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映画『熱烈』をこじらせて3ヶ国で26回観た話

9月6日(金)から日本で公開される映画『熱烈』をこじらせている。


❗すごい作品を観てしまった…

この映画を初めて観たのは2023年7月24日、中国に滞在していた時のことだった。

『熱烈』は、私自身ダンスオーディション番組を視聴して以来、観るのが大好きになったストリートダンスが題材の物語で、公開を心待ちにしていた作品だ。

期待を胸に映画館に向かったが、その感動は私の想像を遥かに超え、冒頭から涙が止まらなくなった。涙を受け止めるバケツが膝の上に欲しかった。

国も題材も何もかも違うが、昨年観たインド映画で感じた、スクリーンに向かって拍手を送りたくなるあの衝動が蘇った。

上映が終わり、外に出ると22時を過ぎていた。体温が急上昇したように全身がポカポカするのを感じながら、映画館からの暗い帰り道をふらふらと歩いた。

「すごい作品を観てしまった…」という衝撃が頭の中を埋めつくしていた。

同時に「どうしよう…」と頭を抱えたくなった。脚本、演技、音楽、ダンスシーン、どれをとっても「ここが好き」と思えるポイントしか出てこない。すべてが魅力的で、自分が消化できるキャパシティを超えてしまった。唯一惜しいと感じたのは作品に終わりがあることだ。

帰国の予定はまだ先だったのに、日本に帰るまでにあと何度この目に焼き付けられるか・・・!?と焦る気持ちが急に生まれた。

帰宅してベッドに入っても映画の余韻は冷めず、またすぐにチケットを買った。
その後、私は毎日映画館に足を運ぶことになった。

❗なぜこんなにも心に刺さったのか

私は以前から年間3桁のペースで観劇をしていたほどの大の舞台好きだ。映像よりも生のお芝居を観る方が圧倒的に楽しいと思えるので、基本的には舞台を観ていたい。

『熱烈』の構成・演出には、そんな舞台好きの私に刺さりまくる、生のパフォーマンスに限りなく近いライブ感と迫力があった。最初のシーンの一音目からエンドロールの終わりまで、一瞬一瞬が心を刺激した。

また、私は学生時代に読んだテニプリがきっかけで、生まれて初めてグッズを買ったりイベントに行ったりするようになった。つまり"何かのオタクになる"という経験はテニプリから始まったのだった。

全国大会、目標に向けて団結して努力するチーム、ライバルの存在、得意技・・・私のオタク人生のベースを築いたバイブルを強烈に思い起こさせる要素が『熱烈』には詰まっていた。

気づけば鑑賞回数はあっという間に10回を超えていた。それでも、初めて観た時の新鮮さは失われず、映画が終わる時にはいつも「また観たい」という思いが残った。

❗拍手が起きた映画館

過去に中国で他の映画も観たことがある私の経験上、映画館で明らかに俳優のファンだとわかる人に遭遇することは稀だ。

国全体の映画館が10,000館以上もあるため、あれだけ多くのファンがいても全国に散らばっているのだろう。特定の俳優を目当てに映画を観に来ているという雰囲気が薄いように感じる。

また、日本ではあまり考えられないことが頻繁に起こる。スマホの画面が光りっぱなし(後ろの席に座っていると目がやられる)、電話が鳴る、その鳴った電話に出て「もしもし?今?映画観てるよ」と会話し始める、観客同士ずっと話しているなど。

映画館という同じ空間の中にいても、まるで各々が自宅でテレビを観ているようなカジュアルなムードだ。

最初はこの実態にカルチャーショックを受けたが、何度も何度も同じことが起きるので「なるほど、まあこういうものなんだな」と慣れのフェーズに入っていった。

ところが『熱烈』でその観客に泣かされることになった。

イベントなどが開催されている日でもない、通常の上映回で、後半のダンスシーンで観客が水を打ったように静まり返り、あちこちから拍手が起きたのだった。

まるで映画館全体が一体となったようだった。その空気に感動で胸がいっぱいになった。

❗タイで『熱烈』がくれたギフト

8月の初め、映画の主演・王一博さんと監督・大鹏さんが登壇する舞台挨拶をタイに観に行った。

舞台挨拶前日、バンコクに降り立ち、空港の中を歩いていると、明らかに同じイベントを観に来たと分かるグッズを身に付けた4人が目の前にいた。

話しかけてみると、彼女達はベトナム人のファンだった。その中で唯一中国語が話せて、私と他の子が話す時に通訳をしてくれたのがMちゃんだった。

出会ってからずっとおしゃべりして、入国手続きまで一緒に並んだ。空港を出てからは、同じ電車に乗ってそれぞれのホテルに向かった。翌日は、朝食から舞台挨拶終わりの打ち上げまで行動をともにした。

一緒に過ごしたのは2日間だけだったが、その時間が本当に濃密で、幸せで、別れ際は泣きそうになるほど寂しかった。

この出会い以来、これまでの人生で自分と接点のなかった国が、身近に思えるようになった。ベトナムに関するニュースに自然と注意が向くようになった。Mちゃんも日本に関するニュースを見ていて気になることがあるとWeChatで連絡をくれる。

