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文献レビュー「回復期リハビリテーションから、生活期まで、適切な片麻痺患者の短下肢装具および環境への取り組み」(前編)

こんにちは、義肢装具士のみうらです。

今回は装具に関する文献で私が心に刺さったものを紹介しようと思います。

この文献は「日本義肢装具学会誌2017年Vol.33No.3」に特集として掲載されていたもので久米亮一さんが書かれたものです。

以下に原文のPDFを添付します。このブログを読んでいただいて、さらに詳細を知りたいと思ってもらえたら幸いです。

まず、筆者である久米亮一さんですが、株式会社COLABOの代表として地域の義肢装具の問題に積極的に取り組まれています。義肢装具士業界の中では有名な方で、私自身も影響を受け続けています。会社のホームページを見るだけで、地域の問題に真摯に向き合う熱意が伝わってきます。

筆者は退院後の装具のメンテナンス、作り替えを専門として15年に渡り、取り組みをされています。実は、こういった取り組みを専門にする義肢装具士は非常にまれな存在です。

なぜなら、退院後の対応は在宅がメインとなりますので、従来の病院での装具作製に比べると「移動時間」「単価」の面で非常に効率が悪いとされています。そのため、企業は問題を認識していてもなかなか積極的に取り組めない、耳の痛い問題でもあるのです。

しかし、2017年に義肢装具学会誌においてこういった記事が掲載され、多くの方に向けて問題提起がなされました。このこと自体が大変意味のあることで、大きな進歩と言えます。

では、前置きが長くなりましたがここから本題に入ります。

前編は、回復期での装具作製に関する筆者の意見について主観を交えながら解説します。

① 治療用装具作製開始時期の問題

脳卒中発症後の治療用装具は「不良な歩容を学習しないために使用されるべき」と述べられています。これは、乱れた歩容を学習してしまった後の再学習は非常に困難だからです。

このため、出来る限り発症後早期の装具作製が求められます。

もっとも避けたいのは、本人が装具作製に積極的ではないからと言って、作製を先延ばしにし、結局、退院間際に作製することです。

退院間際の装具作製では以下のような状態のままで退院するリスクがあります。

・装具による歩行練習が不足

・装具の調整が不十分

・装具の正しい装着方法が身につかない

・装具の必要性が理解されない

こういった状態のまま退院してしまうと、退院後の装着不良や不使用を引き起こします。

おじいちゃん

退院後の継続した装具療法のために、治療用装具は「可能な限り早期に作製されること」「退院後の生活に配慮して作製されること」が大切であると述べられています。

② 回復期で作る装具の選択

ここでは装具の選択肢として、下記3種類の仕様が挙げられています。

【A】柔らかいシューホンブレース(フレキシブルSHB)

【B】ダブルクレンザック継手式短下肢装具(WクレンザックAFO)

【C】硬いシューホンブレース(リジットSHB)

これらの違いと利点・欠点について説明します。


【A】柔らかいシューホンブレース(フレキシブルSHB)

ここでいう柔らかいシューホンブレース(以下、フレキシブルSHB)とはいったいどういう装具なのか?

そのシューホンが柔らかいのか硬いのか、というのは目で見るだけではわかりません。

ぐいぐい

このように手で背屈方向にたわませてみて、容易にたわむかどうかで判断します。(「何ニュートンの力で何度変化すればフレキシブルである」というような指標はありません。あくまでも感覚です…)

ちなみにオルトップ系のシューホンはフレキシブル中のフレキシブルといった感じでしょうか。

フレキシブルSHBは臨床で頻繁に目にします。それはフレキシブルSHBの「使用者の受け入れの良さ」や「関節の動きを妨げないこと」が理由で処方されることが多いからです。

しかし、その利点ゆえにフレキシブルSHBには大きな落とし穴があることを知っておくべきです。

フレキシブルSHBの落とし穴

①リハビリ室での歩容は安定していても、不整地や障害物の多い場所では歩容が乱れやすいため、退院後の環境に対応できない。

②底屈制動力が不十分であるため、立脚初期~中期にかけて膝のロッキング(Extensions Thrust Pattern)が起こりやすい。

③調節機構がないので、歩容の乱れに気づいても底背屈角度の調整ができない。

膝のロッキング

では、次に調節機構を備えたWクレンザック式短下肢装具について考えてみます。

【B】ダブルクレンザック継手式短下肢装具(WクレンザックAFO)

Wクレンザックと聞くと、足部の靴型の足部覆いをとりつけた装具をイメージする方が多いでしょう。

しかし、ここで例に挙げられているのはWクレンザック継手にプラスチックの足部をとり付けたタイプです。

どちらも、底背屈の制御・制限の調節が可能な装具ですが、後者のプラスチック製のものでは装具の上から靴が履けるので、屋内外の使用が見込まれる生活用の装具として処方されることが多いです。

これらは調節機構を備えているので、フレキシブルSHBで挙げたような退院後の歩容の変化にも容易に対応することが出来ます。

しかし、このWクレンザックにも大きな弱点があるのです。

WクレンザックAFOの弱点

継手部分の消耗が激しく、放っておくと底屈制限をつけていたロットがすり減って、いつの間にか装具が底屈を許していることがあります。そうなると、フレキシブルSHBでも問題となった、膝のロッキングが起こってしまいます。

Wクレンザック

特に、体重が重い人や活動度が高い人は要注意です。少し装具の重量は増えますが、作製段階でステンレス製継手と硬質のロットを選んでおくなどの対策が必要です。

そのような対策をとっても、やはり「活動的な使用者の場合、1~2か月に一度の間隔でロットを調節しなければいけない」と述べられています。

このような頻繁な装具の調整が難しい環境を考慮すると、やはりメンテナンスの必要が少ないシューホンブレースが良いのではないか、という考えに至ります。

そこで、候補に挙がるのが硬いシューホンブレースです。

【C】硬いシューホンブレース(リジットSHB)

以上のような退院後の歩容変化の問題、メンテナンスが難しい環境の問題を考えると、撓みが少なく、かつ消耗の起こりにくいリジットSHBが選択肢として挙がってきます。

確かにリジットSHBはその底屈制動力の高さから膝のロッキングを引き起こしにくいです。しかし同時に背屈制動力も高くなるため、膝に支持性がある方や、麻痺側の足関節背屈が十分に可能な方では、歩行の妨げとなる場合があります。


ここでは取り上げられていませんが、作製時に膝の支持性が確保されていれば、タマラックなどの継手があるもので背屈遊動・底屈制限にする、というのも一つの選択肢です。

後編では、いよいよ生活期における装具の現状と問題点について踏み込んでいきたいと思います。





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