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3分で読めるホラー小説【エレベーターの十三階】

 主人公の沙織は、新しい職場の高層ビルに初出勤の日、奇妙なエレベーターに乗り込んだ。彼女は人より少し残業が多いことを気にしながらも、やりがいに溢れる仕事に熱意を持っていた。

 その日、社内に一人だけ残っていた沙織は、ふと時計を見上げ、帰りの支度を始める。エレベーターに向かうと、誰もいないはずの廊下で「カチカチ」と靴音が響いていた。振り返っても誰もいない。違和感を覚えつつも、エレベーターの扉が開く音がしたので、急いで足を進めた。

 中に乗り込み「1階」のボタンを押す。しかし、エレベーターはなぜか「13階」のボタンを勝手に点灯させた。

 ビルに13階など存在しないことを沙織は知っている。だが、エレベーターは勢いよく上昇を続け、「カチリ」と止まった。そして扉がゆっくりと開いた。

 そこに広がっていたのは、真っ暗な廊下。唯一の明かりは薄暗く点滅する蛍光灯。奥に目を凝らすと、何かが蠢いているように見えた。

「戻らなきゃ……」沙織は反射的にエレベーターに戻ろうとしたが、扉はすでに閉まっていた。ボタンを連打しても、エレベーターは動かない。そして、何かが後ろで大きく息を吸うような音がした。

 振り返ると、影の中から長い髪を引きずった女の姿が、ゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。手には白く濁った瞳が光り、不気味な微笑みが浮かんでいた。

「私を助けて……」その女が囁くように呟いた瞬間、足がすくんで動けなくなった沙織。

 女が迫り、冷たい手が沙織の肩に触れた瞬間、エレベーターのボタンが「ピン」と音を立てた。気づくと、沙織はエレベーターの中に戻っていた。

 「1階」に着いたエレベーターが再び開くと、そこは現実のビルのロビーだった。沙織は駆け出し、ビルから飛び出した。

 翌朝、彼女が同僚にこの体験を話すと、驚いた顔で言われた。

「あのビル、13階は建設中に火事で焼け落ちて、いまは封鎖されてるんだよ。おかしいね……そこにエレベーターは止まらないはずなんだけど」

 沙織は二度と夜遅くにエレベーターに乗らないと心に決めた。それでも時折、夜中のビルで「カチカチ」と靴音が響くようになったと噂されている。

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