違う国で生まれた私達が異国の地に集まり、同じ楽しみを共有して仲良くなり、お互いの国に関心を持つようになった。
それはとても美しいことだと思う。

昨年の秋、ついに生まれて初めてベトナムを訪れ、Mちゃんと再会した。

上映から一年以上が経った今でも、私達はよく『熱烈』の話をする。日本での上映が決まったと伝えた時は「観に行きたいよー」と羨ましそうにしていた。

遠く離れているが、ふとした時に顔が浮かんで、元気にしているかな〜と思い出す存在だ。

国境を越えた親友。
私にとって、タイで『熱烈』がくれた最大のギフトだった。

舞台挨拶の王一博さんと大鹏さん

❗熱烈ロス、初の韓国、そして…

タイから中国に戻った後は、仕事終わりに映画館へ通う日々が続き、それから一週間ほどして日本に帰国した。

帰国後は熱烈ロスに襲われた。
通常、中国は映画の公開から数ヶ月でネット配信が行われるが、配信の情報が一向になかったのだった。

冬になると、中国での上映も完全に終了した。どこに行っても『熱烈』を観ることのできない状態になり、やがて年が明けた。

ある日、『熱烈』が3月に韓国で上映されるというニュースを中国のSNSで見かけた。

家族も友人も何度も遊びに行っているので忘れがちだが、私は一度ソウルの空港でトランジットしたことがあるのみで、これまで韓国を訪れたとはなかった。

日本から近いとはいえ、
・一人で
・行ったことのない韓国に
・既になかなかの回数観ている映画を
観に行くか・・・???

さすがに冷静な方の自分がブレーキをかけていた。

しかし、上映が近づくにつれて、行きたい気持ちがは増していった。韓国限定の入場者特典カード。韓国の中でも一部の映画館で限定配布のポスター。謎のプリクラとのコラボ。なぜプリクラなのか??気になって仕方がなかった。

最終的には「熱烈は何度観ても後悔することはあるまい」という冷静でない方の自分が勝って韓国行きを決めた。

Hello Korea

韓国語はアンニョンとカムサハムニダ以外話せない私は、韓国旅行プロの友人達が教えてくれたマップアプリと翻訳アプリが頼りだった。

『熱烈』のためにスケジュールを組んでいるので、もちろん到着した日から映画館に行く予定があった。迷子になる状況も想定し、万全を期してロッテモール金浦空港店の映画館を選んだ。(観光エリア周辺で観てから観光すればいいのにもったいない!!と韓国旅行プロ達に言われた)

韓国版ビジュアルかっこいい
入場特典

2024年初めて観た『熱烈』は心に深く響いた。

CineQという系列の映画館でしか配布されていないポスターをもらいに、シンドリムという駅にあるショッピングモールにも足を運んだ。

ここにあった券売機は韓国語のみで、何が書いてあるのか見当もつかなかったが、表示されている文字すべてに翻訳アプリをかざしてなんとかチケットを購入できた。

自分が写っていないプリクラも欲しくて
無人で撮った1枚

謎のプリクラも撮りに行った(プリ機もすべて韓国語で、熱烈コラボデザインを見つけるまでに時間がかかった)。

3泊4日の韓国滞在も終盤になると地下鉄にも慣れてきて、ホテルから離れた観光地にも足を伸ばせるようになり、大満足の4日間になった。

何年もニュースで目にし、周りの人から話を聞き、蓄積されていた韓国の情報。それを頭の中だけで終わらせず、実際にその国を訪れ、自分で文化を体験することもできたことも本当に良かった。

帰国する朝、26回目の『熱烈』を観た。
もう映画館では二度と観られないだろうと考えると切なかった。

それでも、こんなに幸せをもらえて、夢中になれる作品と出会えたことに感謝しながら、最後の回を目に焼き付けた。

それから2ヶ月後。

日本で『熱烈』が公開されることが決まった・・・!!!!!

ついに自分の住んでいる国でこの映画を観られること、ようやく日本の友達を誘って一緒に観られることに心から喜びを感じた。

映画館でチラシをもらい、本当に『熱烈』が日本に来るんだ・・・とあらためて実感して感激した。

❗新しくできた夢

『熱烈』を観ると、「行動したい」という思いが猛烈に湧いてくる。

作品に登場する人物たちがそれぞれに自分のやりたいことと向き合う姿に勇気をもらった。『熱烈』の登場人物は、一人一人が、形の違う"熱烈"を心の中に持っている。彼らを見て、私も熱烈な生き方がしたいと憧れるようになった。

私は、子供の頃から音楽の道に進みたいと思っていたが、安定を優先し、社会人になって違う道を選んでいた。自分のやりたいことをやっている感覚になれたことはなかった。

大人になるにつれて、失敗を恐れるようになってしまったと感じる。挑戦へのハードルを、自分で勝手に高く設定するようになっていた。

しかし、『熱烈』を観てから、もう結果は気にせずとにかくやってみよう。と思えるようになり、自分が心からやりたかった音楽に再び向き合えるようになった。(ありがたいことに、その音楽関連で年内にイベントに出演できることが決まり、ドキドキしながらも本当に楽しみだ。)

ついていけなさすぎて足が遠のいていたダンスレッスンにもしっかり通うようになった。まだまだ初心者で思うようには踊れない。観るのが大好きなダンスも、自分でやるとなると大違いだ。それでもいつか『熱烈』の曲で自由に踊れたら最高だ。そのレベルに到達したい。

行動できるようになった理由はもう一つある。黄渤さん演じる丁雷の「とある台詞」だ。それは映画のテーマそのものを表す言葉だと個人的に思っている。

その言葉を聞いて、自分の中で変化があった。挑戦した時間は決して無駄にならないと前向きに考えられるようになった。何度でも私の背中を突き飛ばす勢いで押してくれるパワフルな言葉だ。

日本語字幕ではその台詞がどのように解釈されているのか、現時点ではまだ分からないが、公開を楽しみに待ちたい。

❗『熱烈』9月6日(金)公開

『熱烈』をこじらせてからの一年を振り返ってみた。私の人生にもたらしたものが大きすぎる。作品に関わった人すべてに、心からの感謝をお伝えしたい。

映画『熱烈』がある日常が本当に楽しみだ。

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