巨女ノ国 ~#012~

【そのくらい、彼らにとって”生きる”ということは簡単ではなかったのです。ましてや安心や平和の楽園に住むということなど、小人の村の住人にとっては夢のようなお話だったのですから。五人にとっての「希望」は、巨女ノ国そのものだったのです。】

 そうして、夜は更けていきました。

 五人は、巨女ノ国へ向かう日を一週間後と決め、その日に向けて準備を始めました。

 小人が五人乗れるだけのドローンを一台用意し、替えのバッテリーも多めに積みました。食料と飲み物も多めに載せたいところですが、あまりに荷物が多いとドローンの機動力やバッテリー消耗率に影響が出るため、限られた量しか載せることができません。載せられた食料は、約一週間分。一週間で巨女ノ国へたどり着かなければ、かなり危険な状態になります。

 途中ドローンから降りて地上で食料や飲み物を調達することもできなくはありませんが、小人の村の外側になにがあるか、誰も知らなかったのです。食料も飲み物もない、不毛な台地が広がっていないとも限りません。

 五人の旅立ちは、賭けだったのです。

 そして、出発当日。

 小人の村の村人たちも、五人の出発を見送りに来てくれました。中には、村を出ていく彼らを良く思わない人もいました。外の世界に向かっていこうとする彼らに対しては、あこがれや羨望、嫉妬などの様々な感情が生まれるのです。それは、単純に「応援してる」だけでは決して済まされない気持ちでした。

 外の世界へ向かう行動を、誰もが取れるはずなのに、今この現状を変える一歩が踏み出せずに、ずっとこの村で一生を過ごすことを選ぶ村人たち。中には、五人のように生きたいと思う村人もいました。でも、年齢とかリスクとか、あれやこれややらない言い訳を重ねて、結局一歩踏み出す行動をとらずじまいなのでした。

 「気をつけてな」「幸せに生きていけよ」

 そんなありきたりな花向けの言葉を背に、五人は小人の村からドローンで飛び出し、巨女ノ国があるとされている東方へと向かっていったのでした。

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