきたものはいません。
巨女の国で幸せに一生を暮らしているのか、それとも命を奪われてしまったのか。
その事実すら、誰にも確かめようがなかったのです。
巨女の国に向かう勇気もなく、小人の男たちだけでそれまでと変わらない生活を送り続ける者の方が多いのは事実です。
小人の男たちだけで暮らしていても特に楽しくはありませんが、とりあえず日々を生きていくことはできるからです。
ただ、毎年数人は、巨女の国を目指して村を飛び出していきます。
そして、それを誰も止めることはありません。
この村を出るのも、この村にとどまるのも、自己責任。皆その考え方に慣れきってしまっているのです。
おや、今年は巨女の国に向かう男たちが5人いるようですね。
・・名前?彼らに名前なんて、初めからありません。
仮に、一人目、二人目、と呼んで紹介していきましょうか。
一人目は、とても生真面目で、何でも言うことを聞く従順な性格。長いものには巻かれるし、お世辞やおべっかも上手で、世渡りが得意だと自負しています。
二人目は、体育会系の気合たっぷりな性格。努力と根性で大体なんとかなると考えています。
三人目は、芸術家気質で何かを創っていないと気持ちが落ち着かない性格。何かを生み出すことが大好きで、好奇心がとても旺盛です。
四人目は、甘えん坊で、人懐っこい性格。気弱なところはあるけれど、どことなく放っておけなくて、つい甘えさせたくなるような人柄です。
五人目は、お金儲けが大好きで、数字やお金は人を裏切らないと考えている性格。お金の力で世の中なんとかなると考えています。
性格も考え方も価値観もバラバラな5人でしたが、彼らに共通していたのは「もっと新しい世界が見たい」ということ。
今の村だけで満足することが、どうしてもできなかったのです。
巨女の国を目指しても、たどり着けるかどうかはわからない。
命の保障だって、ない。
だけど、このままこの村にいてたところで希望も未来もないことに、五人ははっきりと気づいていたのです。