3分で読めるホラー小説【ただならぬもの】第三章:囁きと幻影
診察室から抜け出した四人は、さらに廃墟の奥へと進んだ。行く先々で不気味な気配が付きまとい、彼らは互いに寄り添うようにして歩を進める。壁には古い血のようなシミがこびりつき、天井からは剥がれ落ちた天井板が吊り下がっている。時折、ひゅうっと冷たい風が通り抜け、彼らの肌を凍らせた。
「ねぇ、もう帰ろうよ……ここからどうにか出られないの?」サエコが声を震わせながら言った。
「どうやって帰るんだよ、出口は塞がってるんだぞ……」ユウタがため息混じりに答える。
そのとき、廊下の奥から聞こえるはずのない囁き声が響いてきた。「……助けて……助けて……」
全員が立ちすくんだ。声はどこからともなく漂ってきて、まるで耳元で囁かれたかのようにリアルだった。ミカは両手で耳を覆い、必死にかぶりを振った。「やめて! 聞きたくない!」
しかし、声は止むどころかさらに強まっていく。「助けて……ここから……出して……」
「この場所、ただの廃墟じゃない……何かがいる……」カズキが口を開くと、その瞬間、廊下の奥に白い影がふと現れた。四人は目を凝らし、影に焦点を合わせようとしたが、影は次の瞬間、視界から消えてしまった。
「今、いたよな? 誰かが……」ユウタが怯えた声で呟いた。全員が震えながらうなずいたが、誰もその場から動くことができなかった。
「もしかして……ここで亡くなった人たちの……霊?」サエコが息を呑むようにして言った。彼女の瞳には、恐怖と涙がにじんでいる。
「もう……早くここから出よう。奥に進めば別の出口があるかもしれない。」カズキが強引に先導し、四人はふらつきながらも歩き出した。
さらに進むと、廊下の奥に小さな扉が見えてきた。期待に胸を躍らせ、カズキがその扉を開けようとすると、不意に何かが彼の肩に触れた。振り向いたカズキの目に映ったのは、ぼんやりとした人影――しかし、それはただの影ではなく、口を大きく開けたまま無表情に彼を見つめる、異様な姿だった。
「ひっ……!」カズキが叫び声を上げると、他の三人も恐怖におののきながらその影を見つめた。しかし次の瞬間、影はふっと消えてしまった。
「……もう、限界だ……」ユウタが震え声で言うと、ミカも泣き崩れるようにサエコにしがみついた。
「ここから出られる方法があるはずだ……探し続けるしかない」カズキが決意を固めるように言ったが、その声にはすでに力がなかった。彼らは、この廃墟がただの「場所」ではなく、そこに存在する何かに囚われているのだと、ぼんやりと理解し始めていた。
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