3分で読めるホラー小説【ただならぬもの】第五章:終わりなき悪夢

 暗い廊下を進む三人は、サエコを助けるという薄れゆく希望を胸に抱きながらも、恐怖に支配されていた。廊下の壁に浮かび上がる無数の人影は、彼らにじっと目を光らせ、声なき囁きを続けている。まるで、ここから逃げ出すことは許されないと言わんばかりに。


「もう少し……出口があるはずだ」カズキは自分に言い聞かせるように呟きながら、震える足を進めた。しかし、内心ではこの場所がただの廃墟ではなく、何か邪悪な力に支配されていることを理解していた。ここは、入った者を二度と返さない、終わりなき悪夢の迷宮だった。


 突然、ミカが立ち止まり、カズキの腕を掴んだ。「カズキ……ユウタがいない……」


 振り返ると、そこにはユウタの姿はなかった。ほんの数秒前まで一緒にいたはずの友人が、まるで霧のように消えてしまっていた。代わりに、廊下の奥から不気味な笑い声が響き渡り、二人はその場で凍りついた。


「ユウタ! どこにいるんだ!」カズキが叫ぶが、返事はない。焦る二人の耳には、今度はサエコの声が囁くように聞こえた。「助けて……助けて……」


 その声ははっきりと二人を呼びかけていたが、どこから聞こえているのかは分からない。カズキはミカの手を握り、ゆっくりと廊下を進んだ。彼らは声の方へ導かれるように進んでいくが、道が次第に歪み、廊下の先が終わりのない迷路のようにぐるぐると続いていることに気づく。


 やがて、彼らは廊下の奥に古びた木製の扉を見つけた。カズキは手を伸ばしてノブを回すと、扉はきしむ音を立ててゆっくりと開いた。中には何もない、ただの真っ暗な空間が広がっているだけだった。


「ここに……サエコやユウタがいるのかな……」ミカが小声で言うと、カズキは静かにうなずいた。「もう戻れないかもしれないけど……彼らを置いてはいけない。行こう」


 二人は互いの手をしっかりと握りしめ、恐る恐るその暗闇の中へと足を踏み入れた。次の瞬間、背後の扉が激しい音を立てて閉じ、再び不気味な静寂が二人を包み込んだ。


 暗闇の中で、ふと小さな光が見えた。その光はぼんやりと揺らめき、まるで遠くに出口があるかのように見えた。希望を抱きながら二人がその光に向かって歩き出すと、不意にその光の前にサエコとユウタの姿が現れた。


「サエコ! ユウタ!」ミカが駆け寄ろうとした瞬間、二人の姿が不自然に揺れ始め、まるで溶けるようにして影の中に消えてしまった。


「これは……幻なのか?」カズキが驚愕の表情でつぶやいた。次の瞬間、彼の足元に無数の手が伸び、彼らを闇の底へと引きずり込もうとする。


「カズキ!」ミカが叫び、必死に彼を引っ張ろうとしたが、その手もやがて影に飲み込まれていく。


 彼らは闇の中で叫びながらも、やがて体が動かなくなり、冷たい影の中に完全に囚われてしまった。その瞬間、暗闇が完全に静寂に包まれ、彼らの存在は廃墟の闇に溶け込むように消え去った。


 そして、再び廃墟には静寂が戻り、無人の廊下には何事もなかったかのような静けさが広がった。ここに迷い込んだ者たちは、すべて消え、廃墟は再び静かに彼らを待ち受けるだけだった。


 この場所から逃れられる者は、誰ひとりとしていなかった──

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