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3分で読めるホラー小説【黒い顔の親友】

 最初に異変を感じたのは、放課後の帰り道だった。夕日に照らされた田舎の一本道を、僕と親友の翔太は並んで歩いていた。いつも通り、他愛のない話をしながら笑っていたが、ふと視線を横に向けた瞬間、翔太の顔が異様に黒く見えた。

 最初は目の錯覚かと思った。夕日が強すぎて影が濃くなっているだけだと自分に言い聞かせ、深くは考えなかった。しかし、次の日も、またその次の日も、翔太の顔は不気味に黒いままだった。

「あれ? 翔太、最近顔の色、なんかおかしくない?」と聞こうとしたが、口にする前に恐怖が先に立った。黒い顔の正体がわからない、でもなぜか言い出すことが怖くて仕方がなかったのだ。

 何日も経ち、僕は少しずつ翔太と距離を置くようになった。話しかけるのが怖い。目を合わせるのが怖い。翔太はまるで何も変わらないように振る舞っていたが、その顔はどんどん真っ黒に染まっていくように感じた。

 そんなある日、翔太は学校に来なくなった。心配して彼の家を訪ねたが、家族は誰も彼の失踪を知らないようだった。おかしい、昨日まで一緒にいたのに。焦りと不安が募り、僕はついに友人たちに相談することにした。

「翔太のこと、最近何かおかしいと思わないか?」

 その時、返ってきたのは驚くべき答えだった。

「誰だよ、翔太って」

「は? 何言ってんだ。翔太だよ、俺の親友の」

 みんなは一様に首をかしげる。「お前、いつも一人で帰ってるじゃん。誰とも話してないだろ?」

 頭の中が真っ白になった。どういうことだ。確かに翔太は僕の親友で、いつも一緒に帰っていたはずだ。じゃあ、あの日々の笑い声や会話は何だったんだ? そして、あの黒い顔の正体は――。

 僕は恐怖に震え、家に帰った。その晩、眠れずにふと気づくと、部屋の隅に黒い影が立っていた。翔太だ。無表情の、あの真っ黒な顔で、僕をじっと見つめている。僕は口を開けたが、言葉が出なかった。

 そして、次の瞬間、翔太の姿は消えた。

 それから、彼のことを思い出すたびに、頭が痛くなるようになった。そして、やがて僕は気づいた。翔太は、最初から僕の中にしか存在しなかったのだ。彼との思い出がすべて幻であるかのように、徐々に薄れていく。

 最後に残ったのは、あの黒い顔だけだった。僕の心の深い闇に潜む、もう一人の自分自身のように。

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ぽー@ドルオタのぼやき
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