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【日記】着物を買うだけのbotと化す

突然、着物が着たくなった。
それも、昭和モダンとか大正ロマンとか言われる、可愛いやつがいい。
知らぬ間に、大正時代を生きたハイカラさんに乗り移られたのかもしれないが、確かめる術はない。衝動に突き動かれるまま、ネットで初心者セットってやつを購入してみる。

まだかまだかと、届くのを待つ。
およそ一週間後、ようやく届いた。
箱を開けた瞬間、私のなかのハイカラさんが、ため息をついた。
それまでのウキウキ感が困惑に変わる。
なんだか、安っぽいのだ。
言うのが遅れたが、私、ジャスト四十歳。
私に似合うのは、もっと高級感あふれるやつなのかもしれない。哀しみとともに、出したばかりの着物をしまう。
しかし、ハイカラさんは、これしきのことで諦めてくれない。

「大島紬」ってやつが高級だと聞いたことがある。浅薄な知識を掘り起こし、メルカリで検索すると、なんと四千円で新品を売っている。
高級着物のはずなのに、スゲーなメルカリ。これはもう私のために用意された品かもしれない、ってことでさっそくポチる。
誠実な出品者のおかげで商品はすぐに届いた。
が、羽織ってみると、なんとも地味なのだ。
地味な顔に、地味な黒茶の着物。顔の色映えも良くない。
またも失敗だ。
顔は変えられないのだから、着物の色味を変えるしかない。
黒っぽい着物がダメなら、白だろって、ことで、またもメルカリで、白地の着物を買う。帯付き3500円の特価品だ。

白地の着物もすぐに届いた。誠実な出品者ばかりだ。
開けた瞬間、
「なんか違う~」
私のなかのハイカラさんが、わがままお嬢のごとき口調で文句を垂れた。
理由は私にも一目瞭然だった。浴衣っぽいのだ。
浴衣を着て花火を見に行きたいわけじゃない。私はもっと、着物って感じのものを着て、情緒あふれる場所を巡り歩きたいのだ。

これ以上の失敗は許されない。財布も悲鳴を上げている。
今更ながら、「アンティーク着物」をググる。
「銘仙」という単語がやたら出てくる。調べてみると、
「大正から昭和にかけての女性の普段着・お洒落着で、鮮やかで大胆な色遣いや柄行きが特徴の先染め織物」とある。
メルカリで銘仙を探すと、出るわ出るわ、ビビッドで、モダンなかわいい着物たち。一気に、鼻息が荒くなる。
これだよ、私が求めていたのは!
矢絣というらしい模様の赤の着物と、紫の幾何学模様の着物、どちらか決めかね、両方購入した。
もはや私は、着物を買うだけのbotと化していた。

イメージ通りの、カワイイ着物が届いた。
これだよ、これこれ。
しかしここで問題が発生した。
今更だが、私は着付けができない。
これまで届いた着物も、文字通り「袖を通しただけ」で、ちゃんと着たわけではない。
が、今はyoutubeでなんでも知ることができる時代だ。youtubeさえあれば、何も怖くない。はず。
大画面で着付け動画を流しながら、姿見の前ではじめて着てみる。

想像以上に、帯が難しい。
これまで費やした額が頭をよぎり、手が滑り、脂汗が滲む。
ああでもない、こうでもないと四苦八苦して、ようやく二時間後、着つけが完了した。
しかし、帯は目も当てられない。めちゃくちゃだ。これじゃ近所のコンビニにだって、行けやしない。どうしよう・・・。

「なんか違う~」
呆然とする私に、ハイカラさんは無情に言い捨て、私の肉体から離れた。


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