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3分で読めるホラー小説【異世界駅の住人】

 日常の忙しさに追われていた俺は、ふと気分転換に知らない駅で降りてみることにした。終電間際の電車に揺られ、適当に選んだ見知らぬ駅。降り立った瞬間、周囲の雰囲気が何か違うことに気付いた。

 駅名を示す看板は見当たらず、薄暗いホームには誰もいない。時計の針は23時を指しているのに、異様な静けさが漂っていた。周囲を見渡すと、古びたベンチが一つ、ぽつんと置かれている。そこには、まるで使われていないかのように、埃が積もっていた。

「こんな駅あったっけ……?」と、心の中でつぶやきながら改札へと歩を進める。だが、改札は見当たらず、出口らしき場所もない。見たことのない路線図が壁にかけられていたが、読める文字は一つもない。

 次の電車が来る気配もなく、不安が徐々に胸に広がる。やむを得ず駅舎の中へと進むと、そこには奇妙な売店があった。薄暗い照明の下、古びた制服を着た売店の老婆が無表情で俺を見つめている。

「ここはどこですか?」と恐る恐る尋ねたが、老婆は答えない。ただ、無言で手招きし、何かを差し出してきた。それは、一見すると普通の切符に見えたが、触れた瞬間に不気味な冷たさが伝わってきた。

「これを持って、出ろ」と老婆が静かに囁いた。

 俺は言われるがままにその切符を受け取り、再びホームへと戻った。すると、どこからともなく、ゆっくりと電車が滑り込んできた。錆びた鉄の音が耳に刺さるように響き、扉が開く。しかし、その中には誰も乗っていない。

 ためらいながらも、俺は電車に足を踏み入れた。扉が静かに閉まり、電車はすぐに動き出す。車窓の外は真っ暗で、何も見えない。不安が募る中、車内のスピーカーから奇妙なアナウンスが流れてきた。

「次は、終点。戻ることはできません」

 心臓が凍りつくような言葉だった。「戻ることはできません」と言われた瞬間、俺は立ち上がり、電車のドアを必死に叩いたが、開く気配はない。車内の灯りも徐々に薄暗くなり、次第に寒気が増していく。

 終点に着いた時、扉が開いた。しかし、その先に広がるのは、荒れ果てた異様な世界。枯れた木々が風に揺れ、黒い空には不気味な月が浮かんでいた。

 俺は電車から降りざるを得なかった。振り返ると、電車はすでに消え失せていた。そして、気づいた。ここはもう、俺の知っている世界ではないことを。

 道もない。建物もない。ただ、静かで冷たい風が吹き荒ぶ荒野が広がるばかり。そしてその先に、ぼんやりと光が見えた。それは、再び駅のホームだった。

 しかし、そこに戻っても帰れる保証などない。俺はどこに行けばいいのか、どうすれば帰れるのか、全くわからなかった。ふと、あの売店の老婆の言葉が脳裏に浮かぶ。

「戻ることはできません。」

 それからどれほど時間が経ったのかはわからない。俺はその異世界の駅に、迷い込んだまま帰れずにいる。時計の針は動かず、次の電車は決してやってこない。

 誰もいないこの駅で、俺はただ、帰りの方法を探し続けている。それが永遠に続くのだろうか。永遠の夜が、俺を包み込む。

 そして俺は気付いた。ここにいる限り、俺もまた、この異世界駅の住人になってしまうのだと。

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