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【連載小説】もし、未来が変えられるなら『4話』

 入院する前、時系列はまた前後するかと思うけど、僕にはすごく怖い体験をした記憶がある。世界が壊れていることにまだ気づかなかった頃、僕は自宅のリビングルーム隣にある畳の部屋にいた。両親とどこかに出かける話になった。両親は支度を終え、もう家から出ようとしていた。僕も慌てて着替えて、両親を追った。「待って」と、部屋の奥から玄関に続く廊下へ両親が向かって歩いていくのを制した。両親はその声を聞いて戻ってくる。でもここでおかしなことが起こった。戻ってくる両親は、振り返ってこっちを向いて歩いてくるのではなく、ビデオの巻き戻しのように背中を向けたまま戻ってきた。そしてそれと同様に僕の行動も巻き戻される。両親が部屋まで戻ってきたら、巻き戻しはおさまり、また両親は僕を置いて行こうとする。その両親に向けて僕はまた「待って」と声をかける。そしてまた巻き戻る。何回も巻き戻りを繰り返しているうちに、戻ってくる両親は部屋入り口よりさらに奥まで戻ってくるようになっていた。そして脳裏に嫌な想像がよぎる。このままベランダに近づいていったら、そのうち巻き戻りすぎて両親は飛び降りてしまうのではないか? そう思った途端、急に怖くなった。巻き戻しはまだ続いている。両親はさらにベランダに近づいている。このままではダメだと思った僕は、両親を捕まえた。でもベランダに行こうとする力が強く、引き留めているのがやっとだ。僕はどうしていいか、わからなくなった。両親は僕の手から今にも離れてしまいそうだった。どうしていいかわからず、僕は何を思ったのか息を止めた。これが現実ではないなら、気を失って元の世界に戻りたいと思ったのかもしれない。そのうち意識が遠のいて、僕は気を失った。


 痺れていた身体に血液が徐々に巡っていくのを感じる。全身に血が通っていなかったのに、今生まれたかのように、血液が右半身から左半身に満ちていく。両親が両隣にいるのを感じる。良かった。無事だった。僕は安堵した。全身に血が満ちると、僕は自分の意思とは関係なく、部屋の中を歩いて回った。抗えずに僕はされるがままになる。そして元いた位置まで戻ってくると、自分の意思で身体を動かせるようになった。


 今思うと、僕はこの時、一度死んで生まれ変わったのだと思う。思えば、この時から体質が変わってしまった。僕は自分がまるで人形にでもなってしまったのでは? と思っていた。


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ぽー@ドルオタのぼやき
